メディアグランプリ

無職の私が筋斗雲に乗って仕事を探しに行った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「じゃあ、採用で!」
目の前にいる店長がニッコニコの笑顔で言った時、思わず聞き返した。
「えっ!? いいんですか?」
 
こうして私の再就職活動および15年ぶりの面接は、ほぼ秒で完結したといっても過言ではない勢いで幕を閉じた。
 
ある日曜日、少し暇を持てあましながら私はスマホを触っていた。いつもならX(旧ツイッター)やらYouTubeから流れてくる、文章や動画をダラダラと吸収していくのが常だが、その日は少し違っていた。
 
何を思ったか、私は自宅近辺での仕事が何かないか検索したのだ。するといくつかの仕事探しアプリというものが浮上した。住んでいる地域や希望する職種などを入れると一覧となって現れ、スクロールしていくとさまざまなお仕事が探せるという大変便利なものだ。
 
よくいえば専業主婦、つまり無職の私が、「仕事を再開するのはもうしばらく先かな」と思っていたはずなのに、仕事探しアプリを開いたのはなぜなのか。
それは、小さな理由の集合体かもしれなかった。
 
たまたまおしゃべりした相手の、病気を克服した後、負担の少ない仕事から復帰したという話。
女起業家としてバリバリ働いている人の「やっぱり稼ぎって大事よ」という言葉。
まだ小さいとはいえ、乳児期とは違いだんだんと手がかからなくなっていく子供たち。
好きなことに使っていた小遣いの口座の金額が少しずつ目減りする恐怖。
 
ちょっとずつ心に引っ掛かっていた白いモヤがポワーンと大きく広がって何となく私に仕事を探させた。そんな感じだった。
 
それでもまだぼんやりとスクロールしていた私の手がある箇所でピタッと止まり、目ん玉がカッと大きく見開いた。
 
家からチャリで3分の飲食店。週二回平日3時間からでOK! という文字。
24時間営業のその店はどの時間帯でも働ける。つまり子供が学校や幼稚園に行っている間に少しの時間から入れるらしい。
 
しかも、家と幼稚園のちょうど間にあるため、そのままお迎えに行くことも可能だ。さらに職種は私がバイトで唯一経験した飲食店のホール!
 
なんと! 今の私にピッタリではないか!
にわかにワクワクし始めた頭のなかにいつぞやのキャッチコピーが響き渡った。
 
「THIS IS 最高に ちょうどいい!!」
 
一人目も二人目も高齢出産枠で産んだあと、私は元々のポンコツ脳に加えてマミーブレイン……いわゆる産後に頭の働きが鈍くなり記憶力や判断力が低下する状態となった。とてもじゃないが会社員と育児の二足のわらじを履くことは無理だった。そうして十年ほど勤務した会社を辞めたのである。
 
しかし! 過去に経験のあるホールスタッフならやれそうな気がするし、飲食店の活気のある雰囲気が好きだ!
 
ワクワクに乗せられたまま、名前や年齢など、ごくごく基本のプロフィールを入力し、自己PRには「経験があるし、雇ってくれたらがんばる!」みたいな内容を簡単に書いた。そして、そのままの勢いでポチっと「送信ボタン」を押した。どうなるかはわからないが、とりあえず応募だけでもと思ったのだ。まあ日曜だし、返事は週明けかなぁなどとのんきに構えていたらものの20分で返事がきた。「面接日を決めよう」と言う。採用責任者からだった。
 
返事、はやっ!!!!!
少々驚きながらも、面接日と時間の希望を3つほど入れて送る。これら全て選択式になっているので、文章が失礼にあたらないかなどという余計な心配をしなくていい。先方からのメッセージも見るからに定型文で、お仕事アプリのメニューに沿って案内すれば全て完結できるようになっているのだろう。
 
結局この日の夕方には面接の日時も決まり、週明けには店舗にて責任者とお会いする事になった。仕事探しアプリって、すごい! 紙媒体で学生時代にバイトを探した身としては驚きを隠せないのであった。
 
さて、面接日当日。
この店の募集要項って、私のためのモノっしょ! などと調子に乗っていた日曜とは裏腹に、超久しぶりの面接とあって心臓はバクバクと音を立て始めていた。「社会人」というものから随分と遠ざかっていた私は雇ってもらうに値するのだろうか。
 
通された客席で座って待っていると背後から元気に声を掛ける人物がいた。
「こんにちは! お待たせしました!!」
私より十は若そうな男性が立っていた。この店の店長だった。
 
私も慌てて椅子から立ち上がり自己紹介をする。すぐに面接が始まった。
店長はフワッと大きな体とプーさんみたいに目尻の下がった優しい顔でいろんな質問を重ねてくる。自宅がチャリで3分の近さだということを伝えると「近いっすね~!」と笑った。普段から汗をかきながら仕事をしているせいだろうか、ツヤっとした白めの肌には「清潔感!」と書いてある。
 
なるべく簡潔にハキハキと答えることを意識していたら、店長が私を誉めた。
「〇〇さん、めちゃくちゃ感じいいっすね!!」
 
とっさに出た「外面だけはいいんで!」という私の言葉を聞いてプー店長が「ガハハ!!」と声を出して笑ったので、私も負けじと「アッハッハッ!!」と笑った。
 
なんだ店長、気が合いそうじゃ~ん!
店長も私と同じ「ノリと勢い族」だね、きっと。
 
雇い雇われの条件を一つずつ潰していき、店長が確認するように何度も「うんうん」と頷く。
お? これは? 好感触とみていいのか? この勢いで私を採用しちゃうのか??
 
そんな事を考えていた時、私はふともう一つ大事な条件を提示せねばならないことに気付いた。子供の長期のお休み問題である。夏休みや冬休みなど学校が長期に渡りお休みになる際、子供の預け先がない。かといって子供だけで留守番させるのはまだちょっと早い。となると、店舗には申し訳ないが子供が長期のお休みに入る時はパートのシフトから外して欲しいのだ。
 
「あの、すみません、そういう理由で、長期休みは入れないのですが……」
もしかしたら、これが理由でダメになるかもしれないが、その時は仕方ない。だけど、出来ることならここで働きたい。もうその気持ちは十分高まっている。
 
祈るような気持ちで、返事を待っていると店長は軽い感じで言った。
「うん、大丈夫っすよ!」
 
よかったー! これで思った通りの条件で働ける! ありがてぇええええ!!!
こうして無事、私は飲食店パートという新たな道を歩むことが決まった。軽い気持ちで応募してからわずか2日間の出来事だった。
 
物事の決断や実行の過程には二通りあると思う。
大きな目標やゴールを見据えてコツコツと長期に渡って準備する場合と、条件さえ悪くなければその時のパッションで気の赴くままに決断する場合だ。
今回のパート応募は間違いなく後者だろう。
「コツコツ長期」も人生のいろいろな場面において必ず遭遇するものであろうし、その努力はとても尊い。
 
しかし、目の前に「THIS IS 最高に ちょうどいい」案件が出てきたら、とりあえず飛び込んでみるのも悪くない。その瞬間に飛び込んだ勇気は、ドラゴンボールの筋斗雲のようにマッハの速さで新たな世界に誘ってくれることだろう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事