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フランスで病気になって薬をもらって、労働者視点について考えた


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記事:天狼院太郎(ライティング・ゼミ9月コース)

 
 

1年パリに住んで、日本との違いを感じたエピソードの一つです。
 
4月1日にパリに引っ越して一ヶ月、パリでの新しい生活が始まり、すっかり慣れたと思っていた矢先、予期しない体調の変化が訪れました。ある日、突然、全身に広がる蕁麻疹が現れたのです。
 
元々、アレルギー体質だったので用心して、ステロイドの飲み薬を持参していたのですが、なぜだか効き目がありません。以前は、飲むと直ぐに症状が消える頓服だったはずなのに、さっぱり治る気配がないのです。「ステロイド薬は持続して摂取してはいけない」と医師に言われていたのに、全くかゆみと赤みが止まらず、焦りと不安が高まりました。
 
在仏の日本人に尋ねてみたところ、皆、渡仏して数ヶ月後に体調を崩した経験があるようで、水や食べ物、環境の違いが引き起こす不調ではないか、というのがおおよその意見でした。
もう医者に診てもらうしかないと考えて、旅行保険に問い合わせて、パリ郊外のアメリカンホシピタルに行きました。フランスでは医者の予約を取るのが難しく、病院へはかかりつけ医の紹介状がないといけないとも聞いていたので、保険のおかげでスムーズに予約が取れたのはラッキーでした。しかも、この病院は高級病院なのか、診察室前の待合室は、ちょっとしたホテルのラウンジのような雰囲気です。「さすが、フランスの病院はお洒落だな」と感心しました。でも、もっと驚いたのは、処方箋を持って行って薬局でもらった薬の方でした。
 
パリの薬局は、緑十字のサインを掲げていて、ちょっと注意すれば至る所にあるのに気づきます。夜はネオンで光るので、すぐに見つけることができ、その光景はパリの街並みに溶け込んでいます。ただ、パリの薬局は、お洒落というわけではなく、日本の街角の小さな薬局と同じような感じです。薬の受け取り方もほとんど同じなので、処方箋を近所の薬局に持っていきました。
 
薬局で受付を済ませると、手際よく薬剤師が準備をして、すぐに薬を用意してくれました。渡されたのは、未開封の状態の一箱と一瓶です。何と驚いたことか! 思わず、間違いがないか聞き返してしまいました。「間違いない」との事務的な返答でしたが、不思議で仕方がありません。
 
瓶でもらったお薬を確認すると、日本から持ってきたものと同じ頓服でした。日本では多くても10錠しか貰えないステロイドの錠剤です。大量の錠剤を見た瞬間、心の中で不安が膨れ上がりました。これほど多くのステロイドをもらって、果たして問題はないのでしょうか? これがフランス流なのでしょうか?
 
フランスでの生活にまだ馴染まないので、疑問に思うことがあれば、男女二人のフランス人に聞くのが、当時の私の習慣でした。
まず、パリジャンの薬剤師に尋ねてみました。彼によると、これがフランスでは当たり前の方法で、全く問題ないとのことです。瓶といっても、彼に言わせればそれほど大量ではないはずで、もし薬が多ければ必要量を飲んで、後のために取っておけば良いとのことです。
次に、日本の事情もよくわかっている在日フランス女性に、連絡して聞いてみました。彼女は、どうやら日本のやり方の方がおかしいと思っている様子。そもそも、日本では薬剤師が勝手に箱や瓶を開封することに、安全かどうかが心配だと言います。さらに、日本の薬剤師がハサミでチョキチョキと錠剤を切っているのが、不可思議だとか。確かに日本の薬局の調剤室では、薬を探し出して、必要量を小分けしている時間が長く、薬剤師さんがかわいそうにも思えてきました。そして、「お大事に」という言葉はフランスでは言わないらしく、彼女には「ありがとうございました」という決まり文句にしか聞こえないそうです。
 
改めて考えてみると、日本のように細やかに薬の在庫管理するのは、とても神経を使うことでしょう。フランスで薬を小分けにしないのは、薬剤師の負担を軽減のためでしょうか。だから、薬を適宜飲むのは、患者側の自己責任といった態度でしょうか。このちょっとした薬局での出来事が文化の違いを際立たせました。
 
フランスでの生活は何かとトラブルが多く、自己判断と自己責任、そして自己主張の積み重ねが必要です。日常的にストライキが行われることからもわかるように、皆が強く権利を主張するお国柄で、国民がそれを容認しています。中々、ストライキを容認する国民の心理がわからなかったのですが、なんだかわかった気がしました。そうなのです。薬局での薬の渡し方も、労働者の仕事量を考えて採られた方法で、それを皆が容認しているのでしょう。
 
日本は患者に配慮して、薬剤師が必要量を数えて袋に詰め、薬の効用や飲み方を記した紙を印刷して渡します。薬の数を数えることに神経を使って時間を取られていますが、その不満は言いません。患者が使いやすいように準備をしてくれます。でも、患者に声がけする「お大事に」という言葉を「ありがとうございました」という言葉に変えれば、顧客に対して店側が細やかな配慮をしているという構図です。日本は顧客優先の文化なのです。
 
必要量に切られた錠剤、それを入れた袋の上書き、お薬手帳に貼られた紙、薬の効用を印字した紙、調剤明細書、そして薬局での待ち時間は、日本独自の考え方の結果なのです。そんなわけで、どちらが良いかは、一概には言えませんが、箱や瓶ごと薬を渡すというシンプルなフランスの方法に直面したことで、日本のやり方が、顧客への細やかな配慮の末にできていることに気づきました。
 
日仏の薬局システムを比べ、それぞれの文化が築き上げてきた「当たり前」に触れることで、考え方も少しずつ変わってきました。渡仏して一ヶ月目の体調不良がきっかけで、日本での既成概念が少しずつ崩れ、労働者の立場に立つという視点ができました。

 
 
 
 
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2024-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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