メディアグランプリ

引きこもりの君に教えられた、沢山の大切なこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:せきやようこ(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「お母さん、僕、ちょっと外に行ってみたいと思うねん」
 
 
もしも子供にそう言われたら。大抵の親は、「はあ、どうぞ」と思うだろう。
だがそれが、不登校になり、外にもほとんど出られない状態を、年単位で過ごした子どものセリフだったら、どうだろう。
 
 
次男は小学2年生の時に、学校に行けなくなった。俗に言う「不登校」だ。理由は分からない。お友達も多かったし、先生も優しかった。親バカフィルターを差し引いても、ある程度勉強もできたし、運動も嫌いではなかった。学校に行けない理由が、何一つ思いつかなかった。私はもちろん、夫も、祖父母たちも、そして先生も、どうしてそんなことになったのかが分からなかった。
 
 
さらには、学校に行けないだけではなく、外に出られなくなってしまった。
 
「ギリギリまでは、行きたい、行こうって思うねん。でも、玄関に立ったとたんに、体が震えて、外に行かれへんようになるねん」
 
これは、ある日ぽつんと次男が呟いた言葉だ。まだ7つくらいの年で、同じくらいのお友達は、無邪気に外を走り回っているのに、どうして次男だけがこんな思いをしなければならないんだろう。当時の私は、次男の心の中を想像すらできなくて、ただひたすら心配し、悲しくなった。
 
 
ところが、どこにでも仲間というものは出来るし、同じような経験をしている人もいる。
 
 
情報を求めて右往左往しているうちに、不登校の親の会という存在と出会った。そこに参加するようになって、私は次第に、「理由が分からなくても、学校に行けないことがある」と知った。
そして、会に参加し、色々な体験談を聞いていくうちに、次男の不登校を受け入れることができた。
 
「毎日、楽しいを積み重ねて行くんだよ。小さな小さな楽しいでいいから、積み重ねて行く。そうして、楽しいを積み重ねて行った先の未来が、突然辛く苦しいものになることはない、そう思わない?」
 
そう言ったのは、当時高校生くらいのお子さんがいる、お母さんだった。その言葉が、私には一際響いた。
そうだ、私が心配していたのは、不登校になった次男の将来が、辛く、重たいものになってしまうのではと思ったからだ。暗く、どんよりとした顔で、家族とも話をせず、1人で自室で食事をして、塞ぎ込む。そんな状態になることが、心配だったんだ。
 
でも、毎日毎日、小さな楽しいを積み増さねた先を想像すると、そこには笑顔しかなかった。もしかしたら、笑顔でずっと家にいる、ニートになるかもしれない。でも、楽しく過ごせているのならば、それでもいいと思った。
それに、今はITがどんどん発達してきている。もしかしたら将来は、家からも出ず、誰にも合わずに、仕事が出来るようになっているかもしれない。そう思うと、大きくて重苦しい「不安」という塊が、ふわっとした軽い何かに置き換わったような気がした。
 
そう思って以来、無理をして家で勉強させたり、無理やり外に連れ出そうとしたりすることをやめた。
勉強は、あとでいくらでも取り戻せる。外に行かないのは心配だけれど、足が震えるなら仕方がない。それよりも、今、次男が楽しいと思うことを、積み重ねるんだ。
私と一緒に遊びたいなら、とことんまで遊ぼう。ゲームがしたいなら、とことんすればいい。
 
 
「お母さん、僕、やりたいことがある」と言う言葉は、そうやって「楽しい」を積み重ねた日々を送るうちに、次男が言った言葉だった。不登校になり、1年か2年が経過していたと思う。
私は俄然、喜んだ。そりゃあもう、天にも昇る気持ちとはこのことか、とさえ思った。
だから、私は堰を切ったように、こう捲し立てた。
 
 
「どこにいく? 動物園? それとも、水族館? そういえば、こないだあなたが見ていた動画で、アスレチックパークで遊ぶってのがあったよね。大阪にも似たようなところがあるよ。何なら、旅行に行ってみる? 海外だっていいよ!」
 
 
ところがどっこい。ああ、なんということだろう。ウキウキと空想の世界に行ってしまった私に、次男がぶつけた言葉はこうだった。
 
「あのさあ、僕、外に行ってみようかなって言ったけど、行くとは言ってないねん」
 
 
一瞬、意味が分からなかった。でも、よくよく考えると気がついた。
そうだ、次男は確かに「行ってみようかな」と言っただけで、「行く」とは言っていない。
さらに次男は続けた。
 
 
「あんな、まだ本当に外に行けるほどは、心が元気じゃないねん」
 
 
うわあ、なんて的確に自分の状態を表現するんだろう。勝手に都合よく解釈した挙句に、暴走してしまった自分が恥ずかしい。
でも、本当に嬉しかったんだ。あの辛かった日々を通り越して、やっと「外に行ってみようかな」と思えるほどに、心が回復してきたことが。
そして、私は自分が思った以上に、子どもに対してお膳立てをしてしまうようだ。過干渉は、子どもの成長に取って、百害あって一理なしだと、親の会でも散々言われたじゃないか。
先回りしてお膳立てをするのではなく、子どもが自ら動くのを、後ろから黙って見守ること。大事なのは、転ばせないことではなくて、転んで立ち上がれない様子の時に、そっと手を差し伸べることだ。
 
まだ10歳にもならない次男に対して、妄想が大爆発したことを素直に謝った。
「まだ本当には外には出ない」と言って、少し気まずそうな顔をしていた次男の表情が、ほっと緩んだ。きっと、私が悲しむと思って、少し言いにくかったのだろう。
 
思えば不登校になった次男を通して、本当に沢山のことを教えてもらった。楽しいを積み重ねることもそう。私が過干渉気味だということもそう。他にも大切なことを、沢山沢山教えてもらった。
 
あれから数年の時が過ぎた。次男の不登校は8年目に突入したが、外には気軽に出られるようになった。勉強も、1人でコツコツと取り組んでいる。
小学生の頃に、外で思い出を作ることはほとんど出来なかったけれど、一緒に過ごしたお家での日々は、小さいけれど大切な「楽しい」思い出となって、私の心の中にある。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2024-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事