叱られ上手な秘書
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記事:かのん(ライティング・ゼミ9月コース)
「もし、私の機嫌が悪かったらどう対応しますか?」
約30年前、社長秘書の採用面談で、後に上司となる社長(以降、ボスと表現する)からの最初の質問がこれだった。
面談に際し、いくつか質問を想定し答えも準備していたが、いきなり、こんな質問が飛んでくるとは思ってもみなかった。でも、何か答えなくてはいけないと思った瞬間、
「放っておきます」と答えていた。
同席していた人事総務部長が、ちょっと驚いたように履歴書から目を上げた。でも、質問した本人が可笑しそうにしている表情を、私は見逃さなかった。そして続けた。
「しばらくしてからお茶でも入れて、お好きそうな話題に触れて、ご機嫌がなおってきているか様子をみます」
この答えが採用につながったのかどうかわからないが、後日「採用」との連絡があった。
入社後、退職予定の前任の秘書がこっそり教えてくれた。
「他にたくさんの候補者がいたけれど、ボスが「他の人は優秀すぎて、失敗を恐れそうだし、失敗して注意したら折れそうだった。でも、最後に受けた人(私)は、失敗しても立ち直りが早そうだから、気兼ねなく叱ることができそうなんだよね」ということで決定したらしいわよ」と。
えっ? 気兼ねなく叱れる? これが採用の決め手なの?
わずかに救いと思ったのは「怒る」でなく「叱る」という言葉を使っていたことだが、私はとんでもないところに入ってしまったのではないかと不安になった。でも、既に入社し、新しい名刺を受け取った後だった。
約20年間、私はボスの秘書をしてきた。
入社時に、人事総務部長から「最低5年間は働いてもらいたい」と言われた。当時、私は20代後半。5年先のことなんて全くわからない。約束できない。と思っていたが、5年はあっと言う間に過ぎた。そして、ボスが社長を引退するまで秘書としてなんとか全うできた。と思っている。
こうして始まった秘書業務。予告されていたように、失敗しては叱られること数知れず。
でも、今、振り返ると、大変だったが楽しい日々でもあった。
最初の失敗は入社してすぐのこと。ダブルブッキングをしてしまった。
慌てて、ボスに報告した「申し訳ございません。大変なことをしてしまいました」
ボスは「誰か死んだのか!」と椅子から立ち上がった。
私は少し冷静になり「いえ、誰も亡くなっていません。怪我もしていません。ダブルブッキングをしてしまいました。今、2名のお客様がそれぞれ違う場所でお待ちになっています」
ボスは「どうしたらミスを取り返せるか考えろ。私は君の上司だが、会社全体を考えなるのが仕事だ。君の面倒を見るヒマはない」と言い残して、オフィスから出ていった。
待ちぼうけになってしまったお客様には大変申し訳ないことをしたが、確かに命にかかわることではないと思うと気が楽になり、取り返す方法を考え、何とか対応できた。
あの血がひくような感覚は二度と味わいたくないので、それ以来、スケジュールには慎重になりミスはしていない。
また、日常的にこのようなことも多かった。
朝、ボスが出社するやいなや「昨日のメール読んだ? 返信はまだ届いていないよ」
パソコンの電源をいれたばかりである。急いでメールをチェックすると、深夜の2時、3時に送信している。ひらめきタイプのボスは、思いついたらすぐに言わないと忘れると言っていたが、さすがに、真夜中に電話してはいけないと思いとどまり、メールを送ってきていた。
他にも「まだやっていないの?」と言われることばかり。ボスとのスピード感覚の差が大きすぎてついていけないかもしれない。と何度も落ち込んだ。
でも、私も「申し訳ありません」と、ただ謝っているだけではダメだと思い、対応策を考えた。
朝、ボスから催促される前に、出社30分以内にボスからのメールの返信をすると約束をし、猶予時間をもらった。他のことも、お互いに期限を「〇日×時まで」と明確に伝え合うことを習慣化するようにし、その期限を守った。
そして、「ストレングス・ファインダー」というアセスメントを使い、ボスと私の資質を理解した。こんなに違うのだから仕方ないと、自分自身を許せるようになり、精神的に楽になった。
(ストレングス・ファインダーについては、いつかライティング・ゼミに投稿したいと思っている)
ボスからは何度も叱られたが、どのようにしたらいいかは教えてくれない。指示もない。
「自分で考えろ。それが仕事だ。私はお茶くみやスケジュール管理をしてもらうための秘書は要らない。For Boss でなくWith Bossとして、意見を言ってくれないと困る」と言われ続けた。
周囲からは「よく秘書が務まるね」と言われることもあったが、私は楽しんでいたのだと思う。そうでなければ、約束の5年で辞めていただろう。
ボスが引退する時に「君のおかげでやってこられた。今までありがとう」と感謝の言葉をもらった。
でも、感謝するのは私の方だ。ボスのおかげで、今の私がいる。
「ミスは取り返せる」「今出来ていないことは成長の伸びしろ」という思考が、いつのまにか私の中にインストールされていた。
「徹底的に考えろ」「提案は最低3案出せ」と言われ続け、私の思考体力は鍛えられた。
そして、今は次のボスから「仕事を辞めたら退屈でボケちゃうよ。もっと可能性を考えて」とプレッシャーをかけられている。
失礼な!と思いながら、叱られ上手な私の脳みそは、今日もフル回転している。
***
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