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いい人仮面とほどほど星人~何事もほどほどが一番なの?~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村川久夢(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

※この記事はフィクションです。
(1)
「いい人仮面、絵を描いているのかい」
「あ! ほどほど星人! 森があまりに美しかったからね」
 
「いい人仮面」と呼ばれた男は、絵を「ほどほど星人」と呼ばれた男に見せました。
 
いい人仮面はとても恥ずかしがりで臆病なのです。自分の素顔や本心を見られるのが怖くて、仮面をつけています。「ほどほど星人」と呼ばれた男は、徹底してほどほどを守り、一度も失敗しない自信家です。
 
ほどほど星人が絵を見た時、一瞬ですが、彼は顔を歪めて暗い表情になったのでした。心に違和感が重く広がったのです。ほどほど星人は、すぐに平静な顔に戻しましたが、黒い影が心に広がっていくのを感じました。
 
「どうだい? 僕の絵は?」
「ああ。いい絵だよ……」
 
ほどほど星人は笑顔で答えましたが、目は笑っていませんでした。いい人仮面は、ほどほど星人の笑わない目が、いつも怖く感じていたのです。いい人仮面は落ち着きませんでした。
 
 
 
(2)
そこへいい人仮面の友だちのまっすぐ星人がやって来て絵を見たのです。
 
「素敵な絵だね~! 僕にも描いて」
「いいよ。すぐに描くからね」
 
いい人仮面はスラスラと森の絵を描いて、まっすぐ星人にあげたのでした。
 
まっすぐ星人が帰るのを、ほどほど星人は笑顔で見送りました。でも、イライラを必死で抑えていたので、顔がこわばったのです。背中に油汗がにじみ出て流れるのも感じました。しかし、平静を装って、いい人仮面に言ったのです。
 
「絵はいい趣味だよ。それで人を喜ばせるのもいいことだ。でも、舞い上がってはいけないよ。ほどほどにね」
 
ほどほど星人はそう言うと帰って行きました。
 
—そうだよな。僕はうれしいとすぐに舞い上がってしまう。ほどほどがわからないからな……。
 
いい人仮面は落ち込んでしまったのです。
 
 
ところが翌日、まっすぐ星人の友だちがやって来て「僕にも絵を描いて!」と言ったのです。それから「絵を描いて」と言う人が次々に現れました。
 
「素敵な絵だね! 部屋に飾るよ」
「眺めていると気持ちが落ち着くよ」
 
みんな大喜びで帰って行きました。いい人仮面はすっかりうれしくなって、絵を描き続けました。
 
すると、またそこへほどほど星人がやってきたのです。いい人仮面は彼の姿を見ると、心がザワつきました。
 
「きみも森の絵がほしいのかい?」
「いや、僕は遠慮するよ。でも、前も言っただろう? ほどほどってことを忘れちゃダメだって!」
「友だちが喜んでくれて……」
「友だちが喜んだからって、真に受けるなんて……」
 
ほどほど星人は呆れたように言って、冷たい表情で帰って行きました。
 
—友だちが僕の絵を好きだと言ってくれるとうれしくて……。僕の絵なんかたいしたことないのに……。僕はバカだ! でも、褒められてうれしくなることは、そんなにダメなことなのか?
 
いい人仮面は葛藤し、頭を抱え込んだのでした。
 
 
みんなが森の絵を描いてもらった頃、友だちの喜ぶ顔を見て、いい人仮面は、やっと元気を取り戻しました。
 
そして、森の思い出や絵を喜んでくれた友だちの笑顔をポエムにしたのでした。いい人仮面がポエムを朗読していると、
 
「いい人仮面、素敵なポエムね!」
「あ、デリケート星人。森の思い出をポエムにしたんだ」
「私にもポエムを書いて!」
 
ポエムを書くことが何より好きないい人仮面は、大喜びでポエムを書き、デリケート星人にあげました。しばらくすると、デリケート星人の友だちが、ポエムが欲しいと言って現れたのです。
 
「いい人仮面のポエムは癒される」
「心が落ち着く」
 
いい人仮面のポエムは評判になり、次々とポエムが欲しいと言う人が現れました。いい人仮面はうれしくてたまりませんでした。
 
そこへまた、ほどほど星人がやって来たのです。いい人仮面は、彼の姿を見ると、幸せな気持ちに、冷たい水をかけられたような気持ちになりました。
 
「ごきげんだね!」
「みんなが僕のポエムを『素敵だね』と言ってくれたんだ!」
「ポエムを作ることはいいことだ。でも、友だちは本当にきみのポエムをいいと思っているのか? すぐにほどほどを忘れるきみのポエムを……」
 
 
 
(3)
その時、さすがのいい人仮面もムッとした気持ちになりました。
 
—なぜ、ほどほど星人はいつも「ほどほど」って言って、僕を嫌な気持ちにさせるんだろう……。ひどいじゃないか!
 
森の絵を喜んでくれた友だちの笑顔、森の思い出のポエムを好きになってくれた友だちのうれしそうな顔が浮かんだのです。
 
一方、ほどほど星人は、顔を歪めた皮肉な表情でした。みんながいい人仮面の絵やポエムに感動していたことや、いい人仮面の幸せそうな表情が我慢ならなかったのです。
 
いい人仮面は、ほどほど星人の嫌味な顔を見ていると、我慢しきれなくなって、叫んだのです。
 
「僕がほどほどだったら、森の絵もポエムも、あんなにお友だちを喜ばせなかったよ」
「ほどほどもわからないくせに! 僕はきみのために言ってあげているんだ!」
「きみの方こそ、人の楽しい気持ちに水をさすのは、ほどほどにしたらどうなんだい!」
「黙れ! ほどほどの大切さがわからないくせに!」
 
いつもは穏やかないい人仮面も冷静を装っているほどほど星人も、興奮して、ことばの調子がきつくなっていました。
 
「僕は先祖から受け継いだ家や土地を守らないといけないんだよ! 失敗は許されない! きみのように、下手な絵を描いたり、ヘボポエムを書いたりして、気ままに暮らせないんだ!」
「僕のポエムがヘボだって! 友だちが喜ぶなら、僕は何度だって書くんだ!」
 
ポエムをけなされたいい人仮面の目から悔し涙がボロボロこぼれたのでした。
 
「すぐにほどほどを忘れるくせに! 僕はほどほどってことがわかっているから、一度も失敗したことがないんだぞ!」
「失敗したことがなくても、誰かを一度だって喜ばせたことがあるのかい!」
 
いい人仮面のことばがほどほど星人の胸に突き刺さりました。ほどほど星人の心に、彼が密かにかいた絵やポエムが浮かんだのです。家を守ってほどほどに生きるために、誰にも見せることができなかった絵やポエムが……。
 
いい人仮面の絵やポエムが友だちを喜ばせるのを見るたびに、ほどほど星人の心には嫉妬の炎が燃え上がっていたのでした。
 
 
 
(4)
「黙れ! 家を守ってほどほどに生きるのが一番なんだぞ!」
「勝手にしろよ! 僕は人を喜ばせるポエムや絵をかいて生きるよ!」
 
思いもしなかったいい人仮面の反撃に、ほどほど星人は驚きました。
 
 
お互いの興奮が治まった頃、いい人仮面はほどほど星人が哀れに感じたのです。ほどほど星人は、いつもほどほどで失敗しませんが、大好きなことも、何かに夢中になったこともないのです。
 
この時、ほどほど星人は、自己表現できるいい人仮面を羨ましく思う自分を、初めて受け入れられそうに感じたのです。
 
「いつか君にも僕の絵がわかるといいんだけどね」
「そうだな……」
 
—僕は他人に流されず、大好きなポエムや絵をかき続ける!
 
いい人仮面は心静かに誓ったのでした。

 
 
 
 
***
 
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2024-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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