揚げた鶏肉がくれる特別な時間
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記事:大塚 久(ライティング・ゼミ9月コース)
「うわ、おいしい!」
ある日、いつものウォーキングの途中でふとファーストフード店に寄った。そこで久しぶりに揚げた鶏を注文し、一口かじると、その瞬間、思わず声が出てしまった。サクサクとした衣の食感と、噛むごとに溢れ出すジューシーな鶏肉の旨味。どうして、揚げた鶏はこんなにも美味しいのだろうか? 世の中には揚げた鶏肉があふれている。唐揚げに始まり、人気のフライドチキンチェーン、コンビニのホットスナック。それぞれが独自の魅力で、多くの人々を引きつけてやまない。
揚げた鶏の美味しさは、その「カリッ」とした衣と、噛んだ瞬間にジュワッと溢れる肉汁にある。衣は高温で揚げられることでサクサク感が生まれ、中の肉はそのジューシーさを失わない。この対比こそが、揚げ物の醍醐味だ。しかし、どうしてそんなコントラストが生まれるのか、詳しくはわからない。ただ、その結果が美味しいことは、確かだ。
あるフライドチキンの専門店では、特別な調理法が使われているらしい。圧力をかけながら高温で揚げることで、肉は驚くほど柔らかくなり、揚げ物特有のカリカリ感が長時間続くという。技術の裏側をすべて知っているわけではないが、あの一口の幸福感は、それを知る必要すら感じさせないほどだ。
それに対して、僕が食べた揚げた鶏の衣はまた違った特徴を持っている。米粉が使用されていることで、カリッとした食感が驚くほど長持ちする。米粉は水分を吸いにくいらしいが、その細かい原理を知らなくても、サクサクの衣が最後の一口まで続くことは一目瞭然だ。どちらの揚げた鶏肉にも、それぞれの工夫があるが、口に運んだ瞬間に生まれる感動には、共通点がある。
揚げた鶏肉の魅力は、食感だけにとどまらない。香りや風味も重要な役割を果たす。フライドチキンの専門店では、11種類ものハーブとスパイスを使って、独自の複雑な風味を生み出しているらしい。しかし、その具体的なレシピはごく限られた人間しか知らない秘密だ。口に入れた瞬間、スパイスの調和が肉の風味を引き立て、ただの揚げ物とは違う深みのある味わいが広がる。
一方、僕が食べた揚げ鶏の味付けには醤油が使われており、その醤油が肉の旨味をさらに引き立てている。醤油に含まれるグルタミン酸は、旨味成分として有名だが、それだけでなく、下味に使われる塩や砂糖との絶妙なバランスが、シンプルでありながら奥行きのある味を作り出している。ムネ肉が使われているが、驚くほどしっとりとしていて、あっさりとした味わいが印象的だ。
また、揚げ物の香ばしい風味は「マイヤード反応」という科学的現象によるものらしい。タンパク質と糖分が高温で反応し、揚げ物特有の香ばしさを引き出す。揚げた鶏肉の表面にこの反応が現れたとき、私たちの嗅覚を通じて、すでに食欲はかき立てられている。そして、その香りに続いて、期待を裏切らない深い味わいが口の中に広がる。
家庭でも唐揚げは作ることができる。僕が最近よく作っているのは「梅唐揚げ」だ。鶏肉を梅肉に漬け込み、粉をまぶして揚げるだけのシンプルな料理だが、その味わいは驚くほど深い。梅の酸味が鶏肉の旨味を引き立て、揚げたときの香りが一層爽やかだ。鶏肉を柔らかくする効果もあり、梅肉が染み込んだ唐揚げはジューシーでありながらもさっぱりとしている。食欲をそそるその風味は、ただのシンプルな料理ではない。
また、家庭で唐揚げを美味しく仕上げるための技法として「二段階揚げ」がある。低温でじっくりと火を通し、その後、高温でサッと揚げることで、外はカリッと、中はジューシーに仕上がる。揚げ終わった後に少し休ませると、鶏肉の中まで熱が行き渡り、均一に温度が保たれる。この一手間で、家庭でもプロ顔負けの唐揚げが楽しめるのだ。
揚げた鶏の美味しさは、味覚や嗅覚だけにとどまらない。調理の時の「ジュワーッ」という揚げる音、そして衣を噛んだときの「カリッ」という音。それらは、食事をただの栄養摂取から特別な体験に変える。高温の油に鶏肉を落とすときに聞こえる音は、期待を膨らませ、衣を噛んだ瞬間の軽快な音が、その期待に応える。食感、香り、そして音が一体となり、私たちの五感を刺激する。
そして、口に運んだとき、カリッとした衣の向こうから肉汁がジュワッと溢れる。その瞬間、食事は一つの完結した体験として、脳に強烈な満足感を刻む。揚げた鶏の音と香り、そして食感。それは、ただの食事ではなく、特別な時間へと変わる。
揚げた鶏肉は、世界中で愛されている料理だ。それぞれの家庭で、揚げたての鶏肉が並ぶと、台所から漂う音や香りが食卓を包む。気づけば、心の片隅にその瞬間が残り、いつかふとした瞬間に顔をのぞかせるのかもしれない。誰もが揚げたての鶏肉を口にするたびに、あるいはただその香りに包まれるだけで、その奥にある記憶がふと蘇るのかもしれない。
僕が家で作る梅唐揚げも、ただの食事を超えた一品だ。揚げたてを一口かじると、梅の酸味が思い出の味を引き立てる。それは、単なる栄養以上の意味を持つものだ。食べ物は、栄養以上のものを秘めている。ある時は記憶、またある時は感情を引き連れ、言葉にはならない特別な瞬間を運んでくる。揚げた鶏肉という料理は、その体験の象徴に過ぎないのかもしれない。その特別な味が消えても、台所にはまだほんのりと香りが残る。揚げたての鶏肉が、誰かの心に静かに刻み込まれていくのだろう。
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