母ちゃん、ごめん。お弁当苦手なんだ。
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記事:izmy(ライティング・ゼミ9月コース)
母の真心が詰まった、手作り弁当。
私が小さな頃から、母は体調の良い日も悪い日も、早起きして、お気に入りのおかずを入れて、作ってくれていた。
でも、実は、私はお弁当が苦手だった。
唐揚げやハンバーグ、小さなソーセージに爪楊枝を刺してホットケーキミックスの衣をつけて揚げるミニアメリカンドッグは、大好物のおかず。
しかし、どうしても好きになれなかったのが「お米」だ。
お弁当箱に入ったお米は、日によってパサパサしていたり、べちゃっとしていたり、どうにも口当たりが悪い。母が作ってくれていた苦労と愛情表現を、子ども心ながらに感じていたので、苦手の気持ちは秘密にして、おかずと組み合わせながら食べ、飲み込んでいた。
私も料理ができるようになり、勤め出した母を助けるために、夕食を作るようになった。自由奔放な母は「油物は苦手だ」とか「味噌汁はあんまり飲みたくない」と忌憚なく言う。
普段は「ふーん」と受け流していたが、虫の居所が悪い日に、飲み込んだはずの言葉を解き放ってしまった。
「お母さんが自由に言うから私も言うけど、お弁当が苦手なんだよね。特に米が無理」
「そんなん初めて聞いたわ! ずっとイヤイヤ食べてたわけ?! 私の料理がマズいってことでしょ!」
ちがうんだ、パサついた米が苦手であって、母の料理が苦手なわけではない!
と言っても、あとの祭り。
その日から、母は事あるごとに「私の作った弁当、イヤなんだもんね」と言う。
あぁ、失敗した。
やはり、感情にまかせて言ってはいけない言葉だった。もうどんなに謝っても許してもらえなさそうだ。
その後も、お弁当のお米問題は解決しない。
少しでもおいしく食べられるように、と、表面にラップをかけたり、ちょっと高価なお米にしたり、水を多めに炊いたりと、試行錯誤したが、それでもパサついている。
ランチの気持ちが明るくなるように、と、好きなキャラクターがフタに描かれた可愛いお弁当箱。プラスチック製の安価なもの。しかし、使い始めて半年くらいで、本体とフタの歪みが出て、ぴったりと閉まらなくなったり、箱に残ったにおいが気になるようになった。
また、お弁当箱を買わなくては……と、好きなキャラクターのグッズショップで、お弁当箱コーナーの前で、にらめっこ。
いつもの安価なプラスチックのタッパー形式や、保温ジャー式、二段重ね式など、いろいろな大きさや形状がある。
「漆器タイプ、山中塗り」に目がとまった。
え? お弁当箱に漆器?
ポップには「フタをしたまま電子レンジOK、気密性あり」と書いてある。そうそう、フタを開けてレンジにかけるのが、面倒だったのよね〜。
白い表面に絵柄が描かれていて、シンプルな四角形。価格は2,600円。えっ?! ちょっと他の弁当箱より高くないか?!
うーん……と売り場の前で悩み、「山中塗り」というポップを再度見る。商品を手に取り、レジに向かった。
決め手は「日本の伝統工芸を応援したい気持ち」だ。
漆器のお弁当箱デビュー初日。
母が「私の分も作るついでに、あんたの分も作るね」と持たせてくれたお弁当を、そのまま電子レンジにかける。休憩室でフタを開けると、白米と煮物中心のおかずが詰められていた。
おや? なんか、お米の表面が光っているような気がする。
「いただきます」
小さくつぶやいて、お米を口に運ぶ。
「もちっとして、うまい!!」
ごくごくシンプルな中身のお弁当を、こんなにも美味しく食べられることに感動した。
帰宅して、母にさっそく声をかけた。
「お弁当を作ってくれてありがとう! ちなみに、お米に何かした?」
「いや、いつものように詰めただけよ」
「あのさぁ、お米が輝いてもちっと美味しくてさ! たまげたよ! お弁当箱がすごいのかな?!」
「へー、よかったね……」
と、母は眉を少し寄せて、微妙な表情を浮かべる。
母への感謝よりも、お弁当箱の称賛となってしまっていたことに気づく。
それから2年ほど、漆器のお弁当箱を使い続けている。
お米のクオリティが保たれ続けていることで興味を持ち、山中塗りについて調べてみた。
「山中塗りは、石川県加賀市の山中温泉地区で作られる漆器。近代漆器として作られたお弁当箱は、伝統の技術で培われた高度な塗装技術が生かされていて、耐久性に優れ、滑らかなコーティングにより汚れがつきづらい。」
長く使っても歪みがなく、耐久性はバッチリ。このフタと本体の気密性が、お米の乾燥を防ぎ、レンジにかけると蒸気がまわってごはんをふっくらさせているのかもしれない。
本体の四隅もすっきりと汚れが落ちる。プラスチック製によくある、色のこびりつきもない。
半年ごとの買い替えもなくなったので、2,600円は高くない。エコで、とても経済的だ。
お米がおいしくなって、お弁当が好きになった。
お弁当は食べ過ぎ防止にもなるし、健康にもつながる。外食で移動や行列したりする手間もなく、ランチの時間を有効に使える。節約にもなる。生活の質の向上を感じる。
お母さん、あのとき、お弁当苦手、と言ってしまって、ごめん。
過去の懺悔の気持ちもあり、母のお弁当も一緒に作るようになった。
「お弁当、おいしかった! ありがとう!」
とランチ時間にメッセージをくれる母に、これからどれだけ、今までのお返しをできるだろうか。
受け継がれた日本の技術が、お弁当箱を通じて、母と私の絆をつなぐチャンスを与えてくれた。
***
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