30年の時間(とき)を経て
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ9月コース)
「このチャペルに、決めて良かった! 明日が、今から楽しみだね」
と、挙式を明日に控えたお2人は、キラキラ光る真っ青な海を、幸せそうに眺めていた。
「沖縄の海って、本当にキレイね。ガラス張りの真っ白なチャペル、いいわね」
と、新婦のご両親様も嬉しそうだった。ふと、その時に
「ここ、本当に素敵ね。懐かしいわ! 30年ぶりかなぁ」と、新郎のお母様がつぶやいた。
いよいよ明日は、新郎のお母様の思い出のこの場所でのご子息の結婚式。
でも、ここには、新郎のお父様はいない……。
私は、ブライダル・プロデューサーとして、今回の沖縄に同行させて頂き、明日を楽しみにしつつ、少し不安な気持ちで、お2人の結婚式の準備をしていた。
5月5日、結婚式当日! 突き抜けるような青い空のもと、色鮮やかな‘かりゆしウエア’でご参列者様が、少しずつ集り始め、新郎のお母様はお一人で、汗ばみながらご皆様に挨拶に回っていた。
そして、私は「お母様、少しお時間よろしいでしょうか?」と、お声を掛けた。
「あら、何かしら? そろそろ時間ね……」とお母様は、少し不安そうだったが、
「どうぞ、こちらへ」と、ご新郎様とご新婦様の控室へご案内した。
「お母様。メイク直しを少しさせて頂きますので、こちらにお掛けください」
と、ヘアメイクさんの促すまま、お母様は大きな鏡の前に座った。
それから、20分ほど経過しただろうか……。
「失礼します。大変、お待たせいたしました」
と、スタッフが控室に入ってきた。と。その後ろにもう1人!
そこには、仕事の都合。という事で、大事な息子の結婚式に、挙式開始時間ギリギリ! で、滑り込み予定だったはずの、新郎のお父様が‘モーニング・コート姿’で、ビシッ! と決めて、堂々と立っていた。しばらくの間、そこに立つ素敵な紳士がお父様である事に、お母様は気付かない。
ところが、気付いた瞬間! 「まさか!?」の出来事に、お母様は声も出せず、驚きのあまり、完全にフリーズ!! した。
「えー! どうして? お父さん、ここにいるの? みんな、心配してたのよ! 連絡くらいしてよ! いったい、どういう事? ちゃんと、理由を説明して!」
と、思い切り!! 心配や不安だった事と、連絡なしだった事に対する怒りを、一気にぶちまけた。
が、その反面! 目の前に、突然現れたお父様に、安心したかのようにも見えた。
メイクが完了し、お母様が立ち上がった時、
「それではお母様、次は、お着替えのお手伝いを、させて頂きます。どうぞ、こちらへ」と、
「私が? え、今から? どうして? 何に、着替えるの?」と、戸惑った様子のお母様。
その時「よし! いよいよ、ここからが本番! 最高のサプライズのスタートだ!」
と私は、ご新郎様と新郎のお父様に、手で合図を送ると、ご新郎様が、お母様のそばにやってきて、
「僕らの結婚式の前に、お父さんとお母さんに、結婚式のお手本を見せて欲しくてさ。今から、2人の結婚式をやってよ!」と、‘パールをあしらった素敵な真っ白のウエディングドレス’を指さした。
「急に! バカな事言って! え? なんで、私たち? 今日は、あなたたちの結婚式でしょ!」
と、お母様は状況が理解出来ずに、戸惑いながら抵抗した。次にお父様が‘結婚指輪のケース’を持ってきた。
結婚して、30年の時間を経て、だんだんとお身体が、大きくなってしまったお母様が、
「もう、この指輪、無理! 入らないわ」
と、何十年もずっとしまったまま! のはず……。その大事な‘結婚指輪のケース’だったのだ。
蓋を開けると、サイズ直しをした、ピカピカの結婚指輪が……。ちょこんと2つ。
「あの頃は、ウエディングドレスなんて、まだ誰も着てなかったよな。でも、絶対に! お母さんの夢を、いつか叶えてやりたい! と思ってた。30年もかかって、ゴメンな」
と、優しく声を掛けると、お母様の目からは大粒の涙が、今にも零れ落ちそうだった……。
30年前の5月5日、新郎のご両親様が、ハネムーンでこの場所に来た。
「私も、こんな素敵な教会で、真っ白なウエディングドレスを着て、結婚式したかったなあ」
とこの場所で、お父様と話していた事を思い出した。
その頃は、ご両家が繋がりを重んじていて、結婚式は‘儀式のような日’だったので、‘ご両家のご両親様が主体’だった。‘やりたい結婚式’なんて、もっての外! で、しきたりや決まり事が色々あり‘やらなくてはいけない結婚式’の時代だったのだ。
というわけで、ご新郎様とご新婦様の結婚式。と、その前に!
新郎のご両親様が、いよいよチャペルへ。そして、チャペルの扉が大きく開いた。
「えッ? あれッ? だれッ?」と、一瞬! みんなざわついた。が、
そこには、いつものように、大きな声で笑うお母様の姿ではなく、緊張した面持ちの可愛らしい? 花嫁さんが……。そのお隣には、きりっ! とした、お父様が……。
お2人は、照れながら、腕を組み、真っ赤なバージンロードを一歩ずつ進んだ。その姿が、とてもお幸せそうで、微笑ましく。
「お父さん、お母さん、おめでとう!」
「おじさん、やるぅ! かっこいいッ! おばさん、かわいいッ!」
と、大きな笑い声が上がり、みんながどんどん笑顔になり、拍手喝采!
「あんた達には、やられたわ! 息子の結婚式に来たのに、まさか? 私たちも結婚式なんて。私は、幸せなお嫁さんだわー。ねえ、お父さん! ほんと、ありがとう!」と大声で笑い、幸せそうだった。
『息子の結婚式で、思い出の地に30年ぶりに来てみたら、実は自分(お母様)も! 結婚式だった!』
「今日の‘結婚30周年のパール婚式’から、さらに‘40周年のルビー婚式、50周年の金婚式、60周年のダイヤモンド婚式’と、ずーっと! ご夫婦関係をどんどん強く固くして頂き、毎日仲良く、笑い溢れ、益々健康で長生きして頂き、さらに! お幸せでいて頂きたい」
と、願いながら……。チャペル後方から、私は式の進行とご両親様をそっと、静かに見守った。
思い返すと、挙式の3か月ほど前……。
「僕らの結婚式の日は、両親の大切な記念日なので、何かで喜んで欲しくて。無理じゃなければ、両親に結婚式をさせてあげたいんです! でも、絶対に母には内緒で」と、ご新郎様から相談があった。
お父様が、30年前の5月5日のお母様の一言をずっと覚えていて、どうしても思いを叶えてあげたい! という、お父様の強い愛があり、当日の朝ギリギリまで、お母様に内緒で色々準備をして下さっていたのだった。“お母様へのサプライズ”大成功! この日は、最高の1日となった。
***
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