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家族の答え合わせは、全員が正解であり全員が不正解である


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記事:吉田実香(ライティング・ゼミ9月コース)

 
 

家族で昔話に花を咲かせる、なんて普通のことなのかもしれないけれど、私の家族は違った。
少し特殊なのかもしれないけれど、今までほとんど昔の話をすることがなかったのだ。
そもそも、家族が揃うこともほとんどなかった。
家族関係が希薄といわれればその通りで、20代から30代は兄弟3人とも、カレンダー通りの休みではない仕事だということを言い訳に、集まれないのではなく集まらないのだけど、誰もそこに踏み込むことなく時は過ぎてしまった。
 
ところが、ここ数年、家族で昔の話をよくするようになった。
妹夫婦に男の子が生まれて、母はおばあちゃんになり、兄はおじちゃん、私はおばちゃんという、それぞれに新たな役割ができた。
甥っ子のおかげで家族で集まる機会が増えたこと、また、実家が引っ越すことになり、写真の整理をしてみんなで見たこともきっかけだった。
甥っ子の成長とともに、「あの頃は……」という話をよくするようになった。
それとともに、家族の間で、暗黙の了解で誰も口にしなかったこと、タブーだったことも自然と話ができるようになった。
 
父と母は離婚していて、以来父とは音信不通になっている。
正式に離婚をしたのは私が社会人1年目のときだったけれど、その前からさまざまな問題があり過ぎて、思い出したくなかったり許せない気持ちがあったりして、父の話をすることを避けていた。
それは、母もほかの兄弟も同じだったようだ。
だから、数十年もの間、必要にかられない限りは誰も父の話をしなかった。
 
家族写真を整理したことによって、父が写っている写真もたくさんあって、それを見ながら自然と父の話もするようになった。
父とのいい思い出は数少ないけれど、楽しかったエピソードとともに、何年も口にしなかった「パパ」というワードも自然と口にしていた。
誰も、父への恨み辛みは言わない。
複雑な思いを抱えつつも、それぞれがそれぞれなりに乗り越え、父を理解しようと努力し、感謝しているようだった。
確かめたわけではないけれど、表情や会話の端々から、そんな雰囲気を感じ取った。
 
こんな風に、やっと普通の家族のように、といっても普通の家族の基準はわからないけれど、家族で昔話に花を咲かせるということができるようになった。
それなのに、昔話をすることによって、モヤモヤすることが多いのだ。
なぜなら、同じ思い出やエピソードの話をしているのに、それぞれの記憶が異なるのだ。
主観の思い出だから、印象に残っている部分が違って、話が少し食い違うのはわかる。
でも、記憶している事実が明らかに異なることがある。
先日も、私がピアノを習い始めた年齢について、私と母の主張が異なり、そうしたら妹が習い始めた年齢もわからなくなり、収集がつかなくなった。
これが、友人同士の会話だったら、「そうだったっけ?」くらいでさらっと終わる会話なのかもしれないけれど、家族同士で遠慮がないため、誰も譲らない。
そして結局、私と妹がピアノを習い始めた年齢をそれぞれが主張し、それぞれが相手の記憶を否定して、話が終わってしまった。
でも、絶対に私の記憶が正しい。
しかし、全員がそう思っているのだ。
 
さらに、昔の話をするようになって、衝撃を受けたことがある。
それは、母の記憶の曖昧さだ。
もちろん、大きな出来事や印象深かったことはしっかりと覚えてくれているが、子ども三人のエピソードが混ざりに混ざって、もはや誰の何の思い出なのかわからないことも多い。
「それはお兄ちゃんでしょ」、「それは私。しかも小学校のときじゃなくて中学に入ってからね」、「いやいや、お姉ちゃんじゃなくて私の文化祭の話ね」と、みんなで母の記憶に対して訂正を繰り返している。
母の私たちへの愛情はそんなものなのかとショックを受けたこともあったけれど、よくよく考えたら仕方がないことだと思った
兄弟それぞれにとって母は一人だけれど、母にとって子どもは三人、ほぼ一人で子育てをしていた母は、一人ひとりの細かいエピソードを覚えている余裕なんてなかったのだろう。
 
また、「言った、言わない」の議論になることも多い。
私は良くいえば記憶力がよく、悪く言えば根に持つタイプで、言われて傷ついた言葉を後生大事に心にとどめていた。
ところが、言った方はそんなことを言った覚えはないし、言ったとしても売り言葉に買い言葉の勢いで言ってしまっただけで、傷つけてやろうだなんて思っていないのだ。
もちろん、その逆もあって、私が誰かを傷つけてしまっていたこともある。
だから、これからは相手を傷つけるような言葉には注意しなくてはいけないけれど、過去のことは水に流そうと思う。
 
 
いくつもの思い出について、ああでもない、こうでもないと言い合ったけれど、今となっては誰の記憶が正解で誰の記憶が不正解なのか、それどころか全員が思い込みで事実と異なるのか、誰もわからないし確かめようもない。
でも、きっと、全員が正解であり、全員が不正解であり、そもそも正解か不正解かなんてどうでもいいのかもしれない。
だから、答え合わせなんてしないで、ただ昔話を楽しめばいい。
そして、抱え込んでいた悲しい記憶や傷ついた言葉も、私の思い込みかもしれないし、作り上げてしまったエピソードかもしれないと思って、そっと手放してしまえばいい。
家族と昔話ができるようになって、両親への感謝、兄弟への感謝、新しい家族への感謝の思いがもっと溢れるようになった。
 
でも、こんなに家族それぞれの記憶が違うことがあるのだろうか。
私と、私の家族の記憶力に問題があるのだろうか、思い込みが激しいのだろうか。
これからちょうど年末年始で友人と会う機会も増えるから、友人たちにリサーチしてみたい。

 
 
 
 
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2024-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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