魔都・京都の怪奇現象はハンバーグの味がする 「科捜研の女」で迫るシンクロニシティの謎
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:777(ライティング・ゼミ11月コース)
京都には不可思議な出来事や話が山とあるのは、だれもがご存じのことと思います。
実は私も、とうてい人智の及ばない不可解な体験をしたことがあるのです。
先日、初めて伏見を訪れました。新しいソファを探しに、京都旅行のついでにメーカーのショールームを見にいったのです。
その道すがら、東高瀬川のほとりにレンガ造りの赤い煙突と大きな黒い木造家屋を見つけました。酒造会社の酒蔵でした。実に古都らしい美しい建物で、スマートフォンで何枚も写真を撮りました。
ソファの観覧をすませたあと、私は京阪本線で伏見桃山駅から東福寺駅へ向かいました。東福寺駅には町屋を改装したカフェがあって、そこで遅い昼食とコーヒーをいただこうと考えていたのです。
しかし、電車を乗り間違えて駅を追い越してしまい、下り線で引き返すというヘマをしてしまいました。これで30分ほど時間を無駄にして現地に到着。すると今度は、ネットでは営業中とあったカフェがお休みでした。
「まいったな」
時刻は午後3時。お腹が空いていたので、どこでもいいからお店に入ろうと駅前にもどると、小さな定食店が目にとまりました。昭和風の店構えがなんとも魅力的で、引き込まれるように暖簾をくぐりました。
そこは老夫婦ふたりで切り盛りしているお店で、注文して出てきたのは昔ながらのハンバーグ定食でした。
客は私ひとりきり。壁際のテレビの音がよく聞こえます。刑事ドラマ「科捜研の女」の再放送でした。
ぼんやり画面を眺めながら黙々とハンバーグをほおばる私。甘辛くて美味しい。テレビでは沢口靖子さん演じる榊マリコと内藤剛志さん演じる土門刑事が、橋の上で犯人を推理しています。そのときでした。
「あれ?」
ふたりのうしろに映っている赤い煙突と黒い建物……
あれは今し方見てきたあの酒蔵、しかも私が写真を撮った角度とまったく同じじゃないか!
こんな偶然があるのかと、慌ててスマホでテレビ画面を動画撮影しました。
酒造前の映像カットは40秒ほどで終了。ドラマはさらに捜査が進み、私の頭もこの”事件”を解明しようとフル回転します。
「これ、シンクロニシティだよな」
シンクロニシティとは、心理学者ユングが示した概念で「意味のある偶然の一致」のこと。しかもこれは弩級のシンクロです。おおげさではなく、この偶然の一致を引き当てる確率を考えると気が遠くなります。
まず、私がこのシーンを見るためには、少なくともふたつの不確定要素が重なる必要がありました。
ひとつは、電車を乗り間違えたこと。もうひとつは、行こうと思っていたカフェが休業していたこと。
電車を乗り間違えず、30分早く定食店に着いていれば、このシーンは観られませんでした。なぜなら、注文して料理が出てくるまでに10分足らず、食べ終えるのにかかった時間も15分ほどだったからです。食事がすめばすぐ店を出るので、あのシーンが流れる前に退店していたはずです。
他方、電車に乗り間違えたとしても、行こうと思っていたカフェが営業していたら、当然定食店には行かないのであのシーンは観られない。カフェが「科捜研の女」をテレビで流していた可能性は排除できませんが、ウェブサイトで店内写真を見る限りテレビはありませんでした。
このふたつの不慮の出来事だけでも、私があの定食店にあの時間にいたというのは、とんでもない低確率で起きたことがわかります。
さらに三つ目の要素を上げるなら、酒蔵が映っているシーンを含むあの話数を、あの日京都で再放送していたという事実です。
調べたところ、私が観たのはシーズン10の第7話で、初回放送は2010年でした。
「科捜研の女」は25年つづく長寿ドラマで、300本近い話数があります。ということは、私があの日あの話に遭遇する確率は、単純計算でも300分の1。これに先述の不確定要素ふたつを掛け合わせれば、わずか数十秒の映像に遭遇する確率は天文学的数字になります。
しかも実際はもっとたくさんの不確定要素があるのです。
当日伏見へ出発した時間もショールームへの道順も行き当たりばったりで決めたことですし、そもそもあの定食店を選んだのも気まぐれで、不確定要素てんこ盛りなわけです。
こんな超常的な確率の偶然の一致はそうそう体験できるものではありません。だからこそ考えてしまうのです。
この偶然の一致の「意味は何か」と。
私は考えました。きっとものすごい意味があると期待して。
そうしてひとつの結論に達しました。いや、達せざるを得なかったと言っていいでしょう。
その結論とは--
「意味がわからない」
科学捜査で事件を解決してきた土門刑事の声が聞こえてきそうです。私は脱力して考えるのをやめました。
夜になって、もう一度スマホで撮影した写真と動画を見返しました。
意味不明とはいえ、スリリングで楽しい体験でした。異常に興奮したので、血行が良くなって体が柔らかくなった気さえします。
これでいいじゃないか。平穏がいいとはいえ、なんの事件もなく過ごすには人生はちょっと長すぎる。
そんなことを思いながら定食店で撮った「科捜研の女」の動画を探しました。
ところが、ない。どれだけ探しても、ない。ハンバーグの写真はあるのに、肝心の動画がどこにもないのです。
「こっ、こいつは……」
まさか、なにか映ってはいけないものが映っていて、その露見を恐れた超常的な存在あるいは謎の組織が、私のスマホを操作して動画を消した--?
やはり今回の偶然には重大な意味があるのではないか。
そこであらためて検証しました。注意深く、慎重に。
すると不穏な事実が浮かび上がってきました。
「ボタンの押し忘れ」
あまりの興奮に指が震えていたようです。
普段から録画ボタンを押し忘れることが多いので疑う気もおきず、この問題はこれにて落着。私の不思議な一日も幕を閉じました。
最後に後日談をひとつ。
私は現在、天狼院書店のライティング・セミナーに参加しています。会場は東京、カジュアルでおしゃれな渋谷店です。
一回目の講義のとき、最後列の黄色い木の椅子に座ったのですが、そこである物に目を奪われました。
私の真後ろに置かれていた、場違いに重厚な一台のソファ。
それは、あの日私が見にいったメーカーのソファと同じソファで……
世界は意味不明な偶然に溢れています。
***
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