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立つ鳥の跡に真髄を見る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:punneko(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「立つ鳥跡を濁さず」。
 
鳥が水面から飛び立つときに、
水を乱すことなく静かに飛び立ち
後の水面が美しい様子に由来する日本のことわざで、
人が退職や引っ越しなどでその場を去るときに
後に残る人が困らないように
引き継ぎや整頓などをきちんと行って
美しい状態で去っていくことを言う。
 
最近、
数人の同僚、上司が退職し、
壮行を行った。
その人たちの去り際に心動かされ、
自分の去り方について
改めて考えさせられるようになった。
 
「会社を辞めます」
という報告を受けるときは、
どんな関係性の相手であっても驚き、
動揺する。
それはどんなに回数を重ねても
慣れることがない。
 
報告を受けた後、
会社に残る側の私たちとしては
感傷に浸っている暇もなく
いろんなことに頭を巡らせる。
その人が今まで持っていた仕事はどうなるのか?
なにがどこまで仕掛かりで、
社外にはどのような影響があるのか? 
などなど……。
 
去る方には
いろいろな事情があるのだろう。
それも理解できる。
そして同時に
本当に「去り方」も様々だなあ、と
最近とみに感じるのである。
 
私が今勤めているのは
割合真面目な人が多い会社なので、
ネット記事などでよく見るような
びっくり仰天な辞め方の人はいないものの
驚くような去り方は
いい意味でも、
悪い意味でも
両方存在する。
 
自分が担当している業務についての
引き継ぎ書をしっかり作り、
こんなときはこのマニュアルを見て、
と自作のマニュアルを作って
残していってくれた同僚。
ずいぶん先の仕事まで
前倒してやってくれていたおかげで
残る人たちのしわ寄せが最小限で済んだうえに、
彼女が残していってくれたマニュアルは
期中の異動で新たに業務に着任することになった人の
大きな助けになっている。
そのマニュアルは
「〇〇さん(※彼女の下の名前が入っている)マニュアル」と
呼ばれ、
彼女が会社に遺してくれた
大切な資産として残っている。
 
かたや
2週間後が最終出社日、あとは有休消化と
宣言し、
皆が
「この仕事止まっているけれど、
今忙しいのかな?
もうすぐ着手してくれるかな?」と
おもんぱかって、あえて
どうなってる?とプッシュしなかった
その人の担当だった仕事を止めたまま去り、
引継ぎも雑で
現場を大混乱に陥れた同僚。
(その仕事の前任者だった、前述の彼女が作ってくれた
「〇〇さんマニュアル」がみんなを救ってくれた。
退職してずいぶん経ったあとに、
彼女の株がさらに爆あがりしたことは言うまでもない)
 
そして
皆が頼りにし、
心を寄せていた上司。
残された部下たちが困らないように
社内外の道を整え、
引継ぎも次の上司となる人に
すべての業務に同行する形で行ったうえで
惜しまれながら退社して行った。
「これからは会社に甘えて面倒をみてもらう時代ではない。
みんな自立して、
自分のこれからを考えること、
これが最後に自分から言えること」
というメッセージと、
なにかあったらここに。
社外からでも、
できる限りのことはするから、
と自分の連絡先を残して。
 
面白いなあ、と感じるのは、
その人たちの、壮行の際に送る「寄せ書き」である。
最近は手書きの寄せ書きではなく、
ネット上でメッセージを登録して
プリントアウトするサービスがあり
それを使うことが多いのだけれど
そこに寄せられている各々のメッセージが、
去り際が美しい人たちと
そうでない人たちとでは
内容が歴然と違う。
 
みんな「大人」なので
寄せ書きの発信があると
書かない人はほとんどおらず
枚数にそれほどの差はない。
でも、
メッセージに込められた熱量が全然違うのである。
 
その人との思い出などつぶさに書かれ
いつかまた一緒に仕事を、
プライベートでは絶対また会いたい
と熱烈なラブレターのように
書いてあるものが多い寄せ書きもあれば
(驚き、思わず笑ってしまったのは
 みんなが信頼していた上司の寄せ書きを見たときに、
 私だけじゃなく、
 みんながそれぞれに自分は上司に特別扱いされている、
と思っていたこと。
 上司は関わるすべての人に、
スキマ時間でその人の興味関心のある雑談をして、
悩んでいるかなと思ったときには
直接声をかけて励まし、
「あなたなら大丈夫」と勇気づけていたのだと知った。
上司が「人たらし」たる所以を見た気がして、
その人らしいなあと、
すがすがしい思いで笑ってしまったのだった)
  
一方で
新しい場所でもご活躍を、
と定型文のような
メッセージだけが
大量に並んでいる寄せ書きもあって。
 
寄せ書きを見るだけで、
その人の人となりが手に取るようにわかる。
去るときに、
その人の在り方の真髄を見る思いがする。
 
「去る」ときにどんな人物像でありたいか。
それは去るときだけじゃなく、
日ごろからどういう人でありたいか、
どう行動するか、
にもつながってくると感じる。
 
立つときに跡を濁さない鳥は、
日ごろから
美しく飛び立つ練習をしているのである。
 
退職だけではない。
宿泊していたホテルをチェックアウトするとき。
レストランで座っていた席を後にするとき。
そして究極は、
この世を去るとき。
 
「立つ鳥跡を濁さず」
「あとは野となれ山となれ」
「イタチのさいごっぺ」
どんなことわざを、
去り際の自分に残したいだろうか。
 
私もこれから、
自分に問い続けていきたい。
 
 
 
 
***

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2024-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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