観光客は乗せないタクシー運転手
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:白井ゆみ(ライティング・ゼミ11月コース)
「タクシーで観光をしたいですけど1台おねがいできますか?」
「観光のお客さんは、今まで1度も乗せたことがないので。
観光はしないことにしているので……」
と四国に旅したときのこと。
タクシー会社の営業所に行って、貸切をおねがいしたら運転手さんから返ってきた返事。
タクシーで、観光客は乗せないってあるのか? なぜ?
その時、営業所には、その運転手さんしかいない。
他に頼める人はいない。別の言い方をしてみた。
私「行きたいところは、もう決めているので、そこに行ってほしいんですけど」
運転手「決まっているんだったら、そこに行くだけでいいですか?」
私「はい、目的地に行っていただければ、それでいいです」
運転手「先に言っておくけど、観光案内は いっさいできませんよ」
私「はい、大丈夫です。観光案内はまったくいらないです」
運転手「それやったら、まあ、目的地に乗せていくことはできます」
私「じゃぁ、おねがいします」
ということで、無事、娘と二人旅のタクシーで巡る四国の旅が始まった。
行先は、さっき行ったCaféの地元の人に、おすすめの場所を教えてもらってメモってある。
運転手さんに、行きたい所を全部伝える。
タクシーが走り始めて運転手さんが話しはじめた。
運転手「他のタクシーの仲間は、観光客を乗せているのですが、私だけずっと断り続けています。今まで一度も乗せたことがないんです」
私「なんでですか?」
運転手「なんちゃ、ええところがないと思っているので、ここいいですよ。ここに こんな素晴らしい所がありますよ。と1つも言えないので観光案内できないからです」
私「えーこんなに素晴らしい景色がたくさんあるのに!? 私たち東京から来たので、山も海も珍しいので、この景色のすべてが宝物ですよ」
運転手「そうですか? そうは思えないので観光客の人を乗せられないんです」
運転手さんのお年は、50代後半か60代前半くらい。運転手歴30-40年ほど。運転の腕はお見事だった。
私たちが一番はじめにおねがいした目的地は、曲がりくねった山道の頂上。
目的地につながる道はあるものの、もし自分たちで運転して行ったなら怖くなって引き返したくなるような道。
地元にずっと住み続けている運転手さんも「20年ぶりに行きます。無事着けるのかな?」と言うような道のり。
その山の頂上を行先に選んだのは、
「街全体が一望できる絶景」だと地元の人に聞いたから。
観光マップなどには載ってない地元の人のみが知っている絶景スポット。
数年前までは、展望台があったそうだが、今はなくなって観光客もなかなか行くことがない場所。
そんな場所なので、誰もいないだろうと思っていたが、
山の頂上に到着して、タクシーから降りて街を眺めようとしたら、先客がいた。
70代位のおじさん二人が、昔、展望台として使っていたであろう木の台のところにいた。
一人は一眼レフカメラをかまえている。
もう一人は、台の上で飛び上がっている。
その飛び上がった瞬間をシャッターにおさめている。
景色と人の飛び上がった瞬間のシャッターチャンスを狙って、何度も何度も、一人は飛ぶ、一人はシャッターを押すを繰り返している。
そのうちに、私と娘に、どういう角度で携帯をかまえればいいのか、どの瞬間にシャッターを押せばいいのか、飛び上がる時の足の角度などを、教えてくれ始めた。
せっかく教えてくれたので、「じゃぁ!やってみよう!」ということで
娘が飛び上がる人。
私が携帯で写真を撮る人。
それを指導してくれるのはおじさん。
タクシーの運転手さんは、遠くでそれを眺めている。
おじさんたち二人は、その土地の良き景色を毎日撮り歩いているらしい。
それをインスタで毎日、投稿しているらしい。
せっかくだからと思い、インスタをフォローさせてもらった。
地元の美しい景色が正方形でびっしりと並んでいた。
夕陽、山、河、空、植物、月……投稿数を見たら、3851の投稿数!凄い!
インスタを見せてもらっていたら
タクシーの運転手さんもいつのまにか近くにいた。
「だるま夕日は、いつの時期に綺麗に見れるのか?」という話題になった。
(だるま夕日とは、夕日が沈む時に二つの円が重なるように海にうつってだるまのように見える夕日のこと)
運転手さんは、「1月の寒い時期だけしか見れないです」と言い張り
おじさんは「11月でも綺麗に見れます」と言い張り
どっちが本当かは知らないが、
タクシー運転手×おじさんで、プチバトルになった。笑
「だるま夕日」についても意見は合わないが、お二人の人生も、まったく別の視点でものを見ている。
◇何もいい所がない、きれいな景色もないので、観光客は乗せない運転手さん。
◇毎日、海・川・山で写真を撮り続け、インスタにあげているおじさん。
同じ土地に住んでいても、同じ景色の中で暮らしていても、こんなに視点が違うものか。
運転手さんは、「観光案内はしません」とキッパリと言っていたが、意外にも「ここは〇〇です」「ここは〇〇をしにくると楽しいです」と沢山の解説をしてくれた。そして、カーナビなし、どこでも勘で走っている様子。最後は地元の美味しいご飯屋さんの前で降ろしてくれて、タクシーの旅は終わった。大満足!
旅から帰ってきて、1週間が経った。
インスタでつながった四国のおじさん。インスタを開く度におじさんの朝日や夕日の写真がフィード投稿に上がってくる。「だるま夕日」も時々登場してくる。帰宅してからも、1日に5投稿くらい四国の美しい景色を見る毎日が続いている。
結果的に、この旅の思い出で一番娘と語り合って笑うのは、タクシー運転手さんのこと。たぶん、この先も、ずっと良き思い出として語り続けそう。
「観光客は乗せないタクシー運転手さん」楽しい旅をありがとう!
四国で出会ったおじさんたち、それぞれの人生、素晴らしい!
***
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