「あそこって無料で遊べるらしいよ!」っていうから行ってみたら、耳がよくなった話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:たかてぃー(ライティング・ゼミ9月コース)
「え? こんな高かったっけ?」
と検索結果を見て、思わずもらしてしまった。
「休日は気軽に体験的な時間を過ごしたい。久しぶりに行ってみるかぁ」そう思って夢の国の入場料を調べると10900円。これは、気軽に行ける場所ではない。値上げの大合唱が響く昨今、もっとお手頃に楽しめる場所はないものか。
そんな時、見つけた。「無料」で、しかも地元の人でさえ知らない、隠れた名所を。
先に言っておくとテーマパークではない。言うなれば無料のLIVE会場といったところか。1日3回の1時間LIVEが毎日行われている。「入場してからの飲食がかなり高い金額設定なんでしょ?」と思われるかもしれないが、心配ご無用。なんと、ドリンクを1杯サービスしていただき、お土産にペットボトルも1本くれる。「どれだけサービス精神旺盛なんだ」とあきれてしまう人がいてもおかしくない。
「そんなにいいところがあるならきっと混んでいるんでしょ」という人もいるだろう。たしかに、地元でもあまり知られてはいないと言っても、素晴らしい内容なので会場の大きさからして入れない人が出てくる。だが、予約制なので入ってしまえば、中にいる人はそれほど多くない。快適な滞在となる。
ただ一つ、懸念材料を強いて言うならば、そこへ都内から車で行くとなると1時間はかかってしまうということだ。それにしても、こんな至れり尽くせりの無料LIVEに参加できるのだ。多少のめんどうは受け入れざるを得ない。
その場所は群馬県にある。有名な白い飲み物を作っている工場である。白地に青の水玉模様がトレードマークの飲み物、といえば頭に浮かぶのはみんな同じなのではないだろうか。
LIVEと書いてしまったが、曲を演奏するわけではなく、バンドがいるわけでもない。このLIVEとは、あの会社の工場見学のことである。ただ、だますつもりは全くない。本当にミュージシャンのLIVEに来たように、わくわくする体験的な時間を過ごすことができるのだ。しかも、やはり無料で。
子どもが生まれて一緒に会いに行こうと、先日、ひいおばあちゃんが住んでいるその街に行くことになった。せっかく行くのだからといって、妻が観光名所を調べてその工場見学に予約をしてくれた。
確かに、あの飲み物にはお世話になった。特に小さい時はよくお世話になった。めちゃくちゃ濃く作って、暑い日に何杯も飲んだ。たまに、売っていたオレンジのやつを見たら、テンションが上がった。しかし、あの大企業には悪いが、34歳になった私の素直な思い、 あの白い飲み物って……
「子どもの飲み物でしょ?」
かろうじて、暑い日に炭酸バージョンは飲みたくなることは、あると言えばある。しかし、その工場見学に行きたいかと聞かれると……うぅん。
そんな思いをもちながら到着。白と青を基調とした内装がまぶしい。入ってすぐのところにある、ビンに入った様子を再現したモニュメントは大人2人分以上の高さがあり、圧巻。思わず記念撮影をしてしまうほどの迫力だ。
「こちらへどうぞ」と案内された小さな映画館のような部屋。そこでは、会社創業の秘密を映像化したアニメが流れる。女の子が暑い日におばあちゃんの家で冷たいあの飲み物を飲むシーン。グラスのアップの映像に合わせて「カラーン、カラン」と氷の音がする。
映像を真剣に見ながら、心の中では「そうそう、これこれ! これよ。あの白い飲み物は!」なんて言っている。どこか懐かしく思いながらその世界観にぐっと引き込まれていった。
オープニングの後は、飲み物ができる工程を紹介してくれる場所に移動する。ここでは、壁の上部にモニターがあり、細かな作業の映像が流れる。モニターの下では、壁のプロジェクションマッピングで全体の流れが映し出されている。そして、若い女性のスタッフが一つ一つの工程について解説してくれる。
解説が演奏だとしたら、モニターや照明で演出をしているのだから、気分はもはやLIVEである。乳酸菌のにおいを体験するコーナーでは、思わず目を見開いた。気が進まないと思いながら来たことなど忘れて、目で見て、耳で聞いて、鼻でにおいをかいで。五感をフルに使い、気づくとこの飲み物の世界観にどっぷりとはまっていた。
見学を終えて訪れた試飲コーナー。冷たい原液と水をプラスチックのコップに注ぐ。
「氷はないのか。まあ、いいや」
そう思いながら一口。しかし、なんだか物足りない。やはり子どもの飲み物なのかな。高まっていた気分は少しおさまり、お土産のペットボトルも、正直いらない気がした。
それから2日後。自宅に戻った昼下がり。
喉が渇いて、何気なくあのお土産の飲み物をグラスに注いだ。たっぷりの氷と共に―。
「めっちゃ、おいしい」
思わず声が出た。いや、味は全く変わらない。見た目も冷たさも。
何が違うのだろう? と考えながら飲んでいると、聞こえてきた。
「カラーン、カラン」
グラスをたたく氷の音が。
そうか、工場での試飲はプラスチックのコップで氷なし。でも、家で氷を入れたグラスで飲むと、あのアニメーションで見た光景が蘇ってくる。音と味が重なって、新しい思い出になっていく。
もう一口。また「カラーン、カラン」という音。今度は実家で真夏に飲んだ、あの日の味が甦った。
これまで何度も聞いたはずなのに気にもとめなかった音が、今うるさいくらいに聞こえている。子どもが生まれたから向かった群馬でのこと、無料で遊べるから行ってみた工場見学で、思いがけず耳が良くなったというわけだ。
ふと、横にいる我が子に目を移す。
「ありがとう。生まれてくれたおかげでパパ、耳がよくなったよ。大きくなったら、一緒に飲もうね。氷をたっくさん入れて」
心の中でそう言って、グラスを机に置いた。
さっきよりもちょっと高い音で鳴った。
「カラーン、カラン」
***
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