QRコードが起こしたプチパニック
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ9月コース)
「このクーポン、使えますか?」
ドラッグストアのパートを始め、半年ほどが過ぎたころ。レジでお客さんにそう聞かれて、一瞬意味が分からなかった。
いや、意味自体は分かる。自分の持っているクーポンが、今回のお会計で使えるかが聞きたいんだろう。その意味は分かる。
分からないのは、提示されたそれが、どこからどう見ても、QRコードだったからだ。
多くのドラッグストアが今持っているように、私が務めるドラッグストアもアプリでポイントが貯まる仕組みになっている。
そして、アプリには時々、値引きのクーポンが配信される。
配信画面には、「化粧品用」とか「医薬品15%オフ」とかの文字があるけれど、お客さんにとっては判断に迷うものもある。
だからお会計の時に、レジで「このクーポン、使えますか?」と聞かれることは、良くある。
良くあるが、それはあくまでも、説明の文字が記載された、アイコンの状態で、だ。今回のように、アイコンをタッチして、QRコードの状態にしてしまうと、何も分からない。
一応、パート先のドラッグストアのクーポンであることくらいは画面から分かるが、それだけだ。あとは、QRコードが表示される、残り時間。
固まってしまった私を見て、お客さんは不思議そうな顔で、スマホ画面に表示されたQRコードを差し出し続けている。
なんということだろう。このお客さんもしかして、QRコードを見ただけで、なんの商品が対象になっているクーポンなのかが、判断できるって思ってる?!
そんなの、分かるわけないじゃないかっ!!
ど、どうしよう。もしかして、今まで機械的にピッとバーコードリーダーを押し当てていたQRコードの周りには、対象商品の記載があるんだろうか?!
そう思って老眼の目をすがめて必死で見てみたが、どう考えても日本語なんて書いていない。なんなら英語も書いていない。
無常にも減って行く、残り時間だけ。
やっと頭が働き出した。画面には、戻るボタンもない。基本的にアプリのクーポンは、一度提示したら次は使うことができない。もしかしたら、使用せずに画面を戻したら、また使えるのかもしれないけれど、半年の間にそんな経験をしていないから、分からない。
もし安易に画面を戻して、クーポンが使えなくなってしまったら、クレームにもなりかねない。何より、怒られるのがいやだ。
思い切って、バーコードリーダーに通してみようか。
ピッと通せば、値引きできるかどうか、画面を見たら分かる。だが、それも怖い。もし値引きができない商品しかなかった場合、間違いなくクーポンは使えなくなってしまう。
どうしよう。打つ手がない。
考えろ考えろ考えろ。
クーポンの残り時間は、無常にもどんどん減っていく。何よりお客さんが、そろそろ不審そうな表情になってきた。
どうしようどうしよう。どうしたらいい?
ええい、もう、思い切ってやるしかない!!
「は、はい。おそらく、ご使用になれるかと思います」
そんな曖昧な返事をしながら、お客さんの差し出してきたクーポンのQRコードを、いつものようにピッと読み取った。
ヒヤヒヤしながら、レジの表示画面を見ると……。
良かった!! 一部の商品だけど、値引きされている!!!
ほっと胸を撫で下ろしながら、「それでは、一部ですがお値引きが入りまして……」と、合計金額を伝える。少し不思議そうにしながらも、お客さんはそのままお会計を終わらせて、帰って行った。
ああ、疲れた。そして安心した。一か八かだったけれど、クーポン対象の商品が入ってて、本当に良かった。
でも、あのお客さんも、一体何を考えてるんだろう。
QRコード出してきたって、私の目はバーコードリーダーじゃないもん。それがQRコードであるって以上の情報は分からないよ。
不思議なお客さんもいるもんだなあ。そう思った考えが甘いことを知ったのは、数日後のことだった。
「これ、使えますか?」
いつものように差し出されたスマホには、またしても、アプリクーポンのQRコードだけが表示されていた。
驚いたことに、そうやってQRコードの姿になったクーポンを提示して、使えるかどうかを聞いてくるお客さんは、少なくなかったのだ!
一体、なぜ? ここまでIT化が進んでしまうと、これだけで通じるって思っちゃうのかな?!
って、そんなわけあるかいっ!!
あれから1年。すっかりレジの対応にも慣れてきた。今ではそうしたお客さんには、「どのようなクーポンでしたか?」と、素直に聞くようにしている。
ほぼ必ず、「え?! どんなって言われても……」と言葉に詰まるお客さんがほとんどだ。
それに対して、少し申し訳なさそうに、「QRコードだけでは、分からないんですよ〜」と、素直に伝えることにした。基本的に、それで問題ないことも分かった。
さらに、クーポンを使用せずに画面を戻しても、使用したことにならないことも分かった。
人間の目は、バーコードリーダーにはなっていない。当たり前のことだけれど、便利に囲まれていると、ついつい忘れてしまうのかもしれない。
だったらもう、素直に聞いてしまえばいい。分からないものは、分からないと言えばいい。
今日も、「QRコードだけじゃ、分からないんですよ〜」と申し訳なさそうにお伝えしたら、「あ、そ、そうですよね。ごめんなさい、ついうっかり」と言いながら、クーポンの画面を一つ前に戻して、少し恥ずかしそうに確認してくれた。
最近では、そんなちょっとしたコミュニケーションも、ちょっとだけ面白いなと思うようになった。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00