メディアグランプリ

最推しの晴れ舞台を、至近距離で観て萌えまくった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「ほぇーっ! なんで? え、なんでなんで?」
 
思わず私は声が漏れていた。
こんなに間近で手元を観ているのに、どうなっているのか全くわからない。
直径10センチ程の金属性の輪っかが4つ、目の前にいるマジシャンの手さばきによって、連なったり、離れたりしている。
 
私の隣に座っているお兄さんが、マジシャンから渡された輪っかを実際に触って、どこにも継ぎ目がないことを、ついさっきその場にいた5人の観客全員で確認したばかりだった。
観客はそれぞれに感嘆しながら、目の前にいるマジシャンに拍手を送る。
このマジシャンは、まだちょっと着なれない感じがするネクタイ姿が初々しい。
ちょっぴり誇らしげな顔をしながら、さりげなく丁寧な所作で次々と技を繰り出した。
 
途中に織り交ぜる口上も見事なもので、随所に笑いも起こっている。
私を含めた観客はリラックスしたりハラハラしたり、いわゆる緊張と緩和を行ったり来たりしながら、完全にマジシャンのペースに嵌って不思議な空間を味わっていた。
 
私は、目の前のマジシャンが堂々と口上を述べながら観客の前に立つ姿に拍手を送りながら、溢れそうになる涙を懸命こらえていた。
実は、このマジシャンというのは、私の息子なのである。
 
 
 
先日、大学1回生の息子の通う学園祭に行ってきた。
 
入学後しばらくして、息子はいつの間にか奇術研究部なるものに入部したらしい。
これまで特にマジックに興味を持った様子はなかったのだが、どこかに魅力を感じたのだろう。
何に惹かれたのか、よくはわからないが、それは私が心配することではないと思っていた。
入学後に彼が何を始めても、また何もしなかったとしても、彼が考えて進むことを見守り応援するだけだと考えていたからだ。
入部してからは先輩方と絡めるのも嬉しいらしく、帰宅の遅い日も増えた。
きっと彼の世界はどんどん広がっていったのだろう。
いつの間にか、マジックに使うのであろう、カードや海外のコインなどが部屋に増えていく。
わりと勉強で忙しいという大学生活の合間に、マジックの練習もちゃんとしているらしかった。
 
夏休みには、合宿と称して大勢で旅行に出かけたりして、とにかく楽しそうだった。
しかし学園祭前には、本気で持ちネタを仕上げるための練習合宿が行われ、かなりの長時間、練習漬けだったと後になって聞いた。
 
彼は、部活やマジックにものすごくのめり込んでいる、と言うわけではないようだが、結構バランスのいい充実した大学生活を存分に送れている様子について、私は親として嬉しく思っていた。
 
コロナ前とほとんど変わらない大学生活を、初年度から経験できるありがたさというものを、改めて感じたものだった。
 
そう考えるのも、コロナ禍の当時の学生たちが、仕方ないとはいえ自粛ばかりの学生生活のまま年月が過ぎていったことに対して、社会全体がやるせないような風潮があったからである。
このことはもちろんだが、コロナ禍当時の息子も、中学の修学旅行が直前に取りやめになったり、高校の文化祭や創立周年の記念式典が縮小されたりしていた。
息子は、高校に入って軽音楽部で何度か舞台に立っていたそうだが、なにかと保護者が見に行ける機会も失われたままだった。
これも仕方ないとはいえ、やはり私は親として寂しく思っていたのだった。
 
そんな中で、昨年の高校3年生の文化祭では、やっと保護者が入れるようになったものの、なんと私は時間を間違えて、彼の舞台でのバンド演奏を観ることが叶わなかった。
情けないことに、最初で最後の息子の雄姿を観られる機会を棒に振ってしまったのだ。
この後、私はひどく落ち込んだ。
 
 
だがしかし、である。
今年になって、機会が巡ってきたのだ。
 
大学の文化祭で息子の雄姿が観られることを、2日ほど前に知った私は、時間と交通手段を念入りにリサーチした。
反抗期の頃は、学校で親が近寄ることを嫌がられたりもしたが、今の息子は母が観に行くと言っても嫌がらずに詳細を教えてくれた。
 
正直言って、すでにこの時点で母は涙が出そうだった。
いや、なんだか最近はただ涙もろいだけかもしれないな……と思いつつ、ひたすらその日を楽しみにしていた。
 
 
 
待ちに待った当日
文化祭で観客にマジックを披露する息子は、とても頼もしく、私には輝いて見えた。
ようやっと観られた晴れの舞台に、私はただただ感動していた。
親バカだろうし、なんなら私はバカ親かもしれないが、ここまで随分立派に育ってくれたと思う。
 
息子よ、母は誰に自慢するわけでもないけれど、キミが母の自慢の息子であることは間違いない。
キツイ事や、辛いこともたくさんあるだろうけど、きっとキミなら大丈夫だ。
キミの未来に幸多きことを母は願っているよ。
 
こんなこと、ここでそっと言うくらいは、きっと息子も許してくれるだろうと思っている。

 
 
 
 
***

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2024-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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