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週刊誌の標的となった女医、その真相は

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:片山勢津子(ライティング特講)
 
 
「今日このあと、ちょっと時間あるかしら?」
クリニックで診察が済んだ時、女医の K子が不安げな笑みを浮かべながらそう切り出した。
 
K子とは高校のクラスメイトだったけれども、お互い忙しくて、クリニック以外で会うことはなくなっていた。そんな彼女からの突然の誘いが気になって、思わず同意した。
 
K子は大学医学部の講師だった。普段は大学病院で勤務しているが、週1日だけ駅ビルのクリニックで診察していた。便利な場所で、信頼できるドクターに診てもらえるので、私にとっては有難いクリニックだった。
駅ビルのカフェで、診療が終わるのを待った。彼女とゆっくり話しをするのは、何年ぶりだろうか。きっと何かの相談だと思いながら、昔の彼女を思い出した。
彼女のマイペースで、終始にこやかな顔が思い浮かんだ。好奇心が強く、少々のことで動じることがない。どちらかというと人の話を聞く方で、でも聞かれたら自分の考えをにこやかに話す。今は医師と患者の関係だが、その態度は今も昔も変わらない。それだけに、彼女からの突然の誘いが不思議だった。
 
K子がやってきた。急いで来た様子はないが、苦笑いが気になる。
「何かあったの?」と早速、尋ねた。
「実はね、院長に呼ばれたの」と、彼女が切り出した。
「えっ?」
「週刊誌から問い合わせがあったと言うことで尋問されたわ」
「何それ?」
「A教授も呼ばれて来ていて……」
 
週刊誌の内容とは、驚くべきものだった。要約すると、次のような内容である。
 
X大学病院には、問題の女医K子がいる。診療内容が酷く、被害に遭った患者からは告発の署名が寄せられている。講師という要職についていながら、あろうことかA教授と愛人関係にあり、トラブルは揉み消されている。
 
勿論、A教授にとってもK子にとっても寝耳に水の話である。完全否定する二人の返答を聞いて、院長は「被害者の会の名簿を、筆跡鑑定する」と、即決した。
 
まるでテレビドラマのような話である。でもこれは、現実に彼女に起こったことなのだ。
「何か、思い当たことはないの?」「誰かに、恨まれるようなことはなかったの?」
私は、刑事のように尋ねたが、K子は全く見に覚えがないようだ。ただ、思い起こせば立て続けに変なことが起こっていたと、淡々と話し出した。
 
「研究会の若手メンバーが次々に辞めていった」
「デスクの上に『使用禁止』とマジックで書いた大きな紙が貼ってあった」
「私物を入れたダンボールが紛失した」
 
次々に不審なことがありながら、ちょうど大学病院の移転時期だったこともあり、彼女は何かの間違いだと思い、忘れてしまっていたそうだ。
 
何と、イタズラにも程がある。酷い! これは内部に犯人がいる。一人なのか、それともグループでの仕業なのか? K子は、医学部で初めての女性講師だったはずだ。しかも、他大学の出身である。それを妬んだ同僚グループの犯行だろうか。良識のある医療従事者の集団なのに、何ということをするのだろう。子供のイタズラと同じではないか。
 
どうやら、大学病院というところは、今もドロドロとした人間関係が続いているようだ。闇は暴かないといけない。筆跡鑑定の結果が気になるが、一体どうなるのだろう。彼女は、とにかく多忙だからと、筆跡鑑定を待ってから考えるという。
 
それにしても、なぜ私に話したのだろう。聞けば、K子の母親は、「独身でいるからこんなことになるのだ」と、慰めてくれるどころかつれない反応だったらしい。ひょっとして、同じく闇の中で奮闘していた私を知っていたのだろうか。何としても彼女には頑張って欲しい。でも、彼女は成り行きに任せるしかないと、静観する様子だった。
 
しばらくして、院長が行った筆跡鑑定の結果が出た。患者の会の署名は、K子の同僚B講師のものだったらしい。全ての文字が、一人のものだったという。K子は、それ以上は言わなかった。何が一体、彼を追い詰め、そんな捏造に手を染めたのか。犯罪ではないか。
 
どうやらB講師は、学部入学から順調に昇進してきた人物らしい。優秀だったに違いない。教授お気に入りのK子の登場で、自分の将来に不安を感じたのだろう。彼女のすること為すこと、持ち物すら、否定したかったのだろう。周囲は、この状態をおかしいとは感じなかったのだろうか。
 
しばらくして、B講師は大学病院を去った。週刊誌に、この記事が載ることはなかった。病院は新しい建物に慌ただしく移転して、もう何事もなかったようにみえる。院長がどう対処したのかはわからないが、大学病院としても保身しなければならなかっただろう。K子はというと、変わらず診療と研究を続け、やがて准教授の地位に就いた。彼女の穏やかな表情の裏には、周囲の雑音に惑わされず、自分の道を信じる強さが隠されているように思えた。
 
この一件を思い出したのは、マスメディアの報道が問題視されるようになったからである。もし、院長が適切な判断をしなかったら、どうなっていただろう。教授が医局内の平穏を優先したらどうなっていただろう。K子のキャリアも人生も崩壊していたかもしれない。
 
噂や情報に惑わされることが多い時代である。ちょっとしたことが大きな問題に派生することもある。思わぬところで事件に巻き込まれることさえある。だが、人を判断する時は情報に惑わされてはいけない。
正確な情報を見極め、感情に流されずに冷静に行動する。それが、K子が教えてくれるこの時代の生き方だ。
 
 
 
 

***

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2024-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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