メディアグランプリ

今日も戸棚に隠し持ったギャグを取り出し振る舞う

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

「お母さん、ふざけてるっていう自覚は、あるんだよね?」
ある日、長男8才が私に向かって放った一言に膝から崩れ落ちそうになった。
 
お前は、私のことをそんな風に思っていたのか。
やけに冷静だな。
 
と、思うと同時に、もう一つの思いも湧き上がってきた。
当たり前だ! 家でふざけないで、どこでふざけるんだ。
お母さんは、ふざけてるという自覚は……ある!
 
幼少期、小躍りしたり変な顔をしておどけて見せると母は「あらあら」と言いつつも大変楽しそうだったし、祖父母は「この子はひょうきん者たい!」と言って喜んだ。
 
きっとその頃、私のなかで一つの概念が根付いた。
「面白さは、正義」である、と。
 
そのポテンシャルを見込んだのか、4つ離れた姉は私に色々な技を仕込んだ。
ある時は顔を白塗りにされて、志村けんの「バカ殿」を練習させられたし、数秒ごとにどんどん変わる自転車の電子ベルに合わせて「踊ってみろ」と特訓させられたこともあった。
 
機敏な動きを見せれば見せるほど姉は爆笑し、私もヒーヒー笑いながら踊った。
そして思うのだ。この勝負、勝った……と。
 
人を笑わせることが出来た瞬間、なんとも言えない充足感が心を満たすようになった。
 
アッハッハッハッー!! 
腹から笑えば自然と呼吸も深くなって体温が上がる。部屋はワット数がアップしたように明るく感じ、笑う者たちのまわりには花が咲いた気がした。
 
面白いことが大好きで、とにかく笑っていたかった。
 
ただ、ひとつ問題があった。
それは、この「面白さ」がまったく外では通用しないという事だった。
私が発揮できる「面白さ」は、完全に内輪ネタでしかないのだ。
 
家ではあんなにふざけるのに、外ではなんとなく周囲の目を気にするマセた子供だった。特に厳しくしつけられたワケでもないのに、外ではおりこうさんでいる事が多かったのである。自意識過剰だったのかもしれない。
しかも、外で笑わせるというのは非常に敷居が高い。私には無理だ。
 
学校や会社という外の世界でも、笑いを起こせるスター級の人たちを見ると、眩しくて目がくらみそうだったが、輪の中心に立って堂々と振舞うほどの度胸はなかった。
 
はじめて親という立場になった時、きちんとしなければという思いが強すぎたのか、肩に力が入った結果、内輪ネタで笑うことさえも忘れてしまっている自分がいた。(面白くありたい)という本来の願いから少しずつかけ離れていってしまったようだった。
 
しかし、その突破口を開いたのもまた、私の遺伝子を大いに受け継いで生まれて来たであろう二人の息子たちだった。
 
子供たちが何てことない出来事にケラケラと転げまわって笑う日常を見ているうちに、いつの間にか私の心にも火が点いた。
内輪ネタでもいい! やっぱり私は、面白くありたい!
 
火が点いたかと思えば、兄弟たちがよく笑うことも相まって、その炎はメラメラと大きく燃え上がっていった。
 
ある晩のこと、5才の次男がテレビアニメの影響かこんな事を言いだした。
「おかーつぁん、こうやって顔が変わるやつ、あるよね?」
追い詰められた人物が顎の下からガバッと上にめくって別人になるやつをやり始めた。本人は必死にやっているつもりだが、私から見たら変化が甘い。そんなに可愛い顔で締めてどうする。
「違う、こうだ。よく見ておけ」
そう言うと私はこれまで変顔で育ててきた顔の筋肉を総動員させて、人物Aから人物Bに大変貌を遂げてみせた。
 
私の動きすぎる顔筋に恐怖でも覚えたのだろうか。
一瞬しんと静まったあと、兄弟は椅子から転げ落ちる勢いで笑い出した。
私、何やってんだろ笑。自分のさまがおかしくて私も二人を追いかけるように爆笑したのだった。
 
いいぞ! この調子だ! これこそ私が持っている武器なんだ。
 
また別の日、兄弟と夕飯でパスタを食べていた時の事だ。
パスタソースに使った「ピエトロ」があまりに美味しくて悶絶した。
「ピエトロ」とは福岡で生まれ、全国拡大した老舗のパスタ専門店である。
 
兄弟が「うっま」と言って勢いよく食べる様子を見て私はとっさに叫んだ。
「ピエトロ様に拍手を!!」
兄弟とハハハッと笑いながら拍手喝采していたら思いもよらない事が起きた。
長男8才がテーブルの上に置いていたパスタソースの容器を高々と持ち上げた。そして、まるで観衆を見渡すかのようにゆっくりと容器を動かしたあと、観衆に向かって深々とお辞儀をして見せたのだった。
 
さすが私の息子!! 
アホイズムの継承!!!!!
 
ただのソースの容器が大統領のように見えて仕方なく私たちは腹がよじれるほど笑った。味もさることながら、大満足の夕飯となった。
 
兄弟のおかげで笑いを思い出した私の日々は再び輝きを増し始めた。
家でのみ量産する笑いの数々は、戸棚に隠しておいたお菓子みたいだ。
誰か客人に振舞うものではなく、ただ家族でこっそりひそかに楽しむ。こうやってひそかに楽しめるものがあれば、何はなくともそれが明日への活力になる。笑いは偉大だ。
 
私は知っている。
この戸棚に隠しておいたお菓子は本当に美味しく心を満たすことを。
外で例え自分を出せない日があっても、この戸棚のお菓子を楽しめばエネルギーは十分にチャージされる。これからも秘密のお菓子を食べながら私たちは外の世界を邁進していく。

 
 
 
 
***
 
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2024-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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