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コミュ障からの脱却 ーケースJー


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記事:田口志郎(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
私は「コミュ障」。
 
だった。
 
だった、と言うのは、今は違うということ。コミュ障でなくなるなんて、本当に出来るの? と思う方もいるかもしれない。しかし、私は「J」によって、コミュ障から脱却できたのだ。
 
それはどうなされたか?
まずは、昔の私を見てみよう。
 
 
私は周りとはちょっとズレた子どもだった。
他の子どもが興味を示していたものに、興味を示さなかった。
J-POPはまったく聞かない。芸能人に興味がなく、アイドルにキャーキャー言うこともないし、お笑い芸人を見て笑うこともない。テレビドラマは全く見ない。
それで、みなが盛り上がっている話題に、自分だけ「???」となる。だから、話の輪の中に入れない。
 
行動もちょっと変だった。
独り言が多かった。テストが早く終わってしまって、文房具を使って独り遊びをしていたことがある。そこまでは問題ない。だが、その様子を無意識のうちに独り言で実況中継していたのだ。テスト中に、独り言を言っている人がいてうるさかったと、学級会議になり、犯人探しの挙句、吊るし上げられた。それで、子ども心に、いたく傷ついた記憶がある。
 
人の意を汲むことや、思いやることが苦手だった。
友達が不安定なロープに上手にまたがり「どれだけ揺らされても大丈夫!」と言った。それを間に受けて、思いっきりロープを引っ張った。幸い友達は落ちはしなかったが、その場にいた全員から責め立てられた。
バレンタインに女子3人がチョコレートをくれたことがあった。今思えば奇跡でしかない。なのに、お返しにアメ1個しか上げなかった。女子陣はとてもショックだったろうし、失望させたと思う。過去に戻れるなら、自分にみっちりお説教だよ。
 
こんなんだから、周りと打ち解けられなかった。
 
興味は、周りの人間より、自分の好きに集中していった。それがゲーム。とにかくゲームばっかりやっていた。周りの人とのコミュニケーションは希薄。
男子とは、ゲーム仲間としか話さない。
女子とは、となると、話すことすらロクに出来ない有様だった。
まさに典型的ゲームオタク像を体現していた。
 
学生のうちはまだ問題ない。勉強さえ出来ていればなんとかなる。幸い、私は成績優秀だった。
だが、大学の卒業が見えてきて、皆が就職活動に精を出すころになると、そうもいかなくなった。思うに、私のコミュ障の根っこは、とにかく自己肯定感が低いことだった。そんな私が、自分をさらけ出して社会に飛び出そうとするなんて、恐ろし過ぎて出来なかった。つまり、就職活動が出来なかった。
親に頼み込んで、大学院に進学し、問題を先送りした。モラトリアムの延長だ。
だが、2年の時が経過しても、何も変わっていなかった。このままでは、無駄に高学歴な自宅警備員になる。見かねた教授が、大学の助手の口を斡旋してくれ、それに一も二もなく飛びついた。
そして、この、ただの逃げ道でしかなかった選択が、私の大転機となった。
 
 
助手の主な仕事は実習の補佐だった。私は情報系の研究室出身だったので、プログラミングの実習を担当した。補佐というのは、実習中、学生に分からないことがあったら、それを教える役割である。
そう。学生とコミュニケーションを取らざるを得ない仕事だった。
 
そんなのコミュ障に出来る訳ない……はずだった。
 
だが、私は助手の中でも、学生からの信頼ある助手というポジションを獲得した。
 
何故そうなれたのか?
 
私はオタク。
オタクあるあるに、自分の好きなことだとまくし立てる、がある。普段、うまく話せないのは、話すことが出来ないのではなく、話せる状況が作れないだけ。だから、話せる状況であれば話せる。というより、むしろ、よく話す。私はこのタイプだった。
実習においては、学生側から質問してくることが多い。私は、話しかけられてもダンマリするほど重症ではなかった。学生の対応をするために助手がいるという大義名分が、さらに会話へのハードルを下げてくれていた。
また、私はどうやら説明が上手なようだった。本をよく読んだおかげか、語彙や文章作成能力は人より優れていた。理系らしく、論理的に、順序だてて説明できるスキルもあった。
そして、実習はプログラミング。プログラミングは、私が唯一と言っても良い、自主的に熱心に勉強した科目。だから、実習レベルであれば、噛み砕いて、+αして説明できるくらいに習熟していた。
なので、私の質疑応答は好評であるらしかった。回数を重ねて慣れてくると、心に余裕が生まれる。そうなると、自分から来られない学生に、こちらから救いの手を伸ばすことも出来るようになる。頭を悩ませているのが明らかだが、自分からは質問できない、私の同朋たちに。それで、より好評を得て、私も自信を付け、説明がよりやり易くなり、という好循環が生まれていた。
 
幸か不幸か、助手陣にプログラミングの得意な人が、私以外にはいなかった。結果、プログラミングで困った学生が、実習以外の時間でも、私のところにやってくることが珍しくなくなっていた。私は時間の許す限り、丁寧に対応した。中には質問ついでに、次の試験で出る問題を聞き出そうとする不埒な輩もいたが。そういう輩は、質疑応答が済んだら速やかにお帰りいただいた。
 
かくして、私は学生からの信頼を勝ち得たのだ。
 
そして実習での経験が、普段のコミュニケーションにも影響を与えていた。会話の経験を数多く重ねることで、自分にもできるものだと認識するようになったのだと思う。以前のように、全く話せないということは、ほとんどなくなっていた。人と話せるようになったら、人との交流が楽しいものだと分かって、社交性もだいぶ増した。今や、流行りの16タイプに分かれる性格診断をすれば、外交的という診断結果が出るまでになった。これはもう「コミュ障」なんかではない。
そう。私は「助手(”J”OSHU)」によって、コミュ障から脱却できたのだ。
 
 
逃げるように就いた助手という職だったが、そこでの経験で、コミュ障から脱却できて、本当に幸運だった。変われることが出来た今では、助手を経験せず、昔のままだったらと思うと、ゾッとする。
最近、私は新しいコミュニティに所属して、人と知り合う機会も増えた。新たな出会いは、日常に刺激を与えてくれるし、とても楽しい経験だ。おかげで、最近は充実した日々を過ごせている。コミュ障からの脱却を果たしていなければ、この生活もあり得なかった。
 
ちなみに、助手には3年という任期があって、任期満了後、私は異なる職に就いたが、それはまた別の話。
 
昔に比べ、自分が「コミュ障」と言う人をよく見るようになった。コミュニケーション下手の免罪符が欲しくて、そう主張している気もする。コミュ障という性質からは、逃れられないと観念して、言い訳するしかない。そう思っているのかもしれない。だが、コミュ障でなくなることが出来るなら、それが一番良いはずだ。そして私はコミュ障から脱却できた。たまたま置かれた状況が、上手く作用した結果という、偶然の産物であったが。だが、確かな脱却成功の一例だ。
かつての私の同朋、コミュ障の方々。脱却の道は、ある。具体的なやり方は、人それぞれだろうけれど。どうかあきらめずに、その道を探して欲しい。脱却の先には、以前より充実した日々が待っているはずだから。
 
 
 
 
***

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2024-12-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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