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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内山遼太(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
※この記事はフィクションです。
 
「俺のやっていることは、誰にでもできることなんじゃないか?」
 
内山明(うちやま・あきら)は、オフィスを出て帰り道を歩きながら、自分に問いかけた。夜の街は静かで、オレンジ色の街灯が道を淡く照らしている。今日も仕事に追われ、目の前の問題をなんとか乗り切ったはずなのに、心は重かった。
 
管理者補佐として、部下や上司のサポートに奔走する毎日。柔らかい物腰で人々の対立をやわらげ、どちらの意見にも頷く。それがいつしか内山の「役割」として定着していた。上司からは「内山さんに任せておけば安心だ」と評され、部下からも相談を持ちかけられる。けれども、その場を収めるだけで、何かを解決した実感はない。
 
先ほどの会議もそうだった。営業部と開発部が激しく対立していたのを、内山は「まあまあ」と調整して終わらせたばかりだった。きっかけは、顧客からの要望で納期を前倒しにする提案だった。営業部は「顧客の信頼を守るために絶対に対応すべきだ」と主張し、開発部は「スケジュール的に無理だ」と断固拒否。会議室の空気は次第に険悪さを増していった。
 
「内山さん、どう思いますか?」
営業部の田村が問いかける。少し詰め寄るような口調だった。
 
内山は視線を感じながら、無難な言葉を選んだ。
「どちらの意見にも一理ありますよね。少し冷静に考えましょう」
 
それで一旦場は落ち着いたように見えたが、結局、何も決まらなかった。課長がその後介入し、最終的な判断を下すことになった。
 
会議終了後、課長が内山を呼び止めた。
「内山君、いつも助かってるよ。君が調整してくれるおかげで場が穏やかになっている。でもね……」
課長は少し声のトーンを下げた。
 
「君にはもう少し踏み込んでもらえないかな。管理者補佐というのは、単なる調整役じゃないんだよ。必要なら嫌われてもいい、そういう覚悟がなければ意味がない」
 
嫌われてもいい。課長のその言葉が、内山の胸に重くのしかかった。それ以来、「自分は本当に補佐役として価値を生み出せているのか?」という疑問が離れなくなった。
 
数日後、内山は会社が手配した外部研修に参加した。登壇した講師の三浦という男は、冒頭から強烈な言葉を投げかけてきた。
 
「八方美人ではダメなんです」
 
その言葉に内山はハッとした。三浦の言葉は、彼の中の何かを見透かしているようだった。
 
「管理者補佐の仕事は、調整することじゃありません。価値を生み出すことです。価値を生むには、時に誰かに嫌われる覚悟を持たなければいけない」
 
内山は三浦の話に引き込まれていった。「嫌われる覚悟」。それは、これまでの自分にはなかったものだった。調整役として誰にも不快感を与えず、波風を立てないことが自分の役割だと信じていた。しかし、それが本当にチームや会社にとって必要なことなのだろうか。
 
「自分が正しいと思う決断を下し、その結果で信頼を勝ち取れ。それが管理者補佐としての本質なんです」
 
その言葉が胸に深く刺さったまま、内山は研修を終えた。帰りの電車の中で窓の外を眺めながら、ぼんやりと考え続けた。「俺は本当に信念を持って行動しているのだろうか?」
 
数週間後、再び難しい場面が訪れた。開発部がプロジェクトの方針転換を提案したが、営業部が猛反発していた。新しい方針は短期的には営業の負担を増やすが、長期的には会社の競争力を高める可能性がある。会議室の空気は重く、内山に全員の視線が集まっていた。
 
「内山さん、どうするんです?」
営業部の田村が再び問いかけた。その目には期待と不安が入り混じっている。
 
内山は深く息を吸い込み、三浦の言葉を思い出した。「嫌われる覚悟」。彼はゆっくりと口を開いた。
 
「私は、開発部の提案を支持します。この方針の方が会社全体の未来にとってプラスだと考えています」
 
会議室が静まり返る。田村の表情は険しく、他の営業部員たちも不満そうだった。しかし内山は続けた。
 
「もちろん、営業部の負担が増えることも承知しています。そのために私ができる限りサポートします。それでも、この方向性が正しいと信じています」
 
緊張した空気が漂う中、開発部の部長が「ありがとうございます」と静かに頭を下げた。その後、田村も不満げながら少しだけ頷いた。
 
会議が終わった後、課長が内山に近づいてきた。
「内山君、よくやったね。あの場面であの決断を下せたのは本当に立派だ」
 
その言葉に内山は静かに微笑んだ。課長のその一言が、内山にとってこれまで感じたことのない達成感をもたらしたのだ。
 
その夜、少し早く帰宅した内山は、夜空を見上げながらそっとつぶやいた。
「これでいい。たとえ嫌われても」
 
自分の信念を貫くことで得られる充実感を胸に、彼は明日からの新たな挑戦に向けて歩き出した。
 
 
 
 
***

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2024-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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