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それはそれとして、オーロラを観に行く


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:しんがき佐世(さよ)(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
仕事、家族、掃除、買い物、今年の振り返り、翌年の計画、たまった返信。
年末になると「やらなきゃ」と「やりたい」の山に埋もれがちだ。
 
自然と「やることリスト」が増えていく。
 
 
ある午後、前に買った本をぱらぱらめくると「やることリスト」作成ポイントが書かれていた。
 
重要なのは、「Have to / Must」などの「やらないといけないこと」のみにしないこと。
義務と責任のみだと気が重くなりタスクをこなせなくなる。
心理的負荷から、リストに目を背けてしまう。
だから、「Want to」の「したいこと、やりたいこと」を、ほどよくリストに盛り込むことが大事だそうだ。
 
仕事あれこれ、食材の買い出し、管理会社に家の修繕依頼、映画3本、読みたい本、家族でプラネタリウム。
やりたいことを盛り込むと、リストがさらに伸びた。
 
それぞれの所要時間を足したら、24時間をはみだした。いつ寝るの。
ぞわぞわするリストになった。
 

「あれも、これも」と手と目をせわしなく動かしながら、頭の中では次の予定が浮かんで落ち着かない。
 
心が浮つく自分に、机の上のスマホがぶるっと震えた。
 
メモのリマインダ機能がわたしに一言。
 
「それはそれとして」
 
はっとした。
一呼吸して、心の中でとなえてみた。
 
(それはそれとして……)
 
「あ、お茶飲もう」
 
お湯が沸くまでの間に、ベランダで深呼吸した。
急に暗くなった空に気づいて、雨が降りだす前に洗濯物をとりいれられた。
一瞬、洗濯物たたまないと、と思ったが、さっきの言葉が効いていた。
 
「ま、それはそれとして。お茶飲もう」
 
沸かしたお湯で、一番煎じの濃いお茶をゆっくり飲んだ。
 
リストの項目は減っていない。
けれど、やることリストの行間がすこし広くなった気がした。
 
 
「それはそれとして」
 
これは、ある友人が教えてくれた言葉だ。
 
わたしたちは、やることが多い。
仕事も、家事も、他人のことも、自分のことも、多方面でやることが多い。
とくに差し迫っていると、視野が狭くなって優先順位があやふやになる。
 
そんなとき、友人はやることリストに、「それはそれとして」と醒めた態度を取るのだという。
 
「ま、それはそれとして、ごはん食べよう」
「ま、それはそれとして、家族を抱きしめよう」
「ま、それはそれとして、目を閉じよう」
「ま、それはそれとして、深呼吸しよう」
 
友人いわく、所ジョージさんの声で「まーまー。それはそれとして」脳内再生するとイイカンジなのだそうだ。
 
友人のアイデアに感動してスマホのリマインド設定していたのが、絶妙なタイミングで発動した。
 
 
 
「それはそれとして」この一言が、心の焦りをリセットしてくれる。
すべてを抱え込まず、自分からいったん切り離す合図の言葉だ。
 
 
やることリストが人生ではない。
人生をつくる材料だけれど、それありきの人生ではない。
 
 
 
先日もこんなことがあった。
仕事が立て込んで、仕事を持ち帰って帰宅するバスが渋滞にはまった。
雨が強くなるにつれ、渋滞はちっともほどけない。
気づけば心の中で、今日の残り時間を数えていた。
 
だが、ふと思い直した。
 
「それはそれとして」
 
 
心でとなえたら、眉間にシワ寄せる今の自分がイイカンジに馬鹿馬鹿しく思えた。
動かないバスの中で、必死に心を走らせている。
焦ったところで、どうにもならん。
 
「それはそれとして、すこし休もう」
 
座席に深く座り直して、窓の外を見た。
年末のイルミネーションが雨で濡れた道路に映って、光を増している。
並ぶ車のテールランプの赤と信号機の青が、流れる雨粒に混じって車窓が明るくにじむ。
 
仕事は残ってるし、締め切りに間に合うかどうかわからん。
 
「それはそれとして」きれいだなぁ。
 
気づけばバスは動いていた。
渋滞は抜けていた。次の仕事にも間に合った。
もしかしたらうたたねしたのかもしれない。
 

忙しいときこそ、焦って事態をコントロールしようとやっきになるのは逆効果だ。
 
 
あれが終われば、次はこれ。
死ぬまでやることは消えないだろう。
やらなければならないことも、やりたいことも、まだまだあるだろう。
 
だからこそ、やることリストから自分を切り離す時間が大事だ。
 
「やることのため」のリストではなく、「自分になるため」のリストだ。
 
やることリストのはざまに「それはそれとして」と、間の抜けた接続詞をはさむ。
 
忙しさに視野狭窄になりそうな本末転倒の日々から、ふと、我に返る。
 
すこし調子外れの接続詞は実は、本質をついているのかもしれない。
 
 
先日、家族と福岡市科学館のプラネタリウムへ出かけた。
仕事も家事も途中だったが、珍しいオーロラ映写イベントを家族一緒に楽しみたかった。
 
半球型スクリーンに広がる高解像のオーロラに、視界ぜんぶが覆われた。
暗い館内のあちこちで小さくため息がもれる。
 
奇しくも今年は太陽の活動期で、希少なオーロラが観測されたという。
わたしたちの頭上におおいかぶさる美しい現象は、数週間に極地で撮影されたものらしい。
 
そりゃもちろん、本物を現地で観れるに越したことはないだろう。
だからといって、撮影されたばかりの天空にいま、家族で見惚れる幸せが本物じゃないわけがない。
 
やることリストに追われて、家族を後回しにした、悲しい記憶がある。
やることリストを優先して、体や心の悲鳴を無視した、痛みの記憶がある。
そして、わかっていながらも性懲りもなく繰り返した、苦い記憶がある。
  
だからこそ、目の前のやることに圧倒されながらも、どこかで醒めていたい。
 
目の前のやることからしばし目をそらす視界に、ここではないどこかのオーロラを捉えていたい。
 
わたしは忘れっぽい。
忙しさにかまけて、大事なことをまた忘れてしまいそうだ。
なので再び、未来の自分にリマインド設定をした。
 
きっと忘れた頃に「それはそれとして」とポコっとスマホ画面に浮かび上がるだろう。
 
 
新年になっても、やることリストは途切れず続いていく。
 
それはそれとして、あなたは何をしますか。
 
 
 
 
***

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2024-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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