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もしもし、私、天狼院書店。今あなたの後ろにいるの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川 余(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「キラキラしてるな、この人……」
 
 HPに載っていたその女の写真を見たとき、思わずつぶやいていた。
私の母と同じくらいの歳だったと思うが、年齢を感じさせないエネルギッシュなイメージをその笑顔から受け取った。
 もう昔の話だ。
 私は社会人になってすぐの頃で、お金も経験も持ち合わせていなかった。実際に若かったが、童顔で実年齢よりさらに若く見られ、そのせいで取引先にもなめてかかられることが多かったので、「今の自分から変わりたい」とものすごく焦っていた。
 女は、「女性が輝いて生きていく」ことを目標に掲げ、そのためのノウハウをコンテンツとして提供していた。
 無料コンテンツが欲しかったこともあり、ためらいなくメールマガジンに登録した。
 
 次の日から、「余さん、こんにちは」と冒頭に名前の入ったメールマガジンが毎日届く。その内容は、女性らしくふんわりした雰囲気をまといながらも読みやすかった。
 メールマガジンの中では、女が日々使っていてオススメの日用品(彼女のコンテンツではない)が、ときどき彼女の実体験とともに紹介されていた。実際に買って使ってみると確かに良い商品で、「いい買い物をした」という満足感も得られていた。
 今思えば、文章での誘導がうまかったように思う。
 メールマガジンでは、女自身のコンテンツの宣伝話はほとんど出てこなかった。
 
 ある日、メールマガジンの内容で分からないことがあり「どうせ読まれないだろう」と思いながらも質問メールを送った。
 女は数時間後に返信をくれ、次の日のメールマガジンにその質問が取り上げられた。いい質問だと褒められていた。
 「女に認められた」という高揚感が私の全身をかけ巡った。
 
 私はすっかり女のファンになり、女の提供するコンテンツをどんどん購入した。
 もっと女に近づきたくて。
 女のように、キラキラした生活を送りたくて。
 そして、「女に直接会ってセミナーを受けたい」と思い、ついに東京での対面セミナーを申し込み、地方から上京した。
 少人数のセミナーで必死にメモを取り、毎回セミナー終了後に開催される懇親会では女の近くを死守し、積極的に女に話しかけた。
夢のようだった。
 
 対面セミナーで出会った6人の受講生とは、すぐに仲良くなった。
 みんな私と同じで、女のファンだったから。
 全員年齢も仕事もバラバラで、全国各地から集まってきていた。
女は言うまでもないが、受講生の友人に会えることも楽しみとなり、毎回上京した。
 
 あるときから、その友人の一人(仮に「Aちゃん」とする)と連絡が取れなくなっていた。
 他の友人に聞いてみてもみんな同じだと言う。
 6人とも受けていたセミナーの最終日に、彼女だけが来なかったことを不思議に思いながら、懇親会場に向かった。
 ところが懇親会は、
 
「Aちゃんね、セミナー代を分割払いにしてほしいっていうから分割払いにしてあげたのに、全部まだ払いきれてなくて、『支払をもう少し待ってほしい』って言ってくるの。あり得ないでしょう?」
 
と、怒り狂っている女を受講生たちでなだめる会になった。
 私はその話を聞いて、
「セミナー代って、頼んだら分割払いにしてもらえたんだ。さすがに思いつかなかったな」
と、Aちゃんの行動力に一人感心したのだが、女には言わなかった。
 私たちはその後もAちゃんと連絡を取ることはなく、女が次々に開催していくセミナーを、5人それぞれ申し込んでは受け続けた。
 
 最後に受けたセミナーは、グループコンサルに近かった。
 今まで一番、セミナー代が高かった。
 講義の後に女から課題が出され、次のセミナー日程までに私たちが実際にそれを作ってきて、みんなの前で女からの講評を受けるという形式だったが、全員なかなか合格点をもらえない。
作っても作ってもダメ出しされ、いつの間にかセミナー日程は後1回しか残っていなかった。
「これって、セミナーが終わるまでに完成できるのかな? もし終わっても合格点がもらえなかったら未完成のまま? その場合はどうすればいいの? 自分だけで作り続けろってこと? それともまた同じセミナーを受けろってこと?」
 そんな不安が心の中でぐるぐるしていたが、どうやら5人とも同じ気持ちだったらしく、女抜きで東京に集まって自主ゼミをしようということになった。事前に受講生同士で気づいた点を指摘しあっておけば、女からの講評内容も少しは進んだものになり、きっと残り1回の日程を有意義に過ごせるだろうと思ったのだ。
 
 友人だけで会っていると気持ちが楽になり、ただの世間話のように、思っていたことを言えてしまう。
 
「あのさ、前から思ってたんだけど……」
 
 誰が言いはじめたのか覚えていない。
 でも、女に対して同じような疑問や不満、そして不安を感じていたことを知ってしまった。その中には、Aちゃんへの対応が冷たすぎる、Aちゃんの分割払いという秘密を私たちに勝手に話したのは大丈夫なのか、そもそもAちゃんと同じ立場の私たちにそれをぶちまけて怒り狂っているのはおかしいのではないか、というのもあった。
 そこからは早かった。
 その場で全員が女と訣別することを決めた。
女に悟られないよう、それぞれがそれぞれの理由で今のセミナーを途中で辞めることについて、時期をずらしながら慎重に伝えた。もちろんこれまでの感謝も忘れずに。
 以後は自分たちだけで集まり、自主ゼミを続けた。
 女はもう、私たちに必要なかった。
 
 私は最終的に、女のセミナーに合計100万円ほどつぎ込んだ。
 勉強代は高くついた。
 女のセミナーに参加したことも、女のファンであったことも、すべて黒歴史として封印し、誰にも話さなかった。
 
 
 過去を思い出す時間もないほど慌ただしい毎日を過ごしていたが、天狼院書店が開催するライティング・ゼミの初日前日の夜、ベッドで横になっていたら、なぜか女のことを唐突に思い出してしまった。
一瞬で嫌な気持ちが蘇る。
あんな女のことは忘れて早く寝ようと、寝返りを打ったそのときだった。
 
 
 思い出したのだ。
 
 
 女がどこかのタイミングで、
 
「天狼院書店のライティング・ゼミを受講した」
 
と話していたのを。
 
 
 どうして、こんなに大事なことを、忘れていたのだろう。
 
 
 私は、天狼院書店のライティング・ゼミを、自分で見つけて申し込んだと思っていた。
 でも、もしかしたら、そうではなかった?
 
 
 脂汗で背中がヒヤリとした。
 
 
※ この記事はフィクションではありません。
 
 
 
 
***

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2024-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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