小さな改革者
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山形ゆか(ライティング・ゼミ11月コース)
「給食を残す児童が多く、学校で大きな問題になっている。この問題を解決するために何をしたらいいと思う?」
小学6年生の甥っ子から、突然の質問。
とりあえず適当に返してみた。
「残ることが多い人気のないおかずをやめる」
「うーん……。他には?」
彼は、まだまだ子どもだけど読書好きのせいか、大人びた会話を好む。今日も、このお題にそれなりのちゃんとした考えを出してほしいのだろう。
私が返した適当な答えでは、全く満足していない様子だ。
「いっそ献立を2種類から選べるようにして、給食をサービスとして充実させる。これなら、満足度も上がって残すこともきっと減ると思うけど」
「違うねんなぁ。お金をかけずにできる方法があるねん。実際やってみたら、すごく効果がでて先生も驚いてた」
「将来は世の中を変える人になりたい」と大きな夢を語る甥っ子は、歴史好きで理屈っぽいが、話していると面白い。
彼は、すでに実践し答えを持っているという。
そうなると、なんだか悔しい。
「もう少し考えさせて!」
と言ってみたものの、考えてもなかなか良いアイデアは浮かばない。
そもそも私が給食を食べていた当時は「残さない」が当たり前。苦手なものでも、食べるしかない。
トマトを前に泣きそうな顔をしている子。
サラダの中から取り出したレーズンを、さらに細かく刻み格闘する子。
牛乳を少しずつ飲んでは、ため息をつく子。
こんな裏技もあった。
物々交換で、牛乳を飲んでもらう代わりにトマトを食べてあげるのだ。先生に見つからなければ、交渉は成立だ。ただし、見つかれば二度と使えない。
そうは言っても給食を楽しみにしている子も多くて、好きな料理なら「大盛り」や「おかわり」に列を作ることもしばしば。希望者が多ければ、ジャンケンで決めるのが通例だった。
食べ物を粗末にせず「残さず食べる」が当たり前だった時代。
その反面、苦手なものがあれば給食は苦行だ。昼休みが終わっても、掃除の時間が過ぎても、帰りの会になっても机の上に置かれた牛乳。担任が飲ませることを諦めるまで、根競べが続く。
今のご時世、これではパワハラやモラハラとなりかねない。いつからか「嫌いなものを無理に食べさせない」となったようだ。今では、残さず食べることを強制されない。
確かに、栄養素の面から考えれば必ずしもその食品から摂る必要もなく、選択肢はいくらでもある。嫌いなものを無理強いし、食べることが嫌になってしまっては本末転倒。苦手なものを「残さず食べる」が苦痛だったことは確かなのだから。
年月が過ぎ、今度は「給食を残す」が当たり前になってしまった。
嫌いなら残す、食べきれないなら残す。
世界的に食料難と言われる時代に、食べ物を粗末にしてはいけないはず。
そうか、それだ。
「わかった! 世界的に食料不足だとか、日本のゴミの量の話とか、改めて学ぶ機会を作った。」
大したアイデアではないが、大事なことだからとちょっと上から目線で言ってみた。
「まぁ、それも大事なんやけど、違うねんなぁ。もっと効果的な方法」
自信満々の笑顔で、答えを言いたげな甥っ子。
気になる! 小学生が導き出した答えが気になる。
「どうしたん?」
我慢できなくて、答えを求めてしまった。
「知りたい?」
「知りたい!」
「正解は、給食の時間を5分長くした」
「えっ? どういうこと? もっと詳しく教えて」
私は、得意げに語る甥っ子の話に聞き入った。
自分たちのクラスをだけを見ても、給食は毎日必ず残っていた。
「なぜ給食がこんなに残すのか? この問題をなんとかしたい」から始まったそうだ。
全校にアンケートを実施したところ、結果は意外なものだった。
嫌いだから残すという当たり前の意見もあったのだが、「時間が足りないから」が一番多い理由。
・おかわりしたいときもあるが、時間が足りない
・最後まで食べていると給食の時間が終わってしまう
・食べるのが遅いので、時間内に食べきれない
苦手だから残したのではなく、残さず食べたいと思っても時間が足りなかったのだ。
給食を最後まで食べていては、体育館やグランドの場所取りに間に合わない。急いで食べて、チャイムと同時に飛び出していかなければ、昼休みが終わってしまう。
担任にアンケートの結果を見せ、学校への働きかけをお願いした。
実は、小学生の1日の時間割は、文部化科学省が基準として定めた「学習指導要領」や「学校教育法施行規則」をもとに各小学校で決めている。
つまり、時間の割り振りは各学校単位で変更できるのだ。
担任の働きかけもあり、子どもたちの熱意に学校が動いた。
給食時間の5分延長を、テスト的に始めたのだ。
結果、5分の延長で大幅に食べ残しの削減ができた。学校としても児童が自発的に問題に目を向け、改善のために考え行動したことを評価していたに違いない。この取組みは市内の小学校間でも共有され、給食時間の5分延長を検討する学校もでてきたそうだ。
甥っ子とその友人は、素晴らしい視点で見事な改革を行った。
あれから3年。
中学生2年生となった甥っ子は、生徒会長に立候補して見事に落選したそうだ。
相変わらずのチャレンジ精神には頭が下がる。
以前に比べると、少しだけ控えめになったが「世の中の問題を解決できる人になりたい」と夢を語る。
今は小さな改革者たちが未来の日本を作っていくのだと思うと、ワクワクが止まらない。
***
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