今宵、ギャングエイジを胸に抱いて眠れ
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記事:パナ子(ライティング・ゼミ9月コース)
担任の先生が私を脅してきたのは、冬休みが間近に迫った12月の半ばだった。
「ところでお家ではどんな感じですか? お母さんに反抗したりとか、ないですか?」
個人面談中にそう聞かれ、そうですねぇ……たまに言い合いになったりすることもありますけど……とぼんやりとした回答を口にすると先生がハッキリと言った。
「そろそろ親に対して反抗的な態度を取るようになります。二学期の終わり頃もしくは三学期にはだいたいみんなそんな感じになります」
え? 早くない??
反抗期ってもっと5年生とか6年生とか、なんなら中学生になってからと思っていた。うちの息子はまだ小学3年生だ。
そう思いつつ、この時の私はまだ余裕のよっちゃんという感じで(ヤダァ先生、うちの子眠る時は必ず私の抱っこがいるんですよ?)などと心中でほざいていた。
冬休みは一緒に映画に行ったり、公園で遊んだり、お家でぬくぬくしたりと楽しく過ごすうち、面談で言われた内容もすっかり忘れてしまっていたのだが、新学期が始まって数日、それは確実にやってきた。
先生が貞子ばりに(来~るぅ~、きっと来るぅ!)と脅してきてから約三週間後のことだった。
安全のために持たせているGPSの追跡が下校途中の道で途絶えた。普段だったら三時半までには自宅に到着する8才が帰ってこない。下校途中で何かあったのか、四時まで待って帰宅しなかったら探しにいこう。
不安な気持ちで待っていると、近所のママ友から連絡が入った。
どうやらランドセルを持ったままお友達の家に上がり込み、さらにそこから外遊びに行ってしまったようだった。よかった、無事だ。子供の行方がわからない時ほど心配なことはない。
問題は帰宅してからだった。
落ち着いた口調で「必ず一度帰宅することを約束してほしい。とても心配した」とだけ伝えると「わかった」とは言ったものの、それからの態度がものすごく悪かった。
5才の弟にやたら喧嘩越しになり手を出し足を出し、私のちょっとした質問には「はぁ!?」など語尾をまくり上げて、ふてくされる。
どうしたの! その態度は!! 一体何なの!!!!!
8才の態度が悪すぎて悪すぎて、西野カナぐらい震える。
もう無理です。お母さん限界です。
先生! 先生がせっかく教えてくれた反抗期をうまく乗り切るコツ【適度な距離を保ち、温かい目で見守ってあげてください】は、私には到底できそうにありません!! 申し訳ありません!!
鬼の形相で詰め寄り、おじさんよりも低い声でこう言った。
「ねえ。今の自分の態度がおかしいとは思わない……?」
努めて冷静に話したかった私の気持ちをへし折るように8才は「何が?」などとさらに悪態をついた。
今まで我慢した気持ちが堰を切ったようにあふれだす。
「お母さん、外遊びは大賛成だよ。どんどん外でお友達と遊んでほしい。とても健康的だなと思うから。でも、もしかしたら、寒い中ずっと遊んで疲れたんじゃない? それと学校の宿題をこれからやらないといけないのが自分でもストレスなんじゃないの!? 外で遊ぶのは構わないけど疲れたせいで家族のみんなに嫌な態度取るようだったら賛成できない。今の君の態度はちょっとひどすぎる!」
8才はおおよそ言い当てられてドキッとしたのか涙目で拳をぎゅっと握りしめた。そして、絞り出すように言った。
「別にいいやん……友達と遊んだっていいやん……」
(ぼくとお母さんの二人だけの世界)よりも大きい(俺と! 俺の大好きな! 友達との世界!!)が新たに誕生した瞬間だった。
実は、この世代のことをギャングエイジというらしい。
ギャングとは恐ろしい。暗い地下室で葉巻をスパスパやりながら、裏取引のイケない打ち合わせでもしそうな雰囲気だ。
しかし、これは教育心理学などでも定義されている言葉であり、文科省などさまざまな機関でこの時期の子供の変化と親の接し方が示してある。
そもそもギャングとは「集団・仲間」を意味し、集団で行動することが増える小学3~4年生頃の子供たちのことをギャングエイジと呼ぶのだ。
ギャングエイジの特徴は下記の通りだ。
男の子は男の子同士、女の子は女の子同士、同性のグループを作り行動する。
先生や親よりお友達が大事になる。
反抗的な態度や乱暴な言葉遣いをする。
同性のグループはいい。大事なお友達がいるのもありがたいことだ。
しかし、今日みたいな反抗的な態度がしばらく続くのかと思うと……頭が痛い!
だが、ここで朗報だ。
このギャングエイジの時期は成長過程として重要な時期であり、子供たちは経験したり失敗したり、時に大人に冷静に叱られて反省したりドキッとしたりしながら大きくなるのだ。すこやかな成長に必要不可欠な時期ともいえよう。
大事なのは、大人の対応を間違えないことである。
まずはそういう時期を生きているのだと理解し、変化を受け入れ、ほどよい距離感かつ温かい気持ちで見守ることである。
私は早速間違った。感情的になり「ひどい!」などと彼女ヅラで泣き落としのようなマネをしてしまったのだから。
はぁーーー相変わらず子育て激ムズゥと顔をしかめながら過ごした日の晩、8才と一緒に入ったお布団で彼が小さな声で伝えてきたのは意外な言葉だった。
「ねぇ、お母さん、抱っこして?」
そういえば! と思う。
少し前まで毎晩のように抱っこをせがんでいた8才が、このところ抱っこと言わなくなっていたことに気付いた。
きっと君はお友達の世界と、お母さんとの世界を行き来しながら大きくなるんだね。近い将来自分から「抱っこ!」と言わなくなる日がくるのかもしれないと思うと、この時間が愛しくてたまらなくなった。
もしかしたら8才の反抗的な態度にまた感情的になってしまうかもしれない。でも、彼はいま大事な時期を生きているのだという事だけは忘れずにいよう。
そう心で呟きながら、私は8才を強く優しく抱き寄せて眠った。
***
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