メディアグランプリ

善良なおばちゃんの勘違いがダイエット相談のあり方を変えてくれたので感謝したい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:志村幸枝(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
肯定も否定もできないまま私は電車の優先座席の前に立っていた。
張り付いた愛想笑いとともに。
手すりを握る手にギュッと力が入った。
 
だってそうでしょうとも。
一見善良そうなおばちゃんが、しきりに席をすすめてくるのですから。
優先座席は困っている人に席を譲るゾーン。
まずは自分が立とうとして席を譲る。それでダメなら「あちらも空いてますよ」と
アイコンタクトで促してくる。
 
「ん??」
 
善良おばちゃんは、その善良さ故に、困った人(ここでは私のこと)を助けたい一心だ。
善良魂はとどまることを知らない。ついにはジェスチャーで自らのお腹を指さし、
(だって、ほら、おなかが、あれでしょ? たいへんでしょう?)
とカラダまで使って言ってきたのだ。
 
ちょちょちょちょ、ちょと、待って。
 
私は、お腹があれしてるように見えて、妊婦ではない。
敢えて言うなら、経産婦。
 
産後のダイエットは何とか成功させたつもりだが、お正月ごとにこれまでの自分を超えていくことは更新中。ちょっとは、いや、わりと? お腹をポッコリさせていたことも否めない。
 
さすがに、そんなことまで善良おばちゃんは知る由もないだろうが、
アイコンタクト及び、ボディーランゲージを駆使してまで、自身の善良さを全うすべく、私の目に、心に話かけてきた。
 
優先座席ゾーンにいながらにして、私は結界を張る。
おばちゃんの善良パワーが私を侵食しないように。
おそらくこのおばちゃんも、妊婦だったり、経産婦だったり、母だったり、おばあちゃんだったりして、その人生経験から、確信を持ってそうしたに違いない。が、しかし。
 
通勤で毎日乗る、つまりは、わりとメンバーが固定されている電車の中で、
肯定すればその後の展開に差し支えるし(この先妊婦を演じ続けることになる)、
否定してはおばちゃんを傷つけてしまう。
でもさ、その無邪気な善良さもこちらを傷つけているのだよ。
 
張り付いた愛想笑いが無になるまで、あれこれ逡巡した。
とりあえずあと5分。こらえろ自分。電車を降りたら、この気まずさからは解放される。
 
 
 
電車を降りたら、冷静になった。
 
そうだな、数年前なら、「ちょっと増えたかなー」と思ったときに意識して取り組めば元に戻せていた。でも今は戻らない。戻せていない。理由はいろいろあるけど、こと自分に関しては客観的に分析できないみたいだ。前述のとおり、お正月に増えた分が、翌年のお正月まで持ち越され、さらに過去最高の私になっていた。努力しているはずなのに、結果を出せずにもがいている。
 
 
 
そうか、お客様はこのジレンマを抱えて相談に来ていたのか。
 
実は私の仕事は漢方相談である。
 
それまで、ダイエット相談を受けたとき、「何としてでも結果を残してもらおう」と
気負っていた。漢方は安くはないし、お客様からしたら投資だ。それなりの費用対効果を実感頂けなければ、今後の継続にも差し支える、と。(まぁ、実際、大切なことだ)
 
「意識したら元に戻せていたフェーズ」の自分は、結果の出せないお客様に、どうすることが最善なのか、真剣に考えていたし、今から思えば、わりと厳しくやってしまっていた。(これだけ漢方を使ってくれているのに結果が出ないなんておかしい。食事の内容をもっと突っ込んでみよう、など) でもそれは、結果的にお客様を遠ざけていた、とも思う。
 
ダイエットのお客様が、パタリと来なくなって、数年後、リトライされるケースも多々あった。その時に言われてしまうのが「あの時は、結果を出せないのが、申し訳なくて、行けなくなった」だったり、「怒られるから行きたくなくなった」などだった。
 
プレッシャーをかけるつもりも、ましてや、怒っているつもりもなかったのだけど、結果的には、お客様に窮屈な思いをさせてしまった。今だったら「痩せなくても、痩せようとしていることに意義がある」って、思える。だって、自分もそこで、もがいているのだから。
 
もがき世代は体重云々だけでなく、「重力に逆らえなくなる」という問題もある。体形の変化に戸惑い(自分も産後ダイエットは出来ていたつもりでもお腹ポッコリは解消できず)、自分に似合う服がわからなくなる。また、仕事では責任ある立場になってストレスフル、家庭なら反抗期の子供と日々バトル、早くも親の介護が始まる方もいる。
 
そんな状況だったら、食べることはちょっとした癒しの時間のはず。
例えば仕事でむしゃくしゃした帰りは、コンビニに寄って、お酒、ポテチ、アイス。これは私のフルコースだ。だから、それを「食べちゃダメ」と一蹴するのではなく、そうしてしまう理由に寄り添って、ダイエットという長いマラソンを伴走する立場でありたい。
 
あくまでも「治す・改善する」の主体はお客様。漢方相談者として注力すべきは「その気」を引き出し、継続してもらうこと。責めるのではなく、一緒に考えること。完璧を求めすぎないこと。もがきに寄り添うこと。
 
漢方相談者とて、人間。年を重ねるごとに、自分のココロとカラダをコントロールしきれない時もある。でもそれはマイナスばかりではない。その不具合があるおかげで、お客様からの相談を、より「自分事」として思える分、達成した時の喜びがもっと大きくなるから。
 
そんなことに気づかせてくれた善良なおばちゃん、その節はありがとう。
 
追伸:日々もがきながら、今もそのお腹と共存中です。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-02-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事