メディアグランプリ

接客業の人にありがちな評論家になるのをすっ飛ばしてお客様の不安をとことん疑似体験した話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:志村幸枝(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「この保険証、期限切れてますね」
「ええ?? じ、じ、じっぴ、ですか?」
「もともと実費だから大丈夫ですよ~」
「……はぁああぁ!(超安堵)」
 
わたしは、生まれて初めて、美容皮膚科に来ている。
 
自分の仕事は漢方相談だ。日常的な不調は大概セルフケアで間に合うので、病院は滅多に行かない。だから、保険証の期限切れにも気づかなかった程だ。ましてや、皮膚科とも無縁の生活。つまり美容皮膚科という場所は、自分の生活圏で、アウェイ中のアウェイな場所。
 
寄る年波が及ぼす肌への変化(いわゆるシミ・しわ・たるみ)を、これまでは自然の力でどうにかしようとしていた。自分が長年扱っている、実績もそれなりにある漢方やサプリメントたちで。ところが最近は、お肌のきれいな方にどんなことをされているのか尋ねる度に、「レーザーですよ」と返されることが頻繁にあった。それに背中を押されて、行ってみることにしたのだ。結果を出している人の言葉は強い。
 
詳しい方に教えてもらいながら、まずはアプリをダウンロード。へぇ、これが診察券にもなるらしい。そこから事前にWEB予約を入れて、当日はそのちょっと前に到着。「楽しみすぎて、早めに来ちゃった」みたいな感じだ。待合室は、文字通り老若男女であふれ返っていて、自分が知らなかった世の中のニーズに驚く。
 
スーパー銭湯のロッカーキーみたいな番号札を渡され、しばらく待った。ドキドキしていると、自分の番号が呼ばれて、気合を入れ仕上げたお出かけメイクをすべて落とすように指示される。事前のリサーチ不足は否定しないが、だったらホームページの目立つところに書いておいてほしい。落ち着かない気持ちになりながらスッピンで待機していると、今度は問診だ。わからないことが多すぎて、黙っていられない。こちらが質問を受けているはずなのに、お構いなし。矢継ぎ早に質問すると、「先生に聞いてくださいね」と返される。なんせ初めて来たところ。そもそも先生がどんな人か知らないし、たった今知り合ったばかりですが、笑顔がいい感じの話しやすいアナタにこそ私は答えてほしいの、安心したいの、と一方的に懇願のまなざし(圧強め)を送ってみるが、スルーされた。
 
こわい。
わからないことが多すぎて、こわい。
個人情報の兼ね合いもあるのだろうが、
番号で呼ばれるのもこわい。
人間じゃなく、モノ扱いされそうでこわい。
唯一こわくなかったのは、明朗会計。
メニュー料金がはっきりしていると不安はずいぶん軽減される。
 
再度、番号を呼ばれて、ようやく診察室へ入る。よかった、先生も優しそう。がしかし、
いきなり写真を撮られる。え? スッピンの? これ門外不出案件ですよ! いやだわ! 
後から写真を撮る理由を聞かされたが、先に言ってほしいし、納得してから写りたい。心の準備ってものがあるのだ、こっちは。
 
本日の一番の目的「レーザー」にまだたどり着いていないというのに、すでにぐったりしてきた。大したことはしていない。待って、呼ばれて、顔を洗って、待って、質問に答えた、ただそれだけだ。でも、その一つ一つに心の中で突っ込みを入れまくって、毒づいて、自分が疲れてしまった。
 
この状況で、平常心をずっと保っていられる人っているのだろうか。周りを見渡してみる。みんなスマホに目を落とし、自分の時間を過ごしている。私だけが、周りのすべてがこわくて殺気立つ小動物みたいだった。しゃぁああ。(脳内イメージ:拾われてきた猫)
 
診察が終わってしばらくすると、処置室に呼ばれ、いよいよレーザーだ。
ゴロンと診察台に寝そべると、レーザーの閃光から目を守るサングラスのようなものを被せられる。見えないのもこわい。先生はそれをよくわかっているようで、優しい声で、これから何をするのか、ちゃんと説明してくれた。そうそう、こうやって事前に説明してから、やってくれると、不安が少ない。最近お世話になっている歯医者さんもこのスタイルで、とても安心して治療を受けていることを思い出した。
 
レーザーの痛みは「輪ゴムでパチンとはじかれる程度」なんて言われているが、私が選んだのは「シミ取り放題」というメニュー。だから何十本も連続で輪ゴムが飛んできた。ゴム鉄砲を至近距離から連射されている感じで。「もうやめて」と「全てのシミを取りたい」の気持ちが葛藤しながらも、きれいになりたい乙女心が勝った。
 
緊張と痛みに耐えて、全身がカチカチに。しかも、終わるとホッとして涙まで出てきた。
それを見ていた看護師さんが「我慢してつらかったでしょう」と言ってくれたので、ますます涙が出てきた。
 
 
帰り道。
とことん狼狽えた出来事を振り返った。
 
私がやっているのは漢方相談だ。この仕事はカウンセリングが主だが、平たく言うと接客業でもある。だから出かけた先で自分が接客されると、覆面調査員のように、つい評論してしまう。「わたしならもっとこうするのに」と。たぶん職業病だ。オフィシャルで開示することはもちろんないが、自分の中で勝手に星を付けて、「なんて素敵なお店、震えた」と感動してみたり、「もう二度と行かない」などと、心の中で呟く。でも今回は違った。不安で平常心を失い、そんな風に俯瞰する自分はどこにもいなかった。
 
もしかしたら、漢方相談に初めて来るお客様はこんな気持ちなのかもしれない、と思った。私にとってのホームは、ほぼ全てのお客様にとってはアウェイなのかもしれない。漢方相談は、レーザーみたいに痛いことはしないけれど、「いくらかかるんだろう」とか「何か買わないと帰れないのか」など、不安でいっぱいなのだろうな、と想像した。
 
初めて漢方相談に来たお客様が時々、「入りにくかったです」「相談するのに勇気がいりました」とおっしゃる。しかも、無事に入れたとしても、漢方相談はその場で満足が得られるものではないので、未来に対する不安(これ効くのかな? 私に合っているのかな? 続けられるかな?)もよぎる。
 
不安は「未知」から生まれる。自分もそうだった。わからないことが多すぎてこわかった。だったら、そのわからないこと、ひとつひとつを解消出来たら、もっと安心して頂ける。それこそ、そういうことはホームページの目立つ場所に置いておく。できる限り安心感を作って、漢方相談へ行くハードルが下がれば、尚よし。これから取り組むことのイメージが広がった。
 
完全アウェイの初戦は不安と緊張で(あとは痛みも)涙を流す結果になったが、不安を抱えて漢方相談にいらっしゃるお客様の気持ちを疑似体験できた。これもまた貴重な経験。
 
 
 
 
***

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2025-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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