メディアグランプリ

あのときのひと言が、時間を超えて届くなんて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:shiho(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
ある日、何気なくInstagramを眺めていると、懐かしい名前が目に飛び込んできた。画面に映るのは、かつて私が勤めていた会社の後輩。当時、とある書店で雑貨のバイヤーとしてともに働いていた彼女の投稿だった。
 
「初めて企画した商品がリリースされました!」
 
思わず投稿を何度も読み返した。どうやら、バイヤーとしてだけでなく、ついに商品企画まで手がけるようになったらしい。最初は販促イベントの担当として働いていて、その後バイヤーになり、四苦八苦しながら奮闘していた。そんな彼女が「自分が企画した商品」を世に送り出す日が来るなんて。驚きとともに、じんわりと嬉しさがこみ上げてきた。
 
気になって調べてみると、読書時間をより豊かなものにする雑貨を、イラストレーターとコラボして作成したもののようだった。その商品は近くの店舗でも取り扱っているらしい。ちょうどフェアも実施されているようだったので、翌日、私はさっそく見に行くことにした。
 
店に入り、視線を巡らせると、すぐに彼女の企画した商品が並ぶ棚が目に入った。そこには、大きなポスターが掲げられ、商品のテーマやコンセプトが丁寧に説明されている。その言葉をじっくりと読みながら、そっと商品を手に取った。シンプルだけど、細部までこだわりが感じられる。ついコレクションしたくなるほど、どれも可愛かった。商品に惹かれる思いもあったが、それ以上に胸がじんと熱くなった。
 
「ああ、彼女はここまで来たんだ」
 
私が手に取ったのは、書店の中に並ぶ商品の1つ。他の人からすれば、他の商品と変わらないだろう。けれど、私にとってはそれ以上の何かを感じるものだった。彼女が積み重ねてきた経験や努力、そして「誰かに届けたい」という思いが込められた、彼女自身の軌跡のようなもの。もはや作品のようにすら思えた。
 
残念ながら売り切れのものもあったが、それもそれで嬉しかった。目移りする中、厳選して1つを選び、購入して店を出ると、私はすぐに彼女にメッセージを送った。商品も、フェアも、とても素敵だったこと。売り切れが残念でもあり、嬉しくもあったこと。そして、お疲れ様のメッセージを添えた。
 
すると、彼女からすぐに返信が来た。そこには、こんな一言が書かれていた。
 
「先輩がこの道に引き込んでくれたおかげです」
 
その言葉を読んだ瞬間、私は立ち止まった。すっかり忘れていた。確かに彼女をバイヤーの道へ誘ったのは私だったのだ。そして彼女は、社会人歴で初めての、私の後輩でもあったのだ。

 
彼女とともに働いていた当時、私は書店でバイヤー兼MDをしていた。彼女は最初はイベント担当で、店頭での企画運営に携わっていた。彼女が持っていた小物のセンスに惹かれ、「かわいいね」と声をかけると、その商品についてのこだわりが溢れ出てきた。それからというもの、「この人と一緒に仕事をしてみたい」と思っていた。
 
ある時、私のチームで一人分のポジションが空いた。私はすぐに上司に相談し、「彼女をチームに迎え入れたい」と伝えた。そして、彼女自身にも「あなたのセンスでこの店をもっと良くしてほしい」と伝えた。もちろん、彼女の意志を尊重しながらの話だったが、彼女は「バイヤーの仕事に興味がある」と言ってくれた。そして、私の初めての後輩になったのだ。
 
バイヤーの仕事は、センスだけでは成り立たない。仕入れの判断、数字の管理、取引先との交渉……覚えるべきことは山ほどあった。きっといろんな困難もあったと思う。実際、いろんな壁にぶつかりながらも、持ち前のセンスと、その商品を好きな気持ちで乗り越えてきた姿を見てきた。そして私も、彼女にできる限りのことを伝え、一緒に学び、時には悩みながら進んだのだった。やがて私は会社を離れたが、彼女はバイヤーとして残り、さらに成長を続けていった。
 
そして今、こうして自分の手で生み出したものを世に送り出している。そう思うと、とても感慨深いものだ。そんなことを思い出し、改めて、彼女からのメッセージを読み返す。
 
「先輩が引き込んでくれたおかげです」
 
その言葉を目にした瞬間、時間がふっと巻き戻るような感覚に陥った。私はただきっかけを作っただけ。彼女がここまで来たのは、紛れもなく彼女自身の努力の賜物だ。それでも彼女は、「先輩のおかげ」と言ってくれた。
 
後日談だが、あの日、私が「あなたのセンスでこの店をもっと良くしてほしい」と誘った言葉が、彼女の自信になっていたのだという。どう誘おうか悩んでいたものの、結局は素直な言葉で彼女を誘った。それが、彼女の心のどこかに残り、今へと繋がっている。
 
言葉というのは、思っている以上に人の中に残り続けるのかもしれない。
 
何気なく発したひと言が、誰かにとっては大切な指針になることがある。それが、長い時間をかけて芽吹き、やがて目の前にこんなふうに現れることもあるのだ。
 
思えば私も、これまでたくさんの言葉を受け取ってきた。忘れられない言葉もあるし、逆に忘れたいのに残り続ける言葉もある。言葉は人の心に刻まれ、時にはその人を動かし、時にはそっと寄り添うものなのだろう。彼女とのやりとりが、それを改めて思い出させてくれた気がする。
 
そして、ふと問いが浮かぶ。
 
「今の私は、誰かの心に良い形で残る言葉を届けているだろうか」
 
私の中には、辛い言葉も、嬉しい言葉もたくさん残っている。せっかく誰かと生きるのなら、私は、嬉しい言葉を残せる人でありたい。そう願いながら紡いだ言葉が、巡り巡って、思いがけないタイミングで、自分自身に返ってくることもあるのだから。
 
だから私は、これからも言葉を大切にしていきたい。誰かの未来をそっと後押しする言葉を。そして、誰かの言葉を、ちゃんと受け止められる自分でありたい。
 
彼女の言葉は、今度は私の中に根を張り、静かに息づいていくのだろう。

 
 
 
 
***

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2025-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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