4番手不在のまま「肉詰めピーマン」というユニットの舞台は始まった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みちこ(ライティング・ゼミ11月コース)
「今日の夜は肉詰めピーマンにするよ!」
「やったー!」
ここ一週間ほどバタバタしていて買い物にも行けず、まともに夕食を作っていなかった。
とりあえずお米はあるので、冷蔵庫にあるご飯のお供で適当にやり過ごしていた。
学校勤めの娘は「給食で栄養バランスは完璧だから」と自慢げに言い、適当ご飯に甘んじていた。
お互い文句などは一言も言わないが、「私が買い物に行ってご飯作るよ」とも言わず、二人で不毛な駆け引きを続けていた。
さすがにこの食生活はよろしくない、カラッカラの砂漠となった冷蔵庫を満たさねば…… と思っていた矢先、見つけたのだ。野菜室のすみっこに潜んでいたピーマンの袋を。
それは、ぺったんこになった野菜用麻袋の下にかくれていた。
そうだ、一週間前に出会ったそのピーマンたちは、とても大きくてぴかぴか光っていた。
これなら巨大肉詰めピーマンが作れそうだ! そう思い、合い挽き肉も一緒に買ったんだった。
冷凍庫を探索したら、霜で曇った合い挽き肉のパックが保冷剤の隙間から顔をのぞかせていた。
緑黄色野菜と肉、いいじゃないか。よし、今日の夜は肉詰めピーマンにするよ!
そう宣言すると、これまで沈黙を守ってきた娘は子どものように喜んだ(あなたが作ってもいいんだけどね)。
夕方、私はそそくさと定時に退社した。
食事の支度は「何にしよっかなー」と考えるところから始めると、途方もなく億劫になる。
しかし最初から好きなものに決めてあると、こんなにもやる気が湧くものか。
冷蔵庫からピーマン、玉ねぎ、牛乳を取り出す。
ひき肉はこねるギリギリまで冷蔵庫に入れておく。
肉詰めのタネはハンバーグと同じだ。
食べるときに肉汁じゅわーっとさせるためには、仕込みの段階で肉の脂を溶かすことなく形成までもっていき、一気に表面を焼き固めることが大事なのだ。
あとはパン粉と卵。ん? 卵がない!
そういえば、私が週末留守にしている間、娘がオムライスを作るのに全部使ったと言っていた。
今朝はピーマンに気を取られてすっかり忘れていた。
あーテンションが下がってしまう。卵はつなぎに必要だ。
帰り道のドラッグストアで買ってきてもらおうと、娘に連絡してみた。すると、
「残業になっちゃった。今から帰るから一時間後になるけど」
との返事。一時間後か…… 待つか、メニューを変えるか。
いやちょっと待って。
「肉詰めピーマン」というユニットにおいて、卵はどれくらい重要な立ち位置なんだろう。絶対ないとダメなのか。
ひき肉とピーマンという絶対的ツートップ・ダブルセンターは揃っている。
甘みや食感のアクセント、風味をプラスする個性派3番手の玉ねぎもある。
あとの卵とパン粉と牛乳は「つなぎ」だ。
パン粉と牛乳は吸って吸われてポッテリとなり、ひたすら生地をなめらかにやわらかくする縁の下の力持ち。
じゃあ卵は?
焼き菓子の表目に塗ることで艶を出すことから、ハンバーグの表面を艶やかな焼き色に仕上げているのは卵に違いない。
濃厚なコクと旨味を加えたり、強い凝固力で全体をまとめて崩れにくくするもの卵の役割だ。
ただし、沢山入れ過ぎると焼いた肉が硬くなってしまうことがある。
絶妙な量でみんなを結着し、旨味やコクでポテンシャルを上げ、艶までも与える。卵は優秀なバランサーだ。
ハンバーグで勝負をするなら、卵がないのはつらいところだ。
しかし、今回は「肉詰めピーマン」なのだ。どでかいピーマンは、それだけでジューシーさとコクと旨味を発動するだろう。
また、万が一肉が崩れても、ピーマンが器として助けてくれるだろう。
加えて、玉ねぎを丁寧に下ごしらえし、パン粉と牛乳の力を信じてしっかりこねれば、十分卵不在の穴を補えるに違いない。
早速私はバランサー4番手の卵なしで、このユニットの舞台を開幕した。
まず、玉ねぎはとにかく細かいみじん切りにして、ラップをかけ、トロトロになるまで電子レンジで3、4分熱する。その後ラップを外して1分レンジで水分を飛ばす。
みじん切りが荒かったり、硬かったりすると、どんなにこねても肉との間に隙間ができ、その隙間から肉汁が流れ出てしまうのだ。
次に、熱々の玉ねぎのうち大さじ1杯程度をソース用に残し、パン粉と牛乳を加えてよく混ぜ、温度を下げると同時につなぎを完成させる。
卵があると玉ねぎをある程度さまさなければならないが、今回はすぐ混ぜられてラッキーだ。
ここで初めて冷蔵庫からひき肉を取り出し、塩とウスターソースを加えてこねる。
手の温度で肉の脂が溶けてしまわぬよう、本気で素早く粘りが出るまでこねる。
完成したつなぎをこねた肉に加え、生地が均一になるように混ぜる。
半分に切って内側に小麦粉を振ったピーマンに詰める。熱したフライパンに油をひき、肉側から焼目を付ける。
裏返し、ふたをして3分程蒸し焼きにする。
焼けたら取り出し、肉汁にウスターソース、ケチャップ、みりん、取っておいた玉ねぎを加えて煮立て、肉詰めピーマンを戻してからめて完成!
さて結果はどうだろう。
巨大肉詰めピーマンは今までになく肉がフワフワに仕上がった。これは驚きだ。
パンッとしたハリ感は少ないものの、肉厚のピーマンのパリパリ感とジューシーさがいい相乗効果を生み出していた。
「今日のお肉はフワフワだね。すごくおいしい!」
一時間後、卵を買って帰宅した娘が言った。久々の料理を喜んでもらえて何よりだ。
どんな舞台でも主役だけでは成り立たないし、役者は全て揃っているほうがいいに決まっているが、誰かが欠けたとき、それを補おうと発揮する力で想像以上の結果が生まれることがある。
良いユニットというのは、そもそもそういう場面を想定して構成すべきものなんだろうな。
冷蔵庫の隅っこに隠れていたピーマンに、そんなことを考えさせられた夜だった。
***
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