メディアグランプリ

人生にタイムスリップ級の変化が訪れたら、あの侍みたいに生きていけるだろうか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「仕事って……どうやるんだっけ……?」
 
埋まらなくなるカレンダーを眺めながら、私は途方に暮れていた。
まるで、“雷に打たれて時代劇撮影所にタイムスリップした、幕末の侍”みたいに。
 
私は、小さなIT企業で働いている。企業の人事が使うシステムを作って、販売して、活用の手助けもする会社だ。
入社から5年間、「カスタマーサクセス」という肩書で働いてきた。
私の仕事は、中小企業のお客様からシステムの設計の相談を受けたり、新機能追加の提案をしたりすることだった。
 
一週間のスケジュールの7割方は、お客様との打合わせで埋まる。
自分で打合せを回せるようになるまで、さんざん苦労した。それこそ、地獄のようにうまくいかない会議なんて、悪夢で何回見たことか。
 
それでも、「永堀さんのおかげで、仕事が楽になりました」と感謝されることが増えた。
後輩の教育係になり、後輩がそのまた後輩を指導する姿を見て、感慨深くなったり。
打合せで埋まったカレンダーを見ながら、「私、なかなかよくやれてるわ」と、満足げにうなずいていた。
 
そんな中、配置換えがあって、私も初めて異動することになった。行き先は、エンタープライズ(大企業)を専門とする営業チーム。
しかも、私が配属になる「営業企画ユニット」は、今回あたらしく立ち上がるユニットだというではないか。
上司いわく、エンタープライズ営業チームは、課題が山積み。それらを解決するために、新しいプロジェクトを企画して、進行を仕切ってほしいのだという。
 
新しい仕事を学べるのは、うれしかった。しかし、すぐに不安が頭をもたげてくる。
エンタープライズ企業を相手にしたこともない。「企画」って、どうやるのか、ちゃんと勉強したこともない。
さらに驚くことには、「営業企画ユニット」といいつつ、メンバーは私ひとりなのであった。
 
かつての担当企業はもう、後輩に引き継いでしまった。
打合せで埋まっていたカレンダーに、空白が増えていく。
デスクで悩んで、文字を打っては消して、また悩んで、上司に相談するタイミングを逃して、一日が終わる。
同じ会社の中なのに、未知の世界に放り出されたみたいだった。
 
そんな毎日に、一瞬でも息継ぎがしたくて、週末は映画を見に行くことにした。
 
いつも聴いているラジオで『侍タイムスリッパー』を紹介していて、気になったのだ。
先日、日本アカデミー賞で最優秀作品賞をとったので、ご存じの人も多いと思う。
見に行ってみると、これがまあ、全力で笑って泣いて面白い、“タイムスリップお仕事ムービー”だった。
 
主人公は、幕末の会津藩の武士、高坂新左衛門。
嵐の夜、ある人物を暗殺するよう命じられ、互いに刀を交えた瞬間、雷が落ちる。
目を覚ますと、新左衛門は、京都の時代劇撮影所にタイムスリップしていたのだ!
 
新左衛門は、撮影所や街をさまよい、江戸時代がとうの昔に終わったことを知る。
やがて、撮影所の人々に助けられた新左衛門は、剣術の腕だけを頼りに、時代劇の「斬られ役」として生きていくことを決意するのだった――
 
いちばん印象に残るのは、新左衛門の素直さだ。
周囲の人たちに「侍の役作りに熱心すぎる役者」として扱われても、「自分は本当の侍なんだ!」と、嘆いたりわめいたりもしない。
殺陣(チャンバラ)の師匠に、刀の構えかたを直されたら、「なるほど……!」と、素直に実践してみせる。
そのうえ、初めて斬られ役をした撮影の後、他の先輩斬られ役に「みなさまの腕前、本当にお見事、感服つかまつりました!」と、頭を下げて敬意を伝えたりもする。
 
私は、こんなふうにいられるだろうか、と思った。
 
自分がこれまでいた世界から、まったく違う環境に放り出されて、こんなに素直に学び、謙虚でいられるだろうか。
誰だって、タイムスリップとまではいかないだろうけど、それくらいの大きな変化を何度かは経験するだろう。
私の場合は、異動。あるいは、まったく違う仕事に転職するとか。住む場所を変える、新しい家族が増える、または失う……
 
これまで積み上げた経験のうち、本当に活きるものがあるのかさえ、不確かな状況に置かれる。
そういう場で、最初から仲間として歓迎されるとも限らない。
知らないことだらけで、へまをして叱られることも、数えきれないほどあるはずだ。
そんなとき、「何も知らないくせに! 私はこれまで○○だったんだ!」と、声を荒げる人の気持ちも、わかる気がする。
 
それでも、新左衛門のように「今の拙者は、赤子のようなもの」と心を切り替えて、周りの人たちから素直に学んで、自分の道を切り開いていけたなら。
私は、そうやって世界と関わった先にある景色のほうが、見たい。
 
その後の私とはいえば、少しずつ前に進んでいる実感はある。
 
出来のいい案を持っていって、あわよくば褒められたい、みたいな見えっ張りを捨てると、そっちのほうがいろいろ教えてもらえて、得るものが多いことに気がついた。
家族や友達と雑談して、「こういうとき、どういう本を読んだらいいかな?」と聞いてみることも増えた。みんな親切に教えてくれるので、新左衛門よろしく「かたじけない!」と感謝しまくっている。
そして、これまでの顧客対応の経験も、活かし方がだんだんわかってきたかもしれない。
 
今後、タイムスリップ級の変化が訪れても、なんとかやっていけそうな気がしている。
くじけて放り出したいときもあるけど、今日がまだその日ではない。
 
 
 
 
***

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2025-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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