メディアグランプリ

野菜と雑誌と黄色い旗


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記事:宮藤紳(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
昨年定年退職した私の現役サラリーマン時代の実話です。
 
皆さんは2012年9月に尖閣諸島を日本政府が個人の地権者から買上げ国有化した事を覚えておられますか。
この事をきっかけに中国国内では激しい反日デモが行われ、暴徒化したデモ参加者が日系関連の商店や工場などを破壊、略奪、放火に至ったニュースを見た事がある方も多いと思います。
 
当時私は食品関連の企業に勤務し、中国産野菜の購買担当をしていました。
購買対象の野菜は年一作もので、その収穫期でないと畑や現物を確認出来ません。
毎年12月に現地に入り、数週間滞在中に契約や品質指導を行うのが業務内容でした。
この年は会社として現地に日本人社員を派遣するかどうかが検討されました。
その野菜がないと会社業績に影響があり、また現地情報から私の滞在予定地では大きな混乱は無いとの判断で例年通り中国出張が決まりました。
 
しかし現地に着くまで本当の様子は分からず、緊張して中国の国際空港に降り立ちました。
中国内移動を経て現地入りしホテル滞在が始まりました。
取引相手の中国企業側はいつも通り、或いは私の心配を取り除こうといつも以上に手厚く出迎えてくれました。
チェックイン、ホテル内での食事時(特に一人で食事をする朝食)は、他客から日本人であることがばれないかとひやひやしました。
ホテルから取引会社へは毎日車の送迎があり、大概は先方経営者誰かの自家用車での移動でした。
その内の一人の車は日本車レクサスでした。
他の街でしたがレクサス販売店が暴徒に襲われた映像を日本国内ニュースで見ていました。
日本車と言う理由だけで何か危害を加えられないかと心配していましたが、杞憂に終わりました。
この方の用事で移動途中立ち寄ったレクサス販売店も何も変わったことはなく、普段通りの営業をしている様に見えました。
経営者の車では通訳同行もあり、片言の日本語会話も出来ました。
業務も例年通り進み、何事も無く帰国出来るだろうと安心していました。
 
ある日の送迎は経営者の方ではなく先方社有車で、運転手は日本語を全く理解できない年配の中国人男性でした。
その運転手と二人で過ごす移動時間は、忘れかけていた緊張感が少し戻ってきました。
後部座席から運転手隣座席にある私物と思われる雑誌が目に留まりました。
仕事は通訳同席で行うので私は中国語が堪能ではありません。
表紙写真から想像するしかないのですが、どうも中国軍の戦艦が載っている写真のようでミニタリー関連の雑誌だと思いました。
年配の中国人男性は軍事関連に興味がある様子。
中国国内では反日運動は収まっていない。
一気に不安が頭をもたげました。
でもお客さんであることは分かっているはずだし、不測の事態を起こすかもしれない運転手をあてがうことはないだろうと自分に言い聞かせました。
1時間弱掛かる道中私は完全に沈黙を守り、ルームミラー越しでも目を合わさないようにしていました。
すると突然その運転手がこちらに顔を向けて、指で隣を走る車を指さしました。
その車のフロントには日本のニュースで見た黄色い三角旗がはためいていました。
その黄色い三角旗には中国語で『釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土』と言う意味のメッセージが書かれてあり、反日運動のシンボルの旗でした。
日本国内の報道でその旗の事は知っていましたが、現地で実物を目にしたのはその時が初めてでした。
緊張が一気に増した私の顔を見た運転手はにんまりと笑っています。
直接言葉を交わした訳ではありませんが、彼は私に対しこう言っている様に感じました。
「ほらあんな事やっている悪戯っ子を見つけたよ」
私の中でなぜか急にその運転手に対する安心感が増しました。
日本人と中国人と言ったお互い顔が思い浮かばない相手では無く、少なくとも直接顔を突き合せ他生の縁が出来た相手になったと思ったのです。
彼の素性も性格も分かりません。
勤めている会社の都合だけで顔を合わせる事になった相手、それぞれの国籍以外は知りようもありません。
 
その事を境に私の中で仕事に対する考え方が変わっていきました。
日本の食品関連企業として中国以外にも海外との取引も多くあり、食糧自給率の低い日本と海外との懸け橋になる事に役立っていると以前から思っていました。
しかしこの仕事の意義はそれだけでは無いと思ったのです。
あの時の中国人運転手は私の事など覚えていないかもしれません。
でもこれまでの仕事上の交流で私や他の日本人同僚の事を覚えていて、不幸にも国同士がいがみ合う様になった時に「日本人も悪い奴ばかりじゃないよ」と思ってくれれば。
その事を周りに話してくれる人が一人でも増えてくれれば、それが日本の安全保障の役に立つと思いました。
そんな関係を一つでも沢山作る事が混迷を続ける世界の中で本当に意義のある事だと思えたのです。
 
今はオーバーツーリズムと言われるほど訪日外国人が増えています。
彼らの中には、マナー違反で歓迎出来ない人も確かにいます。
それでも帰国後「日本はそれほど悪い国じゃなかったよ」と思ってもらえる人が増えるといいなと考える元サラリーマンの思い出話です。
 
 
 
 
***

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2025-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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