メディアグランプリ

推しカフェの去り際はアイドルと一緒だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:前田 さやか(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
安室奈美恵という歌手を覚えているだろうか。平成の歌姫と言われ、私にとっての青春の「アイドル」である。彼女は人気絶頂の最中、40歳を節目に突然引退をして姿を消してしまった。
 
私はつい先日、彼女を思い出す出来事と遭遇した。それは大好きな行きつけの推しカフェの閉店だ。
「お客さん来なくて閉店したの?」
と思うかもしれないが、決してそうではない。リニア鉄道開通のため、名鉄(名古屋鉄道の略)名古屋駅が再開発される一環で、閉店を余儀なくされてしまった。この1ヶ月ほど、推しカフェが閉店するまで日々を見ていて、
「このカフェは安室奈美恵だ!」
と、ふと思った。
 
ちょうど1年前だろうか、たまたま仕事帰りに通りかかって、見つけたのがこのカフェとの出会いだった。バスターミナルの一階でひっそり営業していた。私は気づかずに何回か素通りしていたと思う。決して入りやすい雰囲気ではないのだが、店に入ると優しい笑顔の印象的な同年代の店長がいた。マシンが色々置いてあり、メニューには色々な国のコーヒー豆の種類が書かれていた。コーヒーにこだわっているお店であるとすぐわかった。
 
「こんにちは、どんなコーヒーがお好きです?」
店長から初めてかけられた言葉だった。
「酸味が苦手です。バランスがいいのが飲みたいのですが……」
と伝えると、おすすめをセレクトしてくれた。その場で豆を挽いて、挽きたてを手慣れた様子で丁寧にハンドドリップする姿は、何かのショーを見ているようなワクワク感を私は覚えた。
「はい、名古屋ブレンドです」
淹れたてを受け取り、ゆっくり口に含んだ。その瞬間、珈琲のまろやかさと、私好みの味が口の中に広がり、この上ない幸せな気分に浸った。
「とても美味しいですね」
と伝えると、目がなくなっちゃうくらいの笑顔で店長は頷いてくれた。同姓が言うのもなんだけど、チャーミングで癒しを与えてくれる方だった。
 
店内はうなぎの寝床のような形で、広さは10畳くらいだろうか。キッチンエリアが大半で、人が飲食するスペースはとても狭い。壁沿いにベニア板のような椅子が置かれ、皆が同じ方向に座る、一見すると不思議な構造だ。通路は人1人が通るのがやっとである。人が視野に入らない構造が、人の動きを気にしやすい私には余分な情報が入らず、ノンストレスで落ち着けた。
 
ここはフードも美味しくて、私は胃袋を完全に鷲掴みされていた。
「何が美味しいかって?」そう、名古屋のソウルフード「小倉トースト」だ。あんこがなんとも言えなく上品な甘さで、コーヒーとよく合うのである。パンに塗られたバターと一緒になった時、「今日も生きていてよかったなあ……」と言いたくなるほどの美味しさだ。
 
このカフェを見つけてから、「仕事帰りの一杯」をここで飲んでから帰宅するのが日課になった。自分にとっては大人の秘密基地と言ったところ。そこは誰にも邪魔されない、落ち着ける空間。通っているうちに店長さんに顔をしっかり覚えてもらえるようになり、自分でも段々「常連客」という自負を持ち出した。
 
そんな矢先、何気なく店長に聞いてみた。
「このお店はずっとありますよね」と。
すると予想外の返事がきた。
「このお店はずっとはないですよ。閉店の時期は決まってないけど」
「え……」
まだ私はその時は半信半疑で「そんなの嘘だろう」くらいの気持ちで、カフェに通う日々を続けた。
 
しかし、恐れていたことはつい先月、突然きてしまった。
「前田さん、3月いっぱいで閉店することが決まりました」
その言葉はまるで、交際相手から突然別れを切り出されたような切ない気分になった。私は無くなる悲しさを紛らわしたくて、そこから、できるだけ行ける日はカフェに通うことにした。
 
閉店前の2週間ほどだろうか。顔馴染みの客が入れ替わり立ち替わり来るようになり、静かな秘密基地が賑やかになった。
来る客の大半が、
「困るなあ。せっかく気に入っていたお店なのに。これからどうしたらいいの?」
と、口々に店長に声をかけていっていた。店長は微笑んで特に言い返すことはしない。「寂しいのは私だけじゃない!」と同じ感覚の仲間がいて少しほっとする自分がいた。
 
ふと、惜しまれて閉店するカフェを見ていたら、絶頂期で引退した安室奈美恵と重なったのだ。やめないでほしいと皆が思っていて、去って行く姿を見るのは実に寂しい。でも、彼女の美しい歌声と姿は今も脳裏に残っている。このカフェも美味しい珈琲の味や店長とした何気ない会話の思い出は変わらず、一生私の記憶に残り続けるだろう。お客さんが誰も来なくて閉店する姿を見るより、みんなから惜しまれて閉店する方が、スマートで美しいと思う。
 
「終わりよければ全てよし」という言葉がある。日本人の心の中には、始まり以上に終わりを大切にする精神があるように私は感じる。印象に残っているホテルやレストランは思い起こすと、帰り際の暖かいサービスや店員からの声かけがされていた。
 
出会いがあれば別れはいつか来るもの。去り際に余力感や美しさがあるほど、余韻として残ることをこのカフェが教えてくれた。私も人として、去り際を意識した生き方ができる人間でありたい。
 
 
 
 
***

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2025-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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