メディアグランプリ

「字」は人を表すけど「文」はもはや自己紹介


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記事:志村幸枝(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
私は昔から、人の字を見るのが好きだ。年賀状や手紙が届くと、まず文字に目がいく。印刷された活字よりも、手書きの、ちょっとゆがんだ平仮名や、クセのある漢字に心を奪われる。そんな些細なことで、その人の内なる側面が伝わってくるような気がするからだ。
 
小学校の頃、文通が流行った。文通とは「手紙を交換日記のように送り合う」みたいなことだ。タイムラグのあるやりとりは、そのときの気分や体調によっては返事が数ヶ月先になる、なんてことはよくあって、そこも含めて楽しむものだ。え? 交換日記もわからない? 交換日記はひとつのノートに交代で日記を書き込んでいくもの。文通に比べるとタイムラグは少ない。数日の内に返信する長文で送り合うチャット、といえばイメージしやすいだろうか。
 
私は転校したこともあり、文通は心の支えだった。手紙の内容にワクワクしたのはもちろんのこと、私は友達の字を見るのが楽しくて仕方なかった。字を見るだけで、「今は元気だな」とか、「今回はちょっと疲れてる?」なんて、まるで筆跡占い師のような視点で手紙を読み込んでいたような気がする。
 
中学の時はなぜか右肩下がりの字が流行っていた。そんな謎の字体を操る先輩に憧れて私は真似た。字を真似ていたら、ちょっとでもその人みたいになれると思ったから。先輩に憧れているのか、その字体に憧れているのか、もはやどちらかわからない。
 
「字は人を表す」
よく言われる言葉だが、それを痛感する出来事があった。
それは卒業してから2回目となる同窓会に参加した時のこと。1回目は卒業から25年後の会。懐かしさと喜びでめちゃくちゃ盛り上がったものの、「この人誰問題」があちこちで勃発しており、責任感の強い幹事さんは全10クラスの卒アルのカラーコピー片手に走り回っていた。
 
そんな経緯もあってか、2回目となる今回は「名札をつけよう」という提案が事前にあったらしい。当日、受付に並べられていたのは、真っ白な名札カードと数本のペン。「名前は自分で手書きしてください」と案内された。1回目の準備が大変だったから、手を抜けるところは抜いておこうみたいな感じなのかな、と思った。
 
それぞれが自分の名札に、自分の名前を書く。
自分の名前を太ペンで書くなんていつ以来だろう?
大人になってから、こんな風に「自分の字」と向き合う機会ってなかなか無いよなーなんて思った。
 
着席して、向かい合う同級生たちの名札を見て、私は一気にアツいものがこみ上げた。
そこにあったのはあの頃のまんまの「筆跡」だったから。こんなにも同じままでいてくれていることに感動していた。提出物の片隅に書かれた名前、日誌など、何を見てみんなの筆跡をインプットしていたのか記憶は曖昧だが、名札に書かれたみんなの字はそれぞれの字のままだった。30年という時間を飛び越えてその記憶は一気に押し寄せた。言葉を交わすよりも先に文字が先に心を揺さぶった。肉筆の持つ力に、あらためて驚かされた。
 
「字」だけではない。文章にもまた、その人ならではの「らしさ」が表れる。
 
私は今、文章講座を受けている。そこには、年齢も職業も背景も異なる人たちが集い、それぞれの言葉で思いを綴っている。デジタルで打たれた文字であっても、その人らしさというのは、ふとした部分に滲み出てくる。そこかしこに、ひっそりと宿る「筆跡」のようなものを感じる。「文章とは、究極の自己紹介」とさえ思う。字を通して人を感じるように、文章を通してもその人の「らしさ」みたいなものが見えてくる。
 
同窓会で、自分の字を見せ合ったように、文章講座では「文」を通じてお互いを見せ合う。だからそこに集まる人たちは、ただの受講生同士というより、表現することに向き合う「同志」のような存在だ。なんて、こちらが一方的に仲間意識を持ったところで実は通信受講なのだが。毎週2000字程度の課題提出はしんどい。そのしんどさも含めながら。互いの文章を見せ合うことで、会ったこともない相手に親近感を持ってしまうは不思議なものだ。
 
時代とともに、字や文のスタイルは変わる。今は文通も交換日記もしていない。手紙からメール、そしてSNSへ。短く、テンポよく、が求められる時代になった。筆跡から何かを感じ取ることは皆無になったが、いまなら、絵文字やスタンプ、句読点の打ち方、改行のクセなど。形式がどう変わろうとも、人が書く以上、そこには必ず「らしさ」が表れる。
 
同窓会で、自分の手で書いた名札。その筆跡は、かつての自分と、今の自分を静かに繋いでくれた。そして、今日のこの文章もまた、今の自分を映しているんだと思う。
 
 
 
 
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2025-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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