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29歳独身・子なし。本能なんかじゃ説明がつかない女でいてやろうじゃないか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
世の中には、二種類の人間がいる。
説明を求められる人間と、求められずにすむ人間だ。
 
例えば、飲み会の席で交わされる、こんな会話。
 
同僚「とりあえず生でいっかなー、あっ永堀さん何飲む?」
私「ジンジャーエールにします」
同僚「え、飲めない感じ?」
私「そうっすね」
同僚「少しも?」
私「少しもです」
同僚「え~、なんで?」
私「飲むと死ぬからです」
同僚「えぇマジでw 本当?」
 
飲むと死ぬ、は大げさだけど、アルコールを摂取するとひどい呼吸困難になるのは本当だ。
だから私は、お酒をまったく飲まないし、飲みたいとも思わない。
 
それにしてもこの会話、たちの悪いタイムループ? いつになったらこの取り調べから抜け出せるんだろう?
「飲めません」と言えば、「少しも? 本当に?」と疑われ、「なんで?」と問い詰められる。
 
まあ、聞いてくるだけなら、こちらもテンプレート通りの回答で対応できる。
それに、飲み会の流れで会話が途切れて、釈放されることも多いので、まあよしとしよう。
 
厄介なのは、酒を強いてくるタイプの酒飲みである。
「香りだけでもかいでみたら馴れるかもよ?」
「飲めなかったって人も、歳を重ねて味覚が変わって、飲めるようになることもあるらしいからさ~」
こうなったら上司だろうと教授だろうと、両眼の光を消して、せいいっぱいの低音で、「話、聞いてました?」と圧をかけるほかない。(実際、何回かやった)
 
いやはや、強いてくるタイプの酒飲みは、お酒が飲めない人のことが心底、信じられないんだろう。
大人になったら全員、本能的に、アルコールを飲めるスイッチか何かが入ると思っている。そして、大人の席である酒宴を、ともに楽しむ仲間として認定する。
 
だから、お酒が飲めない人=説明がつかない人間なので、下戸が説明責任を果たすまで認めないのだ。
あるいは、果たしてもなお、認めようとしない。
さらに、「飲む能力はあるけど、飲みたくない/飲まない選択をする」という、“飲める-飲めない”の間のグラデーションにいる人たちのことを、もっと“説明がつかない”とみなすだろう。
自分たちは、「なんで飲むの? 飲めるの?」と問われることなんてないのにな。
 
――という思考を、飲み会の帰り道でひと回しすれば、その日は終わる。
終わったら、またしばらく思い出さなくていい。
 
これとよく似た形の話で、しかし、ずっと頭の中でぐるぐるしてしまう話題がある。
それこそ、成人する前からずっと考えていた。
 
私は、子どもが欲しいと思ったことが一度もない。
 
現在、29歳。きっと出産適齢期といわれる年齢だ。
シスジェンダーの女性で異性愛者なので、男性と結婚して子どもを授かる可能性が一番高い、とされる属性だろう。
私とて、そのあたりの年齢になれば、勝手に子どもがほしくなるもんだと思っていた。
 
ところが、母性本能なんてものは、いっこうに生えてくる気配がない。
好きなパートナーは、いる。その人と一緒に、なるべく同じ時を過ごしたいと思っている。
でも、「子がほしい」という思いは、頭の中のひきだしを全部ひっくり返しても、見つからなかった。
 
私は、おかしな人間なのだろうか?
 
幼少期の家庭に問題があったからか? いいや、両親からは100%愛されて育った自信がある。親子の衝突やいさかいも、苦しかったけど必要なものだったし、今なら受け止められる。
パートナーに対する愛情が足りないのか? そうだろうか。「その人との子がほしいと思うかどうか」だけが、愛情を測る唯一の尺度なのか? というか、私の気持ちを他人からジャッジされるいわれはないはずだ。
 
友人や同僚が次々に子どもを授かり、SNSでは息子や娘の成長記録が「共有されるべき日常」としてシェアされる。
そんな中で、「あなたは、結婚とか子どもは?」と、いつ問われるか、少しだけ怖い。
 
「お酒飲めないの?」と聞かれて「体質的に飲めないです」なら、はっきりと言い切れる。
だが、この話題の場合、私の答えは「たぶん飲めるんでしょうけど、飲みたいと思わないです」に相当する。
だから、きっぱりと言い切れる自信がないのだ。
「女性はみんな、本能的に、子どもを産みたいと思うはずだ」という前提の社会にあって、
「シスジェンダー女性で異性愛者、病気か何かで『産めないです』といえる事情があるわけでもない人が、子どもがほしいと思わないと言っている」
という状況は、最も“説明がつかない”現象のひとつだろう。
 
だから、人は、つじつまが合うような説明を求める。
「産んでみたら、気が変わるかもよ?」
「そのうち子どもほしいって思うようになるって」
どうしてだろう、お酒の席と似たような言葉なのに、毅然とした態度をとれない。
 
「子どもがほしいと思ったことがない、今も、この先も」なんて言ったら、女性性の象徴とされる“母性”が欠落した、ひどい人間だと思われそうで、「どうして?」という問いが怖いのだ。
子どもがほしい人たちには向けられない、であろう、「どうして?」という問いが。
だから、「まあ、今のところはですけど……」なんて予防線を張ってみせている。
 
しかし、だ。
このループはこれからも定期的にやってくると、さすがに私も気づいた。
だったら、こっちも考えがある。定期的に抜け出してやるしかないんだ。
 
どうして、いつまでも、“説明がつくように”ふるまわないといけないんだ、と思う。
政治家や権力者は、「少子化が進んでいるのに! 産まない女性のせいだ」とでも言いたげだが、「私の気持ちをないがしろにしてまで、貢献しないといけないのか?」と問い返したい。
 
子どもがほしくなるのが、説明の必要ない「本能」であるなら。
私の「どこを探しても、子どもをほしいという気持ちが出てこない」現象だって、「本能」なんかじゃ説明がつかないまま抱えて、観察して、投げ出したくなって、どうにか言葉にして、でも言葉にするのが怖くて、それでも吐き出したくて、だから誰かと分かち合う方法を全力で模索していってやろうじゃないか。
 
だから、私が独り暮らしを楽しむのも、仕事をがんばるのも、趣味に没頭するのも、“子供が欲しいと思わない代わりに”そうしているのではない。
 
これが、現在の私だ。
本能なんかじゃ説明がつかないまま、それでも、ここにいる。
 
 
 
 
***

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2025-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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