メディアグランプリ

一瞬、自分がF1になった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保田倫生(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「やばい、締め切りが……」
 
月末あるあるではあるが、やはりいつもの通りこの状況になってしまった。
今日まで毎日毎日時間があったはずなのに……
わざわざ締め切り間際まで自分を追い込まなくてもいいのに。
 
毎日少しずつやればよかった。
そんなことは百も承知だ。毎日コツコツできるのであればそれに越したことはない。
毎回毎回締め切り間際でいつも同じことを思う。
 
なぜ、毎日コツコツできないのか? 
毎日コツコツできなかったとしても、もう少し計画的にできないものか?
 
今週は息子が体調を崩してしまって手が回らなかったんだ
他の仕事が重なって、手が回らなかったんだ
出張が重なっていて、物理的に時間がなかったんだ
飲み会の誘いが多くて、手が回らなかったんだ(←オイ!)
 
言い訳はいくらでも出てくる。
でも報告書作成は一向に進まない。
 
いや、そんなできない理由なんて探している時間はない。
オレに残された時間はあと数時間なのだ。
 
そう心に言い聞かせてデスクに座る。すると、なぜか気になることばかり。
 
うーん、なんかデスクが汚いなぁ。資料の整理をしないと。あの資料どこにやったかな? 
あっ、ちょっと汚れているなぁ、デスクの上を雑巾がけでもしようか。
あれ、こんなところに探していたサインペン!! 
いや~探していたんだよね~
うれしいな。
もっとほかのものも出てくるかもしれない。よし、掃除しよう!
 
って、オイ!!
報告書やれよ!! 掃除ならいつでもできるだろうと。
毎度こんな調子で毎度締め切りに追われる日々。
 
 
周りを見渡すと、月末最終営業日。みんな私と同じく締め切りに追われていた。
 
一心不乱にPCに向かい鬼の形相でタイピングをする人(あきらめない人)
取引先にさっそくギブアップを申し出る人(潔い!)
部下に資料探しをさせている人(人のせいにする)
今更インタビュー内容を文字お越ししている人(報告間に合うのか?)
怒り狂ってPCのキーボードをガンガンたたきまくっている人もいる(PCは悪くなかろうに……)
 
まぁ、カオスである。
 
オレはただカオスな職場をボーっと眺めた。
 
ん? なんだこれ? ある雑誌に目が留まった。
どうやら車雑誌のようだ。気になって手に取った。
これも現実逃避なのかもしれない。でもなぜか手に取れと雑誌が言っているように思えた。
 
ペラペラっとページをめくると、F1の記事があった。
書いてあることはこうだ。
F1とは速く走ることを徹底的に追求した最新技術の塊みたいなものである。
ひと昔前と違って、ドライバーは運転技術もさることながら、その精密機器の理解がないとそのポテンシャルを最大限に発揮できないとのこと。運転技術はもちろんだが、その精密機器の特徴や性質、不測の事態が起こった際のリカバリー方法等々、精密機器の知識も持ち合わせていないとドライバーとして成り立たないのだと。
 
そして、極限までにスピードに特化し、洗練された仕組みのため、極めてデリケートな乗り物になっていて、そのデリケートさがもっともでるのが「スタート」のときである。
 
スタートの時に一気にアクセル全開! とするととってもデリケートなF1のエンジンはすぐに「エンスト」してしまう。そして仕組みがあまりにもデリケートなため、再度エンジンをかけるには、エンジンを起動するためのすべての工程を再チェックしなおさなければならず、それは人手も時間もかかるため、0コンマ1秒を争うF1においてそのタイムロスは致命的であり、エンスト=レース終了になってしまうとのこと。
 
ん?
これってオレのこと?
 
報告書を書くことに特化した、極めて洗練されたオレである。
そのポテンシャルを最大限に発揮させるためには、とにかくオレのことを理解しないといけない。
そして、極限までに報告書を書くことに特化したオレは、洗練された仕組みであるが極めてデリケートである。
 
そうだ、そうだ。
 
そのデリケートさがもっともでるのが「スタート」の時である。
一度スタートに失敗してしまうと、またエンジンをかけて「書くぞ!」となるまでには、大変な時間とコストがかかるのだ。気分転換に掃除したり、少し甘いものを口にいれたり、気持ちよくスタートできるように、終わったあとのご褒美も考える必要がある。ケーキでも買ってきて冷蔵庫に入れておくなんてのもありだろう、モチベーションを高めるためには。そう、極めてデリケートなのである。
 
このスタートをうまくいかせるためにはとにかく、慎重に慎重に進めないといけない。
スタートさえうまく切れれば、あとはスピードに乗って一気に書き上げることができるのだ。
そう、スタートこそ肝心なのだ。うん、そうだ。間違いない。
スタートは慎重に、だ。
 
 
「おーい」
 
向こうから上司の声が聞こえる。
 
「お前、今自分がF1だと勘違いしてないか?」
「大丈夫、オレらは軽自動車だから。エンジンかけたらすぐに走れるって。ほらっ、さっさと書けよ!」
 
どうやら上司にはお見通しのようである……
そうです、オレらは軽自動車。その筋の巨匠ではない。
書けなくても、何とか書き始めないといけない。
大丈夫、軽自動車だから、エンジンかけてすぐにアクセル全開で書けるんだよね。
シンプルにできているから。
 
まぁ、何も考えず書き始めるか。
 

先週末に我々よりも1週間早めの締め切り案件を抱えた上司がこの車雑誌を読んでいたことは公然の秘密である。そして、多分私と同じ心境だったのでしょう……
 
 
 
 
***

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2025-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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