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靴下の管理が絶望的に下手な私だって、新しい旅に踏み出したい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
平日、うっかり夜ふかししたときに限って、水回りのそうじとか、引き出しの整理とかがはかどるのはどうしてだろう。
あれは本当によくない。よくないのに、やめられた試しがない。
今日もそんな感じだ。なぜかクローゼットの整理を始めてしまった。
よりによって、私が整理を一番苦手とする場所じゃないか。
 
透明なプラ製の衣装ケースには、ハンカチやタイツ、そして靴下が入っている。
しかしまあこの……なんというか……混沌は、なかなかのものだ。とても人に見せられる代物ではない。絶対に見せないけど。
そりゃそうだ、洗濯して乾いたものを、てきとうに丸めて突っ込むもんだから、無理もない。
 
何か月かに一回、こうやって変なタイミングで思い立って、衣装ケース総ざらい大会が始まる。
それで今回も、衣装ケースの中身を全部ひっくり返したら、丸まった靴下が出てくる、出てくる!
 
毛玉まみれのグレーの靴下、片方だけになった黒いリブ編みの靴下。
夏休み前の小学生の机の奥底から、学校行事のだいじなお知らせの紙がクッシャクシャになって発掘されることがよくある。まさにその靴下バージョンといった趣がある。
 
しかも、半分くらいは、知らない靴下だった。
いつどこで買ったのかも、きれいさっぱり忘れている。
いやはやまったく恐れ入った。人間は、六畳一間のワンルームにすら、ちょっとしたブラックホールを作り出せるのだ。
 
しかし、どうしたものか。
靴下との向き合い方が、あまりに雑すぎやしないか、私は。
 
整理を終えて残った靴下たちは、モノトーンのものばかりだ。捨てる前と、そう変わり映えはしないが。
黒、グレー、ダークブラウン。どんなに派手でも、白地にグレーのボーダーくらい。
 
そもそも、靴下って、どんなきっかけで、何を考えて買うのが普通なんだろう?
 
基本的に、洋服のコーディネートの中で「目立たない」を第一目的に、靴下の色を選んでいる。
どうすれば目立たないかというと、「ボトムスとの連続性」か、「靴との連続性」の、どちらかを達成すればよい。
 
で、私の靴およびボトムス事情はというと、
 
靴:どんな服装にも合わせやすく、汚れが目立たないように、基本的に黒
ボトムス:脚を出したくないので、足首が少し見える程度のロング丈のパンツやスカート。基本的に黒やグレー、ダークブラウンなどの暗めの色
 
ということで、靴やボトムスの色とのギャップを抑えるなら、靴下も必然的に、地味な色に落ち着く。
 
そして、買い足すきっかけは、「穴があいた」「洗濯のサイクルに追いつかない」「冬用の厚手のものがほしい」など、ものすごく実用的な事情だ。
そこに「どんな靴下が履きたい」という欲求はなく、ただ、必要性だけがあった。
 
だが、その結果はどうだ?
 
確かに、普段のファッションで悪目立ちしない靴下使いはできている。
一方で、似たような方針で靴下をそろえるあまり、どんな靴下をいくつ買ったかも忘れていった。
その繰り返しでは、衣装ケースの奥に、悲しい化石を作りだすばかりではないか。
 
シベリアでトナカイとともに生きる、とある遊牧民は、命と毛皮をもらったトナカイの顔や名前をずっと覚えていて、詳細に語ることができるという。
それにひきかえ私は、靴下を、なるべく目立たなければいい、ただの実用的な消耗品くらいにしか思っていなかった。
どんなことを考えて、この靴下を買ったのか。
この靴下をどんな服と合わせて、どんなところに出かけたいか。
それらを語る言葉を、私は持ち合わせていなかったのだ。
 
もちろん、毎日コーディネートを迷わないように、靴下は全部同じ色・同じサイズでそろえてしまえばラク、と勧める向きもあるだろう。
目的によっては、とても有効な手段だ。
 
でも、私は、靴下について語り、楽しむほうを取りたいと思った。
ほしいのは、クローゼットの奥の化石ではなく、足元を彩るための絵具だ。
片方だけになった靴下たちは、「もっと僕たちのことを見て!」と、私にサインを送っていたのかもしれない。
 
以来、外出で電車に乗る時間は、人間観察ではなく、靴下観察の時間になった。
これが、やってみるとけっこうおもしろいのだ。
 
シンプルなワンピースに、かわいらしい花柄の靴下。素敵だな。
クリーンな白色のスニーカーに、目を引く原色の赤の靴下。なるほど、ギャップを楽しむというわけか。
服も靴もモノトーンだけど、靴下だけオレンジ。「差し色」か、これは私もマネできるかな?
左右で違う柄物の靴下。えっ、履き間違い? でも、この人、全体的に個性的なコーディネートだし、靴下もあえてこうしているのかも。大胆だなあ。
 
靴下なんて、服と靴との間を埋めるための“つなぎ”くらいにしか思っていなかったが、そうでもないみたいだ。
10センチ足らずの長さしか見えていなくても、その人の個性や、ファッションの方向性が現れている。
 
ひょっとして、靴下を起点として、コーディネートを発想する、なんてのも、ありなのか?
やったことない。でも、やってみたい気がする。
この小さなキャンバスをめぐる冒険は、意外と奥が深そうだ。
 
帰り道の商店街、ふと、いつも通り過ぎていた靴下ショップが気になって、立ち止まる。
春らしいパステルカラーの靴下が、並んで揺れている。
新しい旅へと、踏み出しそうになっている。
 
 
 
 
***

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2025-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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