転職したら息の仕方がわからなくなりかけて「空気」のありがたさを実感した話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:志村幸枝(ライティング・ゼミ1月コース)
春、ウキウキしながら眺めていた桜、今年は胸をザワザワつかせ、焦燥感をもたらした。
長年勤めた漢方相談店を辞め、新天地で新たなスタートを切ったからだ。
今年の春は、私にとって思った以上に大きな節目になった。
思えば、これまで勤めていた店は「安心のカタマリ」みたいな場所だった。安心できる、というのは、すごいことだ。誰かの言葉を借りれば、安心は「空気のように気づきにくいが、なくなると一瞬で息苦しくなる」存在だ。でも当時の私は気づいていなかった。
もう数十年来てくださっているあの方、毎回たわいもないおしゃべりで一緒に笑ってくれたあの方、毒舌だけど実のところ心根が優しいあの方。そういう方たちに囲まれて、私は毎日無自覚に「おいしい空気」を思う存分吸い込んで、息苦しさなんて全く感じたことがなかった。「志村さんと話すと安心するわぁ」と何度も言って頂くことがあった。今になってはっきりわかるのは、安心感を与えていたのは私ではなく、むしろ私の方が安心させてもらっていたと言うこと。それはまるで、日々を穏やかに満たしてくれる、おいしい空気の安定供給だった。
この春は、そんな居場所を手放し、新しい土地で、また一から人と出会い、信頼を築いていくことにした。
ウキウキもするけど、ザワザワして落ち着かない感じ。新しいことに対する期待感と、不安感。
これは、学生時代の新学期。そうだ、クラス替えをしたばかりの教室にいる時の気持ちだった。
新しい場所には、新しい空気が流れている。
顔も名前も知らない人たちの中で、また「はじめまして」から始まる毎日。
とはいえ、この新しい場所に誘ってくれたのは以前から信頼を寄せている友人。
全く不安が無かったといえば嘘になるが、大きな安心感も持ちながら飛び込んだはずだった。
ところが、蓋をあけてみると、とんでもないことだった。お客様は自分のことを何も知らない。どこまで自分を出していいのかもまだわからない。受け入れてもらえるかどうか、わからない。
・・・・・・あれ? 息ってどうやってするんだっけ?
大人になって、いや、大人になったからこそ、こうした「新しい関係性」に身を投じるのは、とても勇気のいることだと実感する。
学生時代は、半ば強制的に与えられていた「クラス」という環境の中で、誰かしらと自然に関係ができていたけれど、大人になればなるほど、「自分から踏み出す」ことが求められる。なじみのない自分を、少しずつ、時間をかけて受け入れてもらうというのは、想像以上にエネルギーがいるものだ。
転職というものを、私は「挑戦」とか「ステップアップ」という言葉でイメージしていた。
けれど、実際には、「孤独」や「不安」が胸の奥の方にずっとへばりついていた。
それをまざまざと思い知らされる出来事があった。
心が緊張でこわばっているのは充分すぎるほどわかっていた。朝はドキドキするし、夜はぐっすり眠れない。挙げ句の果てに、まぶたや頬がピクピクと痙攣し始めたのだ。身体は嘘をつかない。これは極度の緊張状態がもたらした身体からのサインだ。漢方相談でそういった不調を抱えたお客様との会話を思い出してみる。自分で自分を慰めていたら、不覚にも涙が出た。
ほんの数ヶ月前まで、安心しきって仕事ができていた時のことを思い出した。私はあの場所で「居場所」をもらっていたんだなと思うと、ますます涙が止まらなかった。
「安心」は目には見えないけれど、ちゃんと存在していて、日々作られていく。
私が届けていたつもりだった「安心」は、実はお客様の中にあるもので、それがゆっくりと私にも伝わって、気づけば、私自身が一番癒やされていたのかもしれない。
「安心」とは、「わかってもらえている」と感じられること。言葉にしなくても通じ合える空気。
それを失って初めて、どれほど貴重なものだったのかを知った。
けれど、同時に、安心はまた、育てていくものでもあるとも思った。
最初はぎこちなくても、少しずつ関係を重ねていけば、またあの穏やかな空気は戻ってくる。
「ご体調どうでしたか?」と聞くときの声のトーンや、相手の表情から、その方の調子がわかるようになっていく。人と人の間に流れる、目に見えない「安心の粒」みたいなものが、時間とともにじわじわと積み重なっていくものなのだ。
クラス替えをしたばかりの新学期のように、新しい人間関係にドキドキしながらも、どこかで「なじんでいける予感」はある。たとえ今はまだ、教室の隅で寝たふりをするような、手持ち無沙汰でそんな行動をとってしまう状態だとしても、少しずつ自分らしさ受け入れてもらって、新しい「空気」をつくっていきたい。ゆくゆくは学級委員長に立候補するくらいの大胆さも含ませながら。
安心は育てるもの。これからどんどん増やしていくもの。
そうイメージしたら、呼吸がちょっと楽になった。
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