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英語の成績は常に「1」に近い「2」の私が香港空港で財布をなくしたら人生が豊かになったという話し


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記事:冨山 繁美(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
 「財布がない」と気付いたのは香港国際空港でのこと。名古屋から香港へ行き、そこから飛行機を乗り換えて旦那の待っているスリランカまで子ども2人と共に行かなくてはいけない。それなのに財布を飛行機の中に忘れてしまったのだ。
 
 財布を忘れた経緯はこうだ。当時キャセイパシフィックでは寄付の封筒が客席に設置されていた。現地通貨を持っていたらその袋に入れて寄付しましょう、という取り組みだ。私は封筒にお金を入れようと座席上のカバンから財布を出し封筒に現金を入れ財布を鞄に戻そうと立ち上がろうとしたそのタイミングでシートベルトのランプがついた。だから座席前のネットに一時入れそのまま忘れて飛行機を降りた。気付いたのは乗り換えのためにものすごく広い出発ロビーのラウンジ前。ラウンジでプライオリティカードを出そうとした時になって「あ! 座席前に置きっぱなしだ」とハッとした。
 
 瞬間全身が震える。財布の中にはかなりの現金、各種クレジットカード、免許証、家族3人分の健康保険証、個人・会社の銀行キャッシュカード類がわんさか。「旦那に叱られる」そして「使われるかも」という思いで背中が冷たくなった。さらに私は中学・高校で英語が常に「2」だ。それもどちらかといえば「1」に近い。高校時代には英語が嫌すぎて理数系に進んだくらい英語が苦手なのだ。
 
 オロロしていても仕方がない。取りあえずインフォメーションに駆け込んだ。ついてきている子どもたちは怒りモードで「ママ やってくれたな」というオーラを纏っている。インフォメーションでは数人が並んでいた。スタッフはクチャクチャとガムを噛みながらにやけ顔でスタッフ同士ふざけ合っている。列は一向に動かない。財布を忘れた自分が悪いのに、ヘラヘラしているスタッフにも腹が立つ。あーだ、こーだと時間がかかっている他のお客さんにも腹が立つ。
 自分の番になり、座席の半券とパスポートを見せながらとにかく自分の知っている単語を組み合わせ「名古屋から香港に来たこの便のこの座席の前のシートの網に財布を忘れた」そして「その財布にはとても大切なカード類があり絶対に必要なんだ」とジェスチャーを交え必死に訴える。きっと簡単な単語の上文法もめちゃくちゃだったと思うがとにかく「カード類と身分証明関連だけでも」という必死な思いだった
 ガムをクチャクチャ、ヘラヘラしていた若い男性が真面目な顔つきになり拙い英語の訴えを真剣に聞いてくれる。そして周りの女性たちに中国語で指示を出していた。電話をかけるスタッフ、他のデスクに行くスタッフ、「日本語がわかるスタッフを呼んでくるから大丈夫よ」多分こんなことを言ってくれ走ってどこかにいくスタッフ。その優しさが身に染みた。腹を立てていた自分にも嫌気がさした。
 
 数分後、日本語のできるスタッフがきてこれまた親身に聞いてくれた。彼女から「飛行機は清掃のため別の場所に移ってしまっているので確認に60分くらいかかるから60分後にここにきてくれ」と言われた。「あるかないかだけでも聞きたい」と食い下がったが、その確認が今はできないということだった。
 
 地獄のような60分を過ごし、絶望の中トボトボとインフォメーションに向かって歩いていると、前方から先ほど対応してくれたクチャクチャ、ニヤニヤの男性が私のものと思われる黒い長剤布を手に、大きく手を振ってくれているではないか! 「ああ、見つかったんだ」その瞬間全身の力が抜けた。駆け寄ってきだ男性は「これで間違いない? 中身の確認して」と言って手渡してくれた。この時点でかなり英語が聞き取れる。不思議だ。
 
 現金、全てのカード類もそのままだった。英語でお礼を言い「スタッフみんなで何か美味しいものでも食べてください」と財布からお札を渡そうとしたら「また、キャセイパシフィックをご利用ください。良い旅を」と業務に戻っていく。その背中に頭が下がる思いだった。そしてこれを機会に私は「英語が聞き取れる、話せる」仲間入りをすることに。さらに「英語」を使いいろいろな人との会話や価値観の違いを楽しむようになり人生が豊かになった。
 
 私たちは中学3年間、高校3年間英語の授業を受ける。さらに進学すればそれ以上の時間を英語教育に費やしている。しかし「英語が苦手で話せない」と言う友人や仲間が実に多いし私もそうだった。でも絶対にそんなことはないのだ。「英語」は学問ではなく「ツール、道具」と考えてはどうだろう。使うことが重要で話せないは思い込み、単に「機会」がないだけなのだ。会話なら中学英語で十分なんとかなる。成績が「1」に限りなく近い「2」の私がどうにかなったのだから。
 
今年の大阪万博や来年のアジア競技愛知大会などで海外から日本に訪れる方も多いはずだ。もしもその方達が困っていたらぜひ声をかけてみてほしい。英語圏の人じゃないかもしれないなんてことはどうでもいいのだ。大切なのは困っている相手への「なんとか力になりたい」という思い、そして「案外英語使えるかも」という経験だ。私のような危機的な経験はしなくてもいい。むしろしない方がいい。でもちょっとしたきっかけで「そこそこ使える」という実体験は新たな自分との出会いになり人生が豊かになっていくと言えるのではないだろうか? 
 
 
 
 
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2025-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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