カラダが教えてくれた「もうここにいてはいけない」沈黙のパートナーから渡された突然の最後通告
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菊子(ライティング特講)
「あっれ。また痩せてる。……ちょっと、やば?」
私が29歳の時のこと。
ダイエットをしているわけでもないのに、体重が少しずつ減ってきた。
その頃、ブラックに近いグレーな職場で働いていた。仕事は、毎日終電かタクシーで帰るくらい忙しかった。でもそれはずっと前からだったし、痩せたのは忙しさが原因じゃない気がする。
ちょっと動悸がする気もするけど、煙草やカフェイン剤のせいだろう。食欲は結構あるし、ごはんもよく食べてる。
ところが、減った体重は3㎏を超えてきた。一般的には驚く量じゃないけれど、中肉中背で10代の頃からほとんど体重変化のなかった私としては、この数か月の減り方は何かがちょっと違う感じがした。
……これは、病気かな。
何年か前に、母から遺伝性の病気の話をされたことを思い出していた。
母は、祖母から受け継いだ「バセドウ病」と呼ばれる持病があった。「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」という病状があらわれる。
この病気は、「自己免疫疾患」のひとつで、いわゆる「免疫たちが自分の体を敵と誤解して、ばんばん攻撃しちゃう」やつだ。
「甲状腺」は、人間の「元気のみなもと」になる「甲状腺ホルモン」を作っている。バセドウ病は、勘違いした免疫さんに甲状腺がタコ殴りにされて、甲状腺ホルモンが出過ぎて起こる病気だ。結果、24時間365日、寝ている間も新陳代謝が活発になる。
……するとどうなるか。
心臓が常にフルパワーで働き、活性した体はエネルギーをどんどん消費する。私はこの状態になっていた。
バセドウ病は、遺伝しやすくはあるものの、発症はストレスなどの外的要因の方が大きいのではないかと考えられている。
痩せた理由は忙しさじゃなかったけど、
発症した原因は……明らかに仕事だわ、と思った。
当時勤めていた職場は、薄利多売で食いつないでいるような会社だった。現場は6人。誰か休むと残った人の負担がえらく増える。深夜まで働いてるのに残業代が出ない。
そんな中、長年いた管理職の社員が辞めた。そして困ったことに管理職の仕事は、アラサーなのに一番若年という私にまわってきた。おまけにある男性社員がストーカー化もしてきていた。何の祭りか。
冷静に考えて、すぐ辞めてもいい条件はもう満たしていた。でも、その当時は辞めるという選択肢がまったくなかった。もっというと、辞められるはずがないと思い込んでいた。
恩のある人の紹介で入った会社だったし、これ以上人が減ったら仕事も回らないし、他の社員も過労で死ぬと本気で思っていた。
それに、生まれて初めて役職についた。責任を、果たさなければ。
人並みの幸せって、なんだっけ。
もう感情とかいらない。
何も考えないですむ機械になりたい。疲れた。
そんなことを考えて過ごしていたら、病気が発症した。
自分はもう限界だったのに、アタマで全部抑えつけて、ココロの声を無視していたら、今まで黙っていたカラダが「もうやめろ」と言った。
***
その後、バセドウ病は薬が効いて寛解(かんかい:全治はしないものの病状が治まり穏やかになること)し、投薬もなくなった。
グレーな会社は、すぐには辞められなかったけど退職した。
同業者に声をかけられ、社長と社員あわせて3人の小さな会社だけど、転職もできた。
今度こそ健康で幸せな人生送るぞ!!!
息巻いて入った会社には、激しいパワハラで社員の心を折りまくる社長が待っていた。マジっすか。
自分のリサーチ不足を呪うけれど、前職を辞める気力体力が不足していたからしょうがない。それより、この日々のパワハラ(特に特定の社員に対して)をどうにかする方にエネルギーを費やそう。社長の説教を聞いてると胃がギュッとなるけれど、前向きな改善策を考えよう。
とはいえ、そう易々と人も状況も変えられない。
その日も、社長の繰り出す終わらない説教にうんざりして、帰りに渋谷を歩いてみた。なんだか息が切れるな。
スクランブル交差点に差し掛かった時、激しい動悸と息切れで、もう一歩も動けなくなった。
……十中八九、バセドウ病が再発してる。
信号が青に変わり、周りの人が一斉に歩き出す。
私は肩で息をして胸を手で押さえながら、その風景をぼんやりと見ていた。渡りたいけど、苦しくて動けない。
なんだか笑いがこみ上げてくる。バカだな、私。
「あー…… この会社、もう辞めよ」
せっかく寛解したのに、またもカラダからストップがかかった。ごめんね、同じこと繰り返しちゃったよ。
***
その会社をすぐに辞めたのかといえば、実はその後何年もいた。
再発当時、退職願いは出したものの、社員の一人の妊娠が発覚してやむなく残ることを選んだ。
けれど、「いざとなったら、いつ、辞めてもいい」と心に決め、ハラスメント環境を改善してほしいことを社長に伝えた。
すると、驚くべきことに職場の雰囲気が少しよくなった。社長も、再発の話をしたことでだいぶ私に気を遣ってくれているようだった。
バセドウ病は、その後もう一度だけ、再発した。その時は仕事ではなく、長年付き合った人とお別れした時だった。
私のココロの限界を、カラダがものさしとなって教えてくれる。だから私は、ほんの少しだけ油断してしまう。アタマだけで突っ走っても、「それ以上は、ダメだ」と諭してくれる存在がいるから。
でも、本当は、カラダをそこまで追い込んではいけないことも知っている。再発したカラダは、本当に消耗している。
比喩でなく、「命を張って」教えてくれている。
渋谷のスクランブル交差点で再発した後、病院で先生に言われた。
「あなたね、今、軽い心不全、起こしてますから。
安静にして、絶対無理しちゃダメですからね」
カラダが倒れたら、そこで本当におしまい。
これからはココロの声に耳を傾けて、相談しながら共に生きていこう。
***
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