ずっと飼っていた箱入り娘が巣立って初めて気付いた話
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記事:星空志音(ライティング特講)
我が家の箱入り娘がようやく巣立った。
いつかは別れる時が来る。そんなことはとっくに分かっていた。それでもどこにも行かないように大切に扱っていた。
「名前が変わります」
そう言われた時の衝撃は大きかった。受け入れがたかった。ずっと今のままでいてほしかった。そんな気持ちをよそに、あれよあれよという間に話は進んだ。
新しい名前で呼ばれ始めた。
ただ誰しもが受け入れ難かったのだろう。多くの人は今まで馴染んだ名前で呼び続けた。新しい名前を言ってもピンときてもらえないから、いちいち今までの呼び名も語尾に付属するのがお決まりになった。そんな状況を見て、私だけじゃないとどこかほっとしていた。
名前が変われば面倒だ。年賀状を出す時しばらくは「〇〇(旧:△△)」と表記しなくてはいけない。この括弧付きの表記は長らく続いた。それを目にする度に、まだ大丈夫とどこか安心していた。まだいける。このままでもいい。
それなのに、最近はいよいよその表記もなくなった。それはそうだ。もうあれから2年弱も経ったのだから。
2023年7月24日の衝撃と言ったら、やっぱりと思われた方もいるだろうか。
私の箱入り娘は人ではない。鳥だ。それも青い鳥。
Twitterの青い鳥である。
恥ずかしながらつい数日前まで私はスマホという四角い籠の中で青い鳥を飼い続けていた。2025年にもなっても抗っていた希少種を笑ってほしい。でも私と同じ仲間もどこかにはいると信じてみたい。だって純粋にあの青い鳥可愛かったんだもの。アップデートのボタンが決別を意味する。自分からさようならを言い渡す、それが出来ずに先延ばししていたのだ。
と言っても実のところTwitterは読む専門で、SNS自体に愛着があったわけではなかった。でもどうしてだろう?無くなると言われたら手放したくなくなるものだ。閉店すると言われた途端足繁く通うようになり、製造中止と言われれば買い占められて店頭から無くなる。人はそんなものだ。そのうえ昔の方が良かっただなんて。人は変化にとことん弱い。
いつまでも変わらない心地よさに甘えていた私にも決別の時が来た。
Twitterの使い方と同様、受動的だった人生を変える決断をし、今この文章を書いている。誰にも届かなくてもいいと思っていた言葉を届ける覚悟をした時、ただただ書いているだけでは駄目だと気づいた。発信しなくては誰にも気付かれない。そのために新しいアカウントを作ろうとしたら、青い鳥から引導を渡された。
「アップデートしてください」
ついにこの時が来てしまった。娘からの結婚報告さながらの告白に動揺するも、覚悟を決めるしかない。
「わかった……わかったからちょっと待って……」
まずはスクショ。結婚前夜に写真を撮って何が悪い。
深呼吸をしてアップデートのボタンを押す。アイコンが変化する様を再びスクショ。今思うとみっともないが自然と手が動いていたのだから仕方がない。
「さようなら。元気に暮らすのだよ」
不覚にも潤んだ目を擦り画面を覗くと、なんとまだそこには青い鳥がいた。
「X」というアプリ名の上に何故か青い鳥。そうか、名前が変わっても見た目は変わらないのね。良かった!
そう思ったのも束の間だった。何かの不具合だったのだろう。次にスマホを開けた時には、白黒のバツ印が淡い期待をバッサリと否定してみせた。
いざアプリを最新化しXを使い始めたら、GrokというAIが搭載されていた。いつまでも変わらないで時を忘れていられた竜宮城。そこから帰ってきた浦島太郎の気持ちだ。こんなに情報が溢れている社会でも、自ら進まなくては気付かないことはあるのだ。
SNSは怖いという気持ちが拭えずに見る専門だった自分から卒業し、自身の投稿はもちろん、色々な人の投稿を見に行きフォローをしてみた。すると想像していた以上に多くの交流が生まれた。よく考えれば、こちらから手を挙げてここにいるよと言わなければ誰も気づきようがない。それだけのことだった。歩み寄っていけば、歩み寄ってくれる。それはSNSだろうがそうでなかろうが何ら変わらない。傷付くのを恐れて籠から出ないでいたのは自分自身だったのに、歩み寄る努力をしないで怖がっていたのは私の方だった。
スマホという四角い箱にずっと飼っていた青い鳥は、まさに「箱入り娘」であり、いつまでも変われない自分そのものだった。子育てに必ず「子離れ」が必要なように、私には「自分離れ」が必要だったのだ。青い鳥がそれを教えてくれた。
あなたにも飛び立てないでいる青い鳥はいますか?飛び立った先には意外な景色が見えているものです。
青い鳥さん、今まで閉じ込めていてごめんよ。無事に飛んでいくんだよ。私も飛び立ってみるからさ。
***
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