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人生には「即興」が必要なので植物園に行くといいと思う


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記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
植物園がブームになっている。
むろん、私の中で、の話である。
 
しかし、私の中だけのブームではもったいないので、この文章を書いている。
私が植物園を好きな理由は、その多くが県や市などが運営する公共施設で、入館料が安くて助かる、というだけではない。
 
この現代社会を生きる私たちにとって、植物園は、まちがいなく必要だと思う。
なぜなら、植物園は、人生に「即興」をもたらすからだ。
 
即興。アドリブ、ともいう。
あらかじめ決められた台本やストーリーから外れて、あるいは最初からない状態で、その場で思いつくままに演技をしたり、楽器を演奏したりすることだ。
 
いまいちど、そんな「即興」と、正反対な私の話をしたい。
私は、会社員として働いている。どうやらビジネスパーソンという別名があるらしい。
 
ビジネスの目的は、利益を上げることと、コストを下げること、この二つ。
それらを合わせて、去年より今年、今年より来年と、成長し続けること。それができないと、いまの経済のしくみの中で、会社が生き残ることは難しい。
 
あなたが所属している、部門もそうだと思う。ある時点までに達成するべき売上金額があって、それまでに、いつ、どんなアクションをしないといけないか。目標と締切に向かって、今やるべきことが、逆算方式で決まっていく。
 
ここまでは、まあそうだろうな、と思う。自分自身の給料と生活もかかっているわけだし。
私が「おや?」と思うのは、そのセオリーを、個人にもあてはめすぎなのでは、ということだ。
会社で「キャリア形成」の研修を受けたとき、こう教わった。
 
「何歳までに、どんな自分でありたいか。まずはそれをイメージしよう」
「その状態と、今の自分との間に、どんなギャップがあるか分析してみよう」
「そのギャップを埋めるためには、何歳までに、どうなっている必要があるか。5年、1年、半年、1か月、1週間……と、大きい目標を小さいステップに分解して、必要な行動を考えよう」
 
ようは、会社とか部署とかと同じことを言っている。
これが、私はどうにもひっかかった。
 
もちろん、自分の人生を、望まぬほうに導かないためには、ある程度の軸は必要だろう。方向性が決まっていたほうが、行動の取捨選択がしやすい。
それでもやはり、よく提唱されている「キャリア形成」は、個人の人生を、会社とか事業とかになぞらえすぎているんじゃないか。
 
目標とタイムラインがしっかり決まっていて、やるべきことに毎日全力を出す。昨日より今日の自分が成長していると、自信をもって言い切れる。
会社を最小単位まで分解したら、そんな「個人」が出てくるか?
 
私の答えはノーだ。
 
「キャリア形成」がイメージする個人は、目標達成にむけて必要なステップを、順序よくクリアしていく。
裏を返せば、目標達成に貢献しないものごとを、「自分と関係ないこと」とみなし、人生における優先順位を下げる。あるいは、無視する。
「即興」とは、まるで無縁な人間像が、そこにはある。
 
だが、私は、皆が皆そんな都合よくできた個人だとは思えないのだ。たえず何かに干渉され、影響されまくりながら生きている。
よしやるぞと計画を立てたそばから、思ったほど体調はよくないし、頭もさえない。キッチンの蛇口の水垢が気になりだすし、蛍光灯がチカチカして寿命を知らせる。ああもう、全部投げ出して、自転車ぶっ飛ばして、河川敷を爆走したい!
 
生活は、ままならなさの集合体だ。
予測不能な変化が起こったり、起こらなかったりする。
 
そう、私たちには、目標に向かって成長するだけじゃない、もっと別の側面があるはずだ。
 
おもしろいものが見たい。一回全部放り出したい。わからないものに出会いたい。ただ、ぼーっとしたい。
「何のため?」なんて聞かれても、説明がつくようなことじゃない。
たまには計画や台本を外れて、思いのままに世界にふれること。すなわち、「即興」が、この生活のままならなさを、肯定してくれる気がする。
 
そこで、植物園である。
多くは、最初で述べたように、公共施設として運営されている。だから入館料が安いとか、ときどき無料とかがあって助かるのだが、それだけではない。
 
例えば商業施設なら、その目的は買い物とか食事とか、いわゆる「消費」と相場が決まっている。
それに対して、植物園は公共施設なので、目的があいまいだ。もちろん、社会教育の一環という位置づけはあると思うが、何を学んでも学ばなくてもいい。一人で来ても寂しくないし、ただぼーっと、天を仰ぐばかりの巨大な草木を眺めていれば、時間は過ぎていく。
植物園は、ただ、開かれて、そこにある。
そういうありかたが、どんな「即興」も受け止めてくれるのだ。
 
そして、植物は、身近な存在だけど、謎めいたところがある。動物や魚みたいに、あっ動いた、こっち見た、みたいなリアクションもないので、ちょっとしたわかりにくさがちょうどいい。
さらに、熱帯植物の温室なら、未知の世界にすぐアクセスできる。温帯の住人には見慣れない、自分と程よく縁遠い植物だからこそ、目についたものを素直に眺め、ときどき面白がることができる。バニラやカカオの元の姿を初めて知るのもいいし、「絞め殺し植物」とかいう物騒な名前に震え上がるのも結構だ。
 
植物も、ただ、そこにある。
たったそれだけのことが、目標や成長にがんじがらめになりがちな私の、呼吸を少し楽にしてくれる。
 
だから、人生に必要な「即興」をやりに、植物園に行ったらいいと思う。
猛暑以外の季節で。
 
ちなみに、私が大好きな植物園は、東京都板橋区の「熱帯環境植物館」(通称:ねったいかん)だ。
ねったいかんには、大きな温室だけじゃなく、標高の高い地域を再現した「冷室」がある。ここなら、猛暑でも一息つけると思う。
 
 
 
 
***

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2025-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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