優しいおまじない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:あんず(ライティング・ゼミ集中コース)
※この物語は、フィクションです。
ある日、ちいさな女の子・ゆいは、おかあさんといっしょにまちのすみっこにある、ふるいきっさてんにやってきました。
おみせのなまえは「ときのね」。ドアをあけると、カランコロン、とやさしいおとがしました。
おみせのなかには、カップやおさら、ふしぎなかたちのランプ、ちいさなおにんぎょう…。ふるくて、でもとてもだいじにされているものたちが、ならんでいました。
「わあ、こっとうひんだらけ!」
ゆいは、“骨董品(こっとうひん)”とよばれるものが大すきでした。
なぜなら、ひとつひとつにいる“なにか”が見えていたからです。
ちいさな顔があったり、ふわふわのけむりのようなかたちをしていたり。
それは、九十九神(つくもがみ)。
ものがながいあいだ、だいじにだいじにされていると、たましいがやどって「九十九神」になるのです。
でも、ふしぎなことに——
「……えっ? しゃべった?」
ゆいがふりかえると、まるいちゃわんのうえにすわっていた九十九神が、にっこりと笑いました。
「あらあら。君には見えるのかな」
「は、はなした……!?」
ゆいはびっくり。
いつもは見えるだけで、しゃべったことなんてなかったからです。
「このおみせにいる九十九神たちは、マスターにだいじにされてきたから、ことばがわかるようになったんだよ」
「だいじに……?」
「うん。やさしくつかわれて、ていねいにあつかわれて……そのおかげで、わたしたちはちからをもらえる。だから、たまにだけど見えるひとも出てくるんだよ。はなせたのは君がはじめてだけどね」
ゆいは、ほかの九十九神たちを見ました。みんな、ほほえんでいたり、ちいさく手をふったりしていました。
「ここのマスターともはなしたことはないけど……、大すきだから、マスターがしあわせになりますようにって、いつもおまじないをしているんだよ」
とこっそりおしえてくれました。
でも——
「ねえ、あそこにあるおさらには、九十九神がいないみたい」
「ふふ、それもいるんだよ。君には見えないだけさ」
「でも、なんで? 骨董品じゃないの?」
ゆいがきくと、ちゃわんの九十九神は、ゆっくりこたえました。
「骨董品かどうか、たいせつかどうかをきめているのは、にんげんのほう。どんなものにも九十九神はいる。でも、まだちいさくて、見えないだけ」
ゆいは、さいきんけっこんした近くに住んでいるおねえさんを思い出しました。
おなかの中に赤ちゃんがいるとよろこんでいましたが、ゆいには見えませんでした。
「おかあさんのおなかのなかにいる赤ちゃん、みたいなかんじ?」
「そう、それとおんなじ! おなかが大きくなるまではわからないよね。でもちゃんとそこにいる」
ちゃわんの九十九神はうれしそうに、ぴょこんととびはねました。
そのとき——
「カランッ!」
ゆいの手から、カップがすべりおちました。
カップはパリンと二つにわれてしまいました。
ゆいがふるえる手でそのかけらを見つめると、そこにいたはずの九十九神が、すーっとけむりのようにきえていきました。
「……どうしよう……」
ゆいは、泣き出しそうになりました。
そのとき、カウンターのむこうからマスターが出てきました。
やさしい顔で、なにもいわずにカップのかけらをひろいあつめます。
「……ごめんなさい……っ」
マスターは、にっこりと笑い、店のおくのほうから、ひとつのカップをもってきました。
それは、ひびが金いろにつながっている、すてきなカップでした。
「これ、なおしてある……?」
「そう。金継ぎ(きんつぎ)っていってね、こわれたところをつないで、またいっしょにすごせるようにするんだ。高いカップでも、しまいこんでいるだけじゃ、かわいそうだろう? たいせつにするっていうのは、いっしょにすごして、たのしいじかんをわけあうことなんだよ」
ゆいは、マスターのカップをそっとさわってみました。
そこには、やさしくて、あったかいぬくもりがのこっていました。
「ねえ、どうして骨董品がいっぱいあるの?」
ゆいがきくと、マスターはこたえました。
「そうだね、気がついたらたくさんになっていたよ。なんともいえない、やさしいつかいごこちがして、おじさんは大すきなんだ。まいにち、まいにち、だれかのくらしのなかにいた。なにげないときも、うれしいときも、しずかにそばにいた。そんなぬくもりが、ちゃんと、のこっている気がするのかな」
ゆいは、カップのなかに、ふんわりとすがたをあらわした九十九神を見ました。
とてもやさしく、にこにことわらっていました。
「……あ。戻ってきた」
九十九神は、またことばをしゃべることはありませんでした。
でも、ゆいにはわかりました。
——おじさんには、みんなのおまじないがきいているんだね。
カップをそっと手にもつと、なんだかじんわりあたたかいような気がするのでした。
***
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