スター・ウォーズの影響を受けた人気ロボットが、定期試験前のウチの息子に思えてきた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:和田 千尋(ライティング・ゼミ3月コース)
還暦の記念品として、わが家にルンバがやってきた。ルンバの登場は画期的だった。人類が思い描く未来……「手間がかかったり億劫だったりすることは全てロボットがやってくれる世界」が現実になりつつある。そんなドキドキした気持ちになったものだ。
だがすぐにウチにはルンバは必要ないという結論に達した。狭いうえに物が溢れるわが家では、ルンバが自由に動けるスペースなどどこにもない。アッチでぶつかり、コッチで阻まれ、あえなく立ち往生してしまう姿が目に浮かぶ。
しかし、無料(タダ)でもらえるとなれば話は別だ。隙あらば顔を出す、さもしい気性がここでも発揮される。正直ロボット掃除機なんて自分には縁遠いものだと思っていたが、恐る恐る動かしてみると、意外にもその印象は少し変わった。ルンバがもたらすのは、ただの「便利さ」だけではなかったのだ。
実はルンバの生みの親であるコリン・アングル氏(1967~)は、10歳のときに観た映画「スター・ウォーズ」で、主要キャラクターではなく、MSE-6という箱型ドロイドに影響を受けたそうだ。敵キャラの本拠地デス・スターを縦横無尽に動き回り、物を運び、修理をする姿に心を奪われ、「人の役に立つロボットを作りたい」と思ったという。1990年の湾岸戦争では、彼の会社が開発したロボットが機雷除去や災害救助に活躍し、福島原発事故後も現場に初めて入ったのは彼らの災害救助ロボットだった。だが次第に社内で「もっと身近なロボットを」との思いが膨らみ、彼は一般家庭向けの商品開発を決意する。こうして誕生したのが「ルンバ」だ。
とはいえ、わが家でルンバを動かすのは一苦労だ。床に散らばった服や雑貨を片付け、置いてあるものをどかし、椅子を浮かせ、なんとか確保したスペースに「ルンバ様」がお出ましになる。
ルンバは部屋中を自ら判断して動き回り、障害物を避け、エッジクリーニングブラシをブン回しながらゴミを吸い取っていく。まるで映画の中のドロイドが現実世界に飛び出してきたかのようだ。そんなことを思いながら、リビングの隅を丁寧に掃除するルンバをしばらく眺めていた。
自分で掃除をする必要がない。せっかくの空いた時間だと、お茶など飲んでひと息つく。気がつけば、なんだか癒されている自分がいる。何もしなくても、家事がどんどん片付いていくというのは、なんとも心地良いものだ。これが人間相手なら、「他人に任せて自分は何もしない」という罪悪感が生まれるかもしれないが、相手はルンバだ。文句も言わず、黙々と働いてくれる。
古の貴族が召使いに掃除や食事の準備を任せていたように、ルンバを使っている私は、まるで貴族のような気分を味わっているのだろうか。何もせず、ただ眺めているだけで家がきれいになっていくことに、ある種の支配欲にも似た満足感があるのかもしれない。
掃除中のルンバを時折そっと見に行く。コソコソする必要はないのだが、なぜか影から見守ってしまう。
「あああ~~~っ」
案の定障害物が多い我が家ではルンバが家具の間に挟まっていたりする。または戻るべきホームベース周りのスペースが確保できておらず、ホームベースに戻れないルンバが途中であきらめ、電源を切って止まっていたりなど意外と手間がかかる。
掃除機をかけた方が楽な気もしなくはない。だが掃除をしなくてもいいという癒し気分を味わいたいと、いそいそと床に散らばった服や雑貨を片付け、椅子を浮かせ、ルンバが動きやすいようスペースをつくる。そして稼働中のルンバの様子をそっと眺めに行っては、家具に挟まっていたり、隙間に落ち、込んでいるルンバを救出したりしている。
ふと「この感覚、どこかで味わったことがある」と思い出した。そうだ、勉強しないウチの息子の試験前と同じ感覚だ。学校の定期試験が近づいているのに、一向に勉強を始めない我が子。「勉強しなくていいの?」と問いただしても、暖簾に腕押し。やっとのことでノロノロと机に向かう姿に、やれやれとため息が出る。
子どもが勉強している間は、テスト勉強しない息子にヤキモキすることから解放される束の間の安息の時間だ。なのにわざわざ様子を見に行って、手助けする隙を伺ってしまう。
貴族が召使いに仕事をさせている際には、やらせているという感覚はないだろう。春に勝手に桜が咲くように、生きている限り酸素を吸って二酸化炭素を排出するように、何も意識しないでも部屋はきれいになり、庭園に花が咲き乱れ、出かけるときには馬車が用意されているに違いない。仕事をやってもらって癒されているうちは貴族気分とは程遠いといえる。
勉強しないし、勉強をしたらしたでツッコミどころ満載な息子も、意外と手間のかかるルンバも、そして最近では時々常識外の答えを返してくるAIも、その瞬間はイラっとしたりストレスがかかったりするが、後から思い返せば笑い話の種になる。
この先簡単な命令1つであらゆる家事をこなしてくれるロボットが開発されるかもしれない。だが完璧にスムーズな日常は、きっと記憶にも残らないだろう。全てをやってもらえる日々も良いが、引っかかりや面倒ごとが、話題を増やし後々の人生を彩ってくれる。多少引きつり笑いを浮かべながらも、そう思うのである。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00