好きな人と結婚するのではなく、結婚した人を好きになる。/恋愛×ヒトゲノム《天狼院通信》
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:三浦崇典(天狼院書店店主)
”運命の人”は本当に存在するのか?
僕は宮城の農村出身で、小さい頃から何かとペットを飼っていた。
犬、猫、ウサギと様々飼っていたが、当時は今みたいにしっかりペット管理をされていなく、散歩を人間がすることはなく、犬などは夕方などに鎖を解き放ってやり、「ご飯だよー!」と叫ぶと、ちゃんとベロを出して嬉しそうに戻ってきた。
で、時折、犬は子どもを産んだ。
生まれると、クラスの誰かが引き取った。
猫もそうだ。
猫などは鎖で繋がれることもなく、非常に悠々自適だったので、まあ、子どもを産んだ。
で、また、クラスで生まれたんですが、誰かほしいですか、というと誰かが引き取った。
思えば、うちに長らく君臨した猫のチャコも隣の家で生まれた中の一匹だった。
当時、田舎ではペットたちはみんな近隣同士で親戚だった。
いや、まあ田舎に限らず、天狼院の1店舗、雑司が谷に近い池袋でも野良猫がわんさかいて、それらもみんな親戚だろう。
基本、同じ種の動物たちの恋愛対象は、”近くに住んでいる異性”である。
それをもはや、”恋愛対象”と言っていいかも、ちょっと怪しい。
繁殖行為をした気配はあるが、恋愛をした気配は、おそらく、ない。
トレンディな要素はなく、あったとしても、生理的に受けつけるかどうかのDNA的趣向の問題だけだったろう。
僕が小さい頃はその農村では養豚も盛んで、これも不思議なことに小さな僕らからしてみれば、非常に大きく凶暴に見えるオス豚がのっしのっしと家にやってきて、メス豚に種付けするのだが、これも相性があるようではあった。
ただし、やはり、それにトレンディな要素はなかったように思う。
「何を仰る、それは動物のことでしょう」
と、多くの方が思うかも知れない。
けれども、長年の研究であながちそうではないというデータが示されている。
ヒトゲノム解析によって、我々がどこからどうやってきて、今こうして生きているかが昔よりも遥かに鮮明に分かるようになってきたのだ。
結論から言ってしまえば、”運命の人”は幻想だったという事実が浮き彫りになってくる。
ヒトゲノム解析で分かった真実—大多数は”近隣交配”だった!
ヒトゲノムが解析されるようになると、その内容から、どういう旅路を経て、我々は日本にたどり着き、日本人として生を受けたかが見えてくる。
ちょっと賢い猿人、ホモ=サピエンスとして、我々の先祖は例外なくアフリカの大地で猿人から人へと進化し、そして世界に広がっていった。
極東の日本は、その人類のはるかなる旅の中でも終盤の旅の部類で、様々なルートで日本列島にたどり着いた系統は、氷河期の終わりに世界中の海面が100メートル以上上昇し、本来大陸とほとんど陸続きに近かった日本は、海に隔てられる。今の日本列島はこうして海面上昇で誕生する。そして、ある種孤立した列島で、独自の縄文文化を花開かせる。縄文人がこうして生まれる。それが1万年ほどのユートピアを築く。その後に大陸から船でやって来る一派があり、それと時に交戦し、次第に同化する。弥生時代の幕開けで、ここでヒトゲノム的には、日本人は縄文人と渡来系を中心とした弥生人の遺伝子を受け継ぐ、二重構造となる。そして、謎が多い古墳時代に、さらに多くの渡来があって、最新のヒトゲノム研究においては、日本人はほぼ、縄文人と弥生人、そして古墳時代以降の渡来人との三重構造になっていることがわかっている。
さらに分かっているのは、地域的な特性である。
なんと、基本的には人は、近隣の人と子孫を残したことがヒトゲノム的に分かっているのだ。つまり、運命の人を探すという高次の恋愛行為はほとんどなく、近隣の最適な相手と交配して子孫を残したということだ。
しかも、現代においてもその傾向は引き継がれているというのだ。
たしかに、僕の家で言えば、父と母の出身は同じ町ではないが、近隣の市(当時は郡)であり、祖父母もそうであり、曽祖父母は、もはや隣の集落だ。親戚もそう。
”運命の人”を求めて、世界中を旅して、ようやく1人を見つけたという気配はまるでない。
そう、残念ながら、非常に俯瞰的に見ると、我々は出会いにおいては、犬や猫とさほど変わらないという結果が見て取れる。違いがあるとすれば、移動の自由から、極近所から、集落へ、郡へと広がったくらいで、大多数は県すら跨いでいない。
結局、人間なんて、紐解いていくと自分たちが思っているほど大層なものではないのだ、残念ながら。
多くがトレンディなくして、結婚しているという事実が浮き彫りにされていく。
だが、どうだろうか。
トレンディなくして結婚した人のほとんどが、恋愛感情や愛情を抱かなかったと言えば、決してそうではない。
ドーパミン的な刺激の高い娯楽的な恋愛を経ずして、あるいは、それがそれほどロミオとジュリエット的でなかったとしても、多くの彼ら彼女らはお互い強く惹かれ合い、好きであったと見て、ほぼ間違いない。
では、なぜ、ドーパミン的初期の恋愛ブーストなくして、人はお互いを好きになれるのだろうか?
実はその理由は単純明快である。
好きな人と結婚するのではなく、結婚した人を好きになった。
結婚は始点に過ぎない。
そこを始まりとして、夫婦は様々なライフイベントをともに経験する。
結婚、妊娠、出産、子育て、など主要なライフイベントの他に日常的な生活の中の娯楽をともに経験し、同時に小さな病気を克服し、近しい人の死をともに乗り越え、苦境も一緒に乗り越える。
その過程で、育まれる相手に対する感情は、もはや、単純な好きではない何かだろう。
世界的な用語で近しい言葉を探すとなると、愛や愛情という表現が近いだろう。
つまり、たとえ、ドーパミン的初期の恋愛ブーストがなかったとしても、多くの夫婦は生きていく中で、相手を好きになり、愛情を抱いていくようになる。
ゆえに、何も好きな人と結婚しなくてもいいのだ。
結婚した人を好きになればいい。
そのほうが、マーケティング的なコンバージョンのしやすさから見ても合理的だし、人類のヒトゲノム解析から見える結果と照らし合わせても、非常に合理的である。
卑近な例であるが、お見合い結婚した祖父母は、祖父95歳、祖母93歳で先日、祖母が心臓の手術を受けたのを機に自分たちが住み慣れた町の、同じ老人ホームに入った。
心臓の手術と言っても、ちょっと年相応に心臓が弱ってきたためにペースメーカーを入れただけだ。
けれども、あの頑強に見える祖父が、退院して戻ってきた祖母を見ると、涙を流して、
「良がったな、本当に良がった」
と体を擦るようにして抱き寄せたという。
2人は結婚して、実に、70年以上。
そして、そうして好きになった人を、運命の人だったと後年結論づけて、何が悪いというのだろうか。
▪️ライタープロフィール
三浦崇典 | Takanori Miura
BOOKLove結婚相談所仲人総取締役株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。株式会社インパルス代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。ビデオグラファー。AIパイロット養成講座主宰。
2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』、2021年3月、『1シート・マーケティング』(ポプラ社)、2022年1月、『駆け出しクリエイターのための時間術』(玄光社)を出版。
2025年4月、IBJと正式契約、BOOKLove結婚相談所開設、BOOKLove結婚相談所仲人総取締役に就任。
2009年4月1日に、「株式会社東京プライズエージェンシー」を設立登記し、その後、編集協力や著者エージェント、版元営業のコンサルティング業等を経て、2013年9月26日に「READING LIFEの提供」をコンセプトにした次世代型書店(新刊書店)「天狼院書店」を東京池袋にオープン。今は全国に店舗とサービスを広げている。現在の旗艦店は渋谷宮下パークの天狼院カフェSHIBUYAである。
長年にわたり雑誌『週刊ダイヤモンド』、『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。【メディア出演】(一部抜粋)
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。大小合わせて400回以上メディアに登場。
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