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あなたは抜け毛を愛せますか?


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記事:星空志音(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「あなたは抜け毛が好きですか?」
そんなこと言われて好きだという人がどこにいるでしょうか。抜け毛が愛おしくてしょうがないなんて人がいたら、出会ってみたいです。
「いや、別に嫌じゃないし。抜け毛だって大切に思えるよ」という方がもしいらっしゃったら、今すぐ抜け毛の愛し方を私に教えてください。
これまで私は抜け毛に翻弄されて生きてきたのですから。
 
 
私は、直毛の母とくせ毛の父の間に産まれました。
授業参観で並ぶ母親たちの多くがパーマをかけたり短くまとめていたりする中、私の母はいくつになってもサラサラのストレートヘアで、それが子供心に自慢でした。私も歳を重ねてわかるのですが、髪が傷んだり薄くなったりしていることをカバーするためパーマをかける方、家事の邪魔にならないように短くする方が多くなるのだと思います。まっすぐな髪が若さや美しさの象徴だという概念は、いつの間にか染み付いていました。
かたや父は強烈な天然パーマでした。そのうえ薄毛で、部屋に落ちたウネウネの抜け毛を見る度に、私にとっての美しさの概念はますます凝り固まっていきました。
 
そんな両親の血を引いた私はというと、幼い頃は母譲りのストレートヘアでした。今でも七五三の写真を見てこんな頃もあったのかと他人を見るような目で見てしまいます。思春期に入りいよいよ父の血が影響し始めてきたのです。前髪が前後ではなく左右にカールしてしまい「クワガタみたいだ!」といじめられ、それが嫌でうねった髪を見つける度に抜いてしまう癖ができてしまいました。「この変な髪さえなくなればいじめられなくなる」そう思った私はしまいに抜くことが快感になっていました。
 
今となってはとても後悔しています。抜けば抜くほど毛根が痛み、より癖の強い髪が生えて来るのでしょう。よく抜いていた部分だけがあからさまに強いくせ毛で、それ以外の部分が意外にまっすぐな現実を見ると、悪化させたのは両親からの遺伝ではなく自分自身であったことが数十年後に証明される結果になってしまいました。
 
実は今でもその癖を完全に止めることができないでいます。うねった髪はみっともない私の象徴。美容院では毎回縮毛矯正をし、一時的に憧れのストレートヘアにしていますが、しばらくすれば本来の姿がぴょっこりと顔を出す。それは隠しても隠しても出てくる認めたくない自分のようで、目の前から居なくさせることで一時の快感を得る。でもすぐに後悔が襲う。その繰り返しです。これで薄毛になったとしても、価値のない自分にはそれが相応しいいのだと、しまいには自身に罰を与える行為になっていました。
 
 
そんな髪をいじめてしまった私が言うとおかしいかもしれませんが、だからこそなんとか取り戻したくて髪を大切にしようともしてきました。
きっと多くの人にとっても髪の毛はとても大切な存在なのではないでしょうか?
シャンプーにこだわったり、抜け毛対策をしたり、カラーリングやヘアアレンジなど、自分を素敵に見せるため大切に扱う特別な存在だと思います。そのために多くの手間やお金をかける人も多いでしょう。
一本でも抜けないように丁寧に取り扱い、あんなに毎日時間をかけ洗ったり整えたりしてきたのに、髪の毛って抜けた途端汚いものに変わってしまいますよね。ついさっきまであんなに大切にしていたのに。よくチヤホヤされていた有名人が急に手の平返したように批判されているのを見て、なんて非情なんだと思っていましたが、よく考えたら、髪の毛に対してもなかなかの手の平返しをしていたなと。
 
結局人は、自分にとって必要で得があるものは大切にするけど、不要で得がないと感じれば大事にしないのだと思います。本当は損得で判断はしたくない。でも現実は自分に得がなければ、とても身近なものでさえ愛することは難しいのだと思います。
ついさっきまで自分を着飾ってくれていたものでさえ愛せないのです。他人やよその国を愛するなんて出来なくて当たり前だと思うのです。
 
思えばストレートヘアのように最初から最後まで一切の歪みもない人なんていない。自分の望み通りまっすぐでいてくれたらなんて、自分に求めるのも他人に求めるのも無理難題だ。それなのに歪みを取り除こうと足掻いて足掻いて……。だから息苦しかったのか! 
 
「みんな歪んでバラバラで当たり前なんだぜ。無理矢理取り除こうだなんて痛いじゃないか。勘弁してくれよ!」
うねった抜け毛が私に話しかけてくる。
 
もし負の象徴だった抜け毛が愛せるようになれたら、歪みばかりの自分も他人も世の中も少しは愛せるようになるかもしれない。
そして不要になった途端手の平を返したようになってしまう。これを変えることができたら世の中も変わるかもしれない。
 
今までマイナスな感情しか生み出さなかった抜け毛を見て、こんな前向きなことを思っているなんて。初めて抜け毛に感謝した。
 
あっ、もしかして今、私、抜け毛を愛せたのかもしれない……。
 
 
 
 
***

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2025-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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