アラエイティ、人生の目覚まし時計はある日突然に
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森 昭子(ライティング・ゼミ5月コース)
私の両親はアラウンド80歳。四国・高松の小さな町で約40年、フランチャイズのパン屋を営んでいます。私が中学生の時に、父が精神的に会社に行けなくなったのを機に脱サラして始めたお店です。
こぢんまりとしたお店で、お客さんは1日に10人いるかいないか。そんな客数ではとてもやっていけないけれど、認知症の予防のためにやっているようなものよーと母は常々言っていました。
でも、去年あたりから、母の様子がどこかおかしかったんです。
たまに電話をかけても、口数が少なくて元気がない。
「息はしてるけど、なーんにもしたくない」が口癖になり、話も弾まず。
……まさに、“どよ〜〜ん”
もう歳だし、体の具合が悪いんじゃないか、って思いつつも私も自分の生活で手一杯で、なかなか連絡できず。
ところが、この春、久しぶりに帰省してみたら!
えっ!?
あのどよ〜〜んの母が、シャキシャキ動いているではありませんか!
声も明るいし、顔色も良い。
なにこの変化!? 何があったの? 何食べたの?
「……実はね。少し前に、お店が営業停止になったのよ」
えーーーーっ!!!
マジで!?
パン屋40年の歴史で初めての汚点……。
聞けば、ある日突然、保健所の抜き打ちの食品検査があったそうです。
えっ? 抜き打ち? そんなのあるの!?
——あるんです。食品を扱うお店には、年に数回、予告なしのチェックが入ることが。
で、うちの店。サンドイッチだけは自家製で、開店当初から、母が毎朝マニュアル通りに作っています。
そのサンドイッチ、それが……、
「大腸菌が検出されました」の通知。
なんで〜〜!?
だって、フランチャイズメーカーの自主検査は毎月合格だったそうなんです。
焦った母は、丁寧に丁寧にサンドイッチを作ってもう一度検査へ。さすがにサンドイッチを最後にビニールの袋に詰める時には、手が震えたそうです。
結果は——
またもや「大腸菌が検出されました」
えーーーっ!!! なんで、なんで、なんでーーー!?!?
母はもう完全にパニック、崖っぷち。もう後がない、深い深いマリアナ海溝に突き落とされた気分だったに違いありません。
でも、だからこそ決断したそうです。
「コレだ! 冷蔵庫だ!」
「冷蔵庫が古すぎてダメなんだ!」
母は業務用冷蔵庫を、思い切って買い替えました。
アラエイティなのに、あと生きている間にどれだけ使えるかも計算せずに、どーんと新しいのを買っちまいました。新品ピカピカの業務用冷蔵庫。
そして、丁寧に丁寧にサンドイッチを作って再々検査へ。
で、やっと。
やっと……!
「合格、出ました〜〜!!」
この間の営業停止期間は、約1ヶ月。母はここで完全に蘇りました。
毎朝4時に起きて、文句を言いながらやっていたパン屋の仕事。「お客さん来ないし」「やる気出ないし」と、ぼやいていた日々。
でも、それが突然なくなってしまった時、ぽっかり穴が空いたようで、何かが物足りなくなったそうです。
そして、営業が再開された日、
「やっぱりね、仕事があるって有り難いわー!」と心底思ったそうです。
えーっ、あんなに嫌がっていたのに!?
でも、わかります。
何かやれることがあることが、元気の素なんですよね。
私が帰省できたのも、そのタイミングでした。
「元気になったから帰ってきてもいいよ」と言われて。
母が元気になったので父も元気になり、久しぶりに家族3人で笑い合いました。
昔話や親戚の噂話に花が咲き、時間がゆっくり流れていきました。
しかも!
お店は、自分たちアラエイティに合った形に進化していたんです。
朝4時に起きて、サンドイッチを作り、パンを少し焼いて6時に開店。常連のお客様が来ると
9時にはだいたい仕事がおわり、お店にはほとんどパンがない。だから、お客様もこない。
??? ですよね。
むしろ、お客様がいらっしゃると困る、みたいな。
9時からは休憩時間。ゆっくり寝ているのです。
そして、午後からは翌日出荷するパンの下ごしらえとサンドイッチの準備に動き出します。
アラエイティの田舎のフランチャイズパン屋は、店頭販売をほぼあきらめ、近所にオープンした地域の特産品を販売するお店にパンを出荷するという、お店は開けていてもほとんど製造業のみ。
大型スーパーに馴染めないお年寄りの話し相手としてお店を開け、地域に貢献。
特産品販売のお店では、同じ町のほかのパン屋さんも出荷されていて、軽く競争もあります。
夕方、母は売れ残ったパンを引き取りにいくのですが、今日は「何個売れたかな」とドキドキ。それはそれは緊張の瞬間でけっこう刺激になるようです。
母は言っていました。
「もう年だからと思って、定休日を毎週きちんととって休むようにしたら、なんだか全部がだるくなったのよね〜」
わぁ〜〜どうしましょ!?
という血圧上昇、心臓バクバク、冷や汗だーっ、などのストレス反応は、
長く続けばバランスを崩しますが、全くなくても道を見失ってしまいます。
だから、大事なのは——バランス。
がんばりすぎない、休みすぎない。。
何かに追われるようにでもなく、ただ何もしないわけでもなく。
自分にとってちょうどいいリズムで、生きること。
どんなにネガティブなことでも目の前に起きることは必要なことしか起こらない
アラエイティでも、変われる。
「ありのまま」に、もう一度目を覚ますことができる。
営業停止というまさかの出来事は、母にとって、まさに人生の目覚まし時計でした。
***
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