メディアグランプリ

あふれたコップは私を幸せにした


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:星空志音(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「あぁ、容量がもっと大きければなぁ……」
よく考えればいつもそんなことを考えている気がする。私たちはいつだって容量に囚われている。いつの間にか容量にコントロールされている。「大は小を兼ねる」という言葉の通り、大きいは正義だ。そう信じて疑わなかったのに、容量が小さいことに感謝する日が来るなんて。
「あふれてくれてありがとう」
そう呟きながら小さなコップを眺める私は、ことのほか幸せな顔をしていた。
 
 
スマホ・ブルーレイレコーダー・部屋・バッグ……。
情けないことにいつだってパンパンだ。
スマホは容量の限界で、写真を撮ろうとしても起動せず、挙動がおかしくなることが日常茶飯事だ。
ブルーレイレコーダーもいつだって空きがない。そのくせ撮りたい番組は次から次へとあるものだから、仕事かよとツッコミたくなるくらい、時間に追われながら容量空けに勤しむ。自動的に番組を残しておいてくれる便利機能も約一週間で効力がなくなるので、消える前にダビングしなければならない。
いつだって自転車操業。ギリギリでも間に合えば思わずガッツポーズし、タッチの差で消えてしまえば「あー、あとちょっとだったのに!」と口に出る。常にゆとりを持ち自己管理ができている人からしたら、そんな姿はさぞ滑稽なことだろう。
 
 
捨てることが苦手で何でも溜め込む性格の私は、心も常にパンパンだ。
心のコップは常に容量ギリギリまで注がれ、こぼさないようにといつだって必死である。あふれたら自分が壊れてしまう。
何とか減らそうと思っても常に付きまとっていたもの、それは人間関係の悩みだった。仲間に入れてもらえず無視や陰口を叩かれ、その人達のことが心の大半を占めるようになった。どうにか改善しようと四六時中考えるも、状況が変わることはなかった。何をするにも頭をもたげ、したいことがあってもその人達の目を恐れて萎縮して諦めてしまうほど心を侵食していた。
 
 
その状況の打開策が見つからないまま、私は新たな悩みを抱えることになった。
それは天狼院書店との出会いだった。
「ライティング・ゼミに挑戦してみませんか?」
ある作家さんのトークイベントに来ただけのつもりだった。どうやったら本を書けるのか受動的に話を聞くだけでいいと思っていたら、気がつくと書くことへ能動的に挑戦する側へと変わっていた。
私の書いた文章がこうして天狼院のサイトに掲載され世に出るなんて。まして本を作ることを目指すなんて。全くもって考えてもみなかった。大きすぎる挑戦に心のコップはすぐに一杯になった。
 
 
人間関係の悩みですでに一杯だったコップに、新たな悩みを注ぐなんて。優柔不断で臆病な私は随分と悩んだ。言い訳をつけて逃げることはいくらでもできそうだった。それでも挑戦することに決めたのは、同じ悩みでも自分の未来を作るプラスな悩みだと思ったからだ。
人間関係の悩みは、残念ながら悩んだところで相手が変わってくれることはほぼない。悩めば悩むほどマイナスになる悩みだった。
どうせ悩むのならプラスになることで悩もう。そう吹っ切れた私はコップに新しい悩みをドッと注いだ。今までコップからこぼれることを常に恐れていたというのに。
 
今は幸いにも毎週執筆に明け暮れる日々だ。頭の中が書くことでいつも一杯だ。気がつけば人間関係の悩みは新たな悩みに押し出され、心のコップからあふれていた。
もちろん完全に消え去ったわけではない。ふとした時に姿を現してはしたり顔をしてくるが、以前のように四六時中囚われることはなくなった。新たな悩みのおかげで、悩む暇がなくなった。人の目を気にして諦めていたこともあったというのに、人の目も気にする暇がなくなってしまった。
 
 
人は持てる量に限界がある。良くも悪くも。一日は24時間、寿命は約80年。出来ることは限られるから、山ほどある中から取捨選択していく必要がある。
自分という器に少しでも良いことを入れたくて、私たちは日々一部を諦めながらも最良のものをと選んで器に入れる。
では悪いことはどうか? 
悪いことは無限に増えていくイメージがあるが、もしかしたら悪いことも良いことと一緒で入れられる量に限界があるのではないだろうか。尽きない悩みだって器に入れられる量に限界があるのではないか? 
アクが鍋から吹きこぼれるイメージ。今ある悩みの上に新たな悩みを注ぐと、優先順位的に自分にとって悩むべき悩みが残り、そうでない悩みの方が出ていく。そして上書き保存されたらしめたもの。「悩み上書き保存作戦」だ。可能なら出来るだけ自分のためになる前向きな悩みを入れること。
 
歳を重ね、以前より記憶力もなくなり、心の容量もなくなったことが悲しかった。
記憶力が衰えるのが嫌だったけれど、忘れる力もいいものだと思った。自分の器の小ささが嫌だったけれど、初めて小さくて良かったと思った。小さい方がふきこぼれやすいから。
こぼさないことより、こぼす内容が肝心だった。
失敗を恐れてこぼさないようにと生きてきたが、こぼしたっていい。
小さなコップだっていい。
 
「私のずっと囚われていた悩みを追い出してくれてありがとう」
心の容量って狭くてもいいことがあるんだって、小さなコップからあふれる様を眺めながら呟いた。
 
 
 
 
***

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2025-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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