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メダカの飼育を通して

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井口敦子(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
昨年の夏、知り合いから「飼っていたメダカが孵化したから」とペットボトルに入ったメダカの稚魚をもらった。突然のことで、全く生き物を飼う気がなかった私は驚いたが、メダカなら……と思って飼ってみることにした。
 
水槽は準備してくれたので、砂利やポンプ・ふんの処理をしてくれる小エビなども揃えて飼うことにした。メダカがかわいく思えて楽しくなっていった。
ところが仕事が終わって帰ってくると、一匹、また一匹と死んでいることが続いた。どうやら、光がないと生きていけないということがわかった。日中は留守にするので、室内が暗くなっていたのだ。
翌日は、日光が少し当たるようベランダの片隅に出して仕事に行った。帰ってくると、水温が高くなってしまったようで、水槽内の生き物がすべて死んでいた。
ショックだった。
あんなに元気だったメダカもエビも、タニシもみんな茹で上がってしまったかのように死んでいた。水槽でも熱中症になるのか……。猛暑・猛暑・猛暑……。どんな環境がメダカにいいのかよくわからなくなった。でも、もう一度飼ってみようよと知り合いに言われ、今度は室内の窓側に水槽を置いて、光が入るようにして育てた。思いのほかうまくいった。
 
たまたま街で、発泡スチロールにメダカを入れて玄関先に置いてある家を見かけた。飾り気のない発泡スチロールだが、温度変化に強く、メダカは元気そうでなんとなく気になった。火鉢などで飼っている家も見たことがあるが、私の住まいで火鉢は置けそうにない。
室内の小さな水槽で飼うより、もっと自然に近い状態で飼った方がメダカにはいいのではないか、そんな気がして、私は近所のスーパーで発泡スチロールをもらってきて、ベランダに置き、メダカを入れた。一匹、周りを追いかけまわすメダカが気になったので、それだけ別の発泡スチロールに入れ、2つ置くことにした。水の量だけ気にしながら、半ば放っておくような形になった。コケや藻が生えてきたが、ある程度そのままにしていた。死んだメダカが浮いていれば片付け、そのまま冬を迎えた。
もうどうなっているか、正直、私にとってはあまり関心がなくなっていった。自分や家族のことが忙しくて、ただ置かれている存在になっていった。
 
春先になったころ、メダカが泳いでいるのが見えた。
生きている!
嬉しかった。暖かくなってきたので、エサも食べるだろうとあげ始めた。結局、その発泡スチロールには3匹メダカがいることが分かった。そして、もう一つの一匹も元気だった。さらにエビも4匹全て生きていることがわかった。
越冬したんだ……すごーい!
この飼い方が間違いではないことが証明されたような気がした。
私、やったじゃん!
 
ある時、一匹の方のメダカのお尻に卵がついていることに気付いた。
一匹しかいないのに、産卵するの?
アクアリウム専門のお店に聞いてみた。「オスがいれば、刺激されて産み付けるかもしれないよ。でも、そのままだとお腹に卵を抱えたままで出詰まりになって、調子が悪くなるかもしれない」と言われた。オスを買って入れることも考えたが、私はもう一つの発泡スチロールのメダカを一匹入れてみた。やはり縄張りを気にしてなのか、新たな一匹を追いかけまわしている。
良くないよね……
ならば、思い切ってみんな一緒にしてみてはどうか。一匹だけというのもどうなのか。
一つの発泡スチロールにすべての生き物をまとめてみることにした。問題なく4匹、泳いでいるではないか。エビも元気そうにしている。
そして、気が付くと入れておいたほてい草に卵を産みつけていたのだ。
産卵しているよ!
産卵された卵は別の発泡スチロールに入れておくことにした。毎朝、卵が産みつけられるようになった。卵を入れた発泡スチロールには稚魚がたくさん泳いでいる。想像以上に何十匹いや100匹以上いるかもしれない。
メダカのふ化に成功!!
 
いやいや、こんな展開を望んでいたわけではない。でも、どこかやり遂げている感がある。毎朝、起床すると窓を開けて、まずはメダカに餌をあげる。なんだか、この感じが心地よい。
メダカの飼育も悪くないかもしれない。
 
今まで一匹だけ別にしていたけれど、結局は一緒にして正解だった。
一匹だけ別にしていたせいか、ほかのより少し大きい。特別扱いなんてする必要なかったのかもしれない。
一緒にしたことで、全てが丸く収まったような気がした。
 
なにか自分の中で感じるものがあった。どこかほっとしたような感覚だった。これはたかだかメダカの話なのだが、私の中での感覚はもっと大きかった。今までどこか遠回りしていたものに気付けたような安堵感。実は大したことなかったこと、それなのに自分は気にしていたこと、それがふとしたきっかけでおさまったということ。
なぜ私はこのことでこんなにもホッとしたのだろうか。気になってしばらく考えている自分がいた。
もしかしたら、これはどこか今の自分の伏線になっているのではないかと思う。どこか自分の人生の中で丸く収まらなかった経験、成し遂げられなかった感覚と重なったのではないか。自分は成し遂げられなかったけれど、でも、自分がメダカに施すことができたことである意味、私の中のなにか未解決の問題が間接的に癒されたのかもしれない。想像でしかないし、まだ深い考察には至っていないがそんな気がした。
 
稚魚はこのまますべて育つわけではないだろうけれど、成長が楽しみでもある。
メダカを飼うことは初めてのことだった。四苦八苦しながらも、もうすぐ1年になる。
 
でも、私には引っ越しが控えている。メダカを飼える環境に引っ越せるか、まだわからない。
そんな不安を抱えながらも、なんとかなるだろうと思う自分がいる。
 
 
 
 
***

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2025-06-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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