17歳の春。入院と失恋でオセロが真っ黒だった私が、人生ホワイトになるなんて想像もしなかった話
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記事:前田 さやか(ライティング・ゼミ3月コース)
私の人生は、まるでオセロだ。
あるとき突然、黒だった面が白に変わる。しかも黒があったからこそ、白が輝いて見える。そんな一発逆転の瞬間が、私の人生にはあった。
それは、高校三年の春。
まだクラス替えしたばかりの頃だ。
慣れない友達と授業を受ける日々が始まった。県立の進学校に通っていた私は、進路を決めかねていた。医師の父の影響で「医学部」という選択肢は意識していたが、本気で目指す決心はまだなかった。
ある日塾が終わり、家にたどり着く。
遅い夕飯を食べようと椅子に座ったが、全く食欲がなかった。
食欲旺盛すぎた私の高校時代だ。食べられないなんて、考えられない。
でもなんだか辛くて、座っているのもやっとだった。
「ごめん、食べられない」
「じゃいいよ、残して」
母は、心配そうに返事をした。
部屋に戻り、どうにも座っていられず、ベッドで横になる。しかししばらくすると、寒気と背中の痛みが襲ってきた。今までに経験したことのない症状だった。熱を測ると38度くらいまで上がっていた。
その晩私は辛すぎて、一睡もできなかった。
翌朝、父が部屋にきた。
「後で、お母さんとS病院に来て。採血するから」
私は言われるまま、フラフラの体で車に乗った。
「辛そうだから、シートを倒したら?」
「うん」
道中は母と会話もなく、父の勤務先のS病院へ向かった。
「まず、お熱を測ってください」
外来で看護師さんから体温計を受け取る。
脇から取り出すと“39.2”と表示された。
「大丈夫ですか?」
「いや……」
まともな言葉すら出ない。
「ではこちらへ。採血しますね」
もろもろ検査を終えると、倒れ込むように車に乗り込み帰宅をした。
その夜、父が帰宅すると私にこう告げた。
「明日、S病院に入院しよう。急性肝炎だよ」
突然の話に動転した。
え? 入院?
クラス替え直後で、やっと友達ができてきたタイミングだったのに。
友達に会えなくなる。
勉強はどうしたらいいの?
不安が頭をよぎった。
この時から、私のオセロの面はどんどん黒になり始めた。
翌日、私は入院した。点滴の日々が始まった。
ベッドに横たわりながら、私は何も考えられず、ただ天井を見つめるばかりの時間が続く。
入院中辛かったのは、とにかく食事の時間だった。
「さやかさん。ご飯ですよ」
「ありがとうございます」
テーブルに、笑顔で看護師さんが届けてくれる食事。最初の1週間は見るのも匂いを嗅ぐのも辛かった。一口、二口食べて箸を置いて、布団にもぐり込んでいた。
けれど点滴と安静のおかげで、1週間ほどして熱は下がっていった。病院食も少しずつ食べられるようになっていった。
体が元気になるにつれ、心が寂しくなり出した。
「面会謝絶」と書かれたプレートを眺めながら、友達と話したくてたまらなかった。
2週間が過ぎた頃だ。
父が部屋に来てつぶやいた。
「そろそろ、お見舞いOKにしてもいいかもなぁ」
私はすぐに友達に連絡をした。
クラスメートや部活仲間が、次々にお見舞いに来てくれた。病室に響く友達の笑い声。学校で起きた面白い話。学校の一コマが戻ってきた感じだった。
実は入院していた病院が、学校で気になっていたBくんの家の近くだった。思い切って、彼にメールを送ってみた。
「実は、S病院に入院してるの」
「え、近いよ! お見舞い行こうかな」
「ほんと!? うれしい!」
彼は本当に来てくれた。
病室で少し話をして、彼は笑顔で手を振りながら帰っていった。
その夜私は、好きな音楽を聴きながら、心の中でひそかに小躍りしていた。
体が少しずつ元気になるほど、思うことがあった。
「元気になれるほど、嬉しい人生のギフトはないかも」と。
素敵な誕生日プレゼントをもらう感覚とも、どこか違う喜びがあった。
熱で何もできなかった私が、元気に動けるようになったのだ。
食欲がなかった私が、美味しいと感じられるようになったのだ。入院前は当たり前にできていたことに、日々感動を覚えた。
すると自然と進路が見えてきた。
「病気で苦しんでる人を、元気にしたい。こんなに嬉しいことはない」
そう思ったとき、心が決まった。
「よし、医学部を目指そう!」
遅れを取り戻そうと、病室で少し勉強を再開した。
3週間の入院を経て、私は晴れて退院した。
いつもの日常が戻ってきた。
が、人生はそう甘くなかった。
忘れもしない出来事だ。
退院後初めて受けた体育の授業だった。
女子たちのコソコソ話が、偶然耳に入ってくる。
「Bくん、彼女できたんだって!」
「ええ!? そうなの! あの2人付き合ってるの?」
私は耳を疑った。
「いや、私、お見舞いしてもらったよね? Bくんって彼女いたんだ」
崖から突き落とされたような気持ちだった。
しばらく放心状態。
私のオセロの面が、また黒になっていった。
でも、その瞬間だ。私の心が動いたのだ。
「もう、Bくんのことは忘れよう。私はやることがある」
彼が悪かったわけじゃない。ただ、私が勝手に舞い上がっていただけ。
お見舞いに来てくれたこと、それ自体が嬉しかった。それで十分だったのだ。
Bくんとの思い出は、心の棚にしまった。
その日を境に、私は勉強へ全力を注ぐ毎日が始まった。
病気になったこと。元気を取り戻せたこと。
それを通じて私は、「医師になりたい」という明確な目標を得たのだ。
「今頑張らないわけにはいかない!」
私は自分を奮い立たせた。
そして猛勉強の末、現役合格を勝ち取った。
オセロの石がひとつ黒から白へ変わっていく瞬間だった。
その後私は、無事に医師になることができた。
研修先では良い出会いもあった。現在の夫となる優しい指導医と、偶然出会うことができた。石がまた白に変わっていったのだ。
人生は、やっぱりオセロだと思う。
入院と失恋で黒だった面が、確かに白へと変わった。
辛いこと、どうしようもないことは起こる。
それでも、次の一手でガラッと状況が変わるものだ。
今、もし人生のオセロが真っ黒に見えている人がいたら、私は伝えたい。
あなたの石も、きっとどこかで白に変わる瞬間がくる。
“あの時の自分”があるから、”今の自分”がいると思える日がくるはず。
だから、大丈夫!
だって、人生はオセロみたいなのだから。
***
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