気づくといつも川のそばに住んでいる
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:及川佳織(ライティング・ゼミ 3月コース)
新しい仕事のため、4月に引っ越しをした。一時的な仕事なので1年半ほどしか住まないのだが、職場に近いという理由だけで選んだマンションの目の前には川が流れていた。一級河川の上流で、川岸にウッドデッキが設置されている。天気がいいと、お花見をする人やバーベキューをする人がいる。
近くのスーパーに行こうと川沿いを歩きながら、楽しそうな人々を眺め、そういえば、いつも川のそばに住んでいるなあと思った。
実家のすぐそばには二級河川が流れていた。当時はまだ整備が進んでおらず、大きな台風が来ると洪水になったのを覚えている。
数年前まで住んでいた札幌では、歩いて10分ほどのところに豊平川があった。川幅が広く、ゆったりと流れる様子が美しく、川に手を浸せるくらい近くまで下りることができるので、気持ちよくて暇さえあればウォーキングに行った。
冬の間は行くことはないが、春になると雪解けで水かさが増し、勢いよく流れる様子が豪快で、よく見に行った。夏はにぎやかで、部活で走っている高校生や大学生がたくさんいたし、北海道マラソンの前日に調整のため走っている選手を見かけたこともある。秋は少しずつ冷たくなる風を受け、色が変わっていく山を眺めながら歩いた。
今日はあの橋まで、次の日は次の橋まで、今日は下流へ、次の日は上流へ、今日はこちらの右岸を、次の日は左岸を、ただ川岸を歩くだけでも様々なコースを設定して、違う景色を楽しむことができた川だった。
しかし私にとって、川と言えば多摩川である。実家からも遠くなく、札幌時代を除けば、基本的に多摩川の近くに住んでいる。
多摩川は有名ではあるが、あまり良く語られることがない気がする。その最大の原因は、1974年のできごとだろう。大型台風による増水で堤防が決壊し、民家19軒が流出した。家が流されていく様子をニュースで見ながら、うちはどうなるんだろうと恐ろしかったことを覚えている。
後にその災害を題材にした『岸辺のアルバム』というテレビドラマが放送された。大きな反響があったから、知っている人も多いし、多摩川は危ないというイメージがあのドラマで出来上がってしまった気がする。実際に多摩川沿いから引っ越した人も多かったと聞く。対策は取られているに違いないが、その後も多摩川は時々増水し、家屋が浸水したりしている。
実際、多摩川に限らず川は危ないものだと思うが、川から離れようと思ったことはない。反対に、川のそばに住みたいと思ったこともないのだが、気づくといつも川のそばにいる。いったいどういうことなのか、考えてみた。
真っ先に考えつくのは、日本には川が多いということだ。気になって国土交通省のサイトで調べてみたら、一級河川13,994、二級河川7,090、準用河川14,314あるそうだ。日本中、川だらけだ。だから、どこに住んでも川があるというのは不思議ではない。
それから考えたのは、私が何か「川」という存在に引きつけられているのではないかということである。
川というのは「境界」だ。あの世とこの世を分ける。多摩川であれば、東京と神奈川を分ける。区切りとか、けじめとか、何かそういう意味を私は川に見出していて、近くにある川を意識しているのかもしれない。
また、川は「無常」だ。流れ、変化し、決して同じ姿にはならない。同様に、時間を止めることはできないし、どんな瞬間も同じではない。私は、それを美しいとも悲しいとも思うし、大切な一瞬を心に残したいと思う。時間は流れ、世の中は変わっていく。その中で大切な一瞬を見つけるためには、自分自身が何を大切だと思うのかがわかっていないといけない。
川岸に立ち、流れていく水を見ることは、流れていく時間を感じることだ。そこにいると、自分は何を感じているのか、何を自分のものにしたいのかを否応なく考えさせられる気がする。だから私は川のそばに行き、流れを眺めるのかもしれない。
それとも、もしかして「川のそばに行け」と命じる何かの力があるのだろうか。実は父の実家の近くにも大きな川があり、父方の先祖は代々、その土地に住んでいた。だから「川の近くにいたい」というDNAが私の中に受け継がれていて、そのDNAが川のそばの家を探し当てるのだろうか。
私は、そういう現実的でない話を信じない人間である。きっと、引っ越すたびに川があるのは「日本が川だらけ」だということと、あとは偶然の産物だろう。
とはいえ、川のそばにいることに意味を感じているのも事実だ。川という境界を前にして、向こう側の「あそこ」ではなく、今いる「ここ」を再確認する。流れる水を見て、しっかり自分の足で立つこと、流されない自分の気持ちを再確認する。
これが私にとっての川だ。そうやって、これからも川のそばで暮らしていくと思う。
***
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