本気で結婚するならシェアハウスに住め
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:塩田健詞(ライティング・ゼミ5月コース)
「先程エージェントに塩田さんとの交際中止を申し込みました。あなたとの将来を考えていくことに不安が大きすぎます」
メッセージに書かれた一文を見て、力を失った。
28歳を迎える年。今年こそ結婚したいと思い、「良い人を見つけてやる!」と、新年早々に啖呵を切った。
写真館でプロフィール写真を撮り、役所で独身証明書を発行する。婚活エージェントに登録し、担当者と戦略を練る。プロフィールを整え、紹介された方と順番に会っていく。
「絵文字ゼロは“塩対応?”と不安になる」
「『運命感じた』と3回目くらいから思いがち」
そんな“婚活あるある”を、私もすべて経験した。週に3人の方と会うペースは、思った以上に苛酷だった。
3週間ほどそんな生活を続けた頃、自分と気が合う方に出会った。何度かデートを重ね、互いの価値観を確かめ合う時間が続いた。「このまま結婚まで行けるのではないか」
そんな淡い期待を抱き始めた矢先。あの一通のメッセージが、すべてを崩れさせたのだった。
婚活エージェントと、その方とのやり取りについて詳細に話した。
「これで気を落とさないでください。相手は、もっと自立した人を望んでいたのですよ。塩田さんには、もっといい人が現れますから」
営業スマイルで励まされても、心は晴れなかった。
もう、婚活エージェントの“スピード感”に巻き込まれるパートナー探しには、こりごりだった。私は、活動の休会を申し出た。
「結婚を前提にするにしても、まずは恋愛期間を経て、自分自身を知ってもらいたい」
そんな思いから、婚活エージェントではなく、マッチングアプリに切り替えることにした。
メッセージで自分の魅力を伝えるのが苦手だった私は、友人に勧められて「食事から始めるマッチングアプリ」を使い始めた。これが、意外にも自分に合っていた。
対面で相手の話を聞きながら、表情やしぐさ、雰囲気など――
メッセージだけでは伝えられない“非言語のコミュニケーション”が功を奏し、何人かの方とデートを重ねることができた。
ただ、ひとつ問題があった。アプリが提案する飲食店が、どれも私の家から遠すぎたのだ。
恵比寿、中目黒、広尾……。こんな街に、自分には縁がない。
「電車で往復2時間かけて相手を探す生活って、どうなんだろう……」
そう思いながらも、なかなか立ち止まることができなかった。
ふと、年始に誓った言葉を思い出した。
「良い人を見つけてやる!」と、あれほど意気込んだのだ。
自立した人を、相手は望んでいた。
そして、そういう人たちは“山手”での出会いを当たり前のようにしている。
そうか。私は、まず“一人暮らし”を始めよう。
でも、結婚を目指しているのに、家具や家電を一式そろえるのは馬鹿らしい。
悩んだ末に、ひとつのアイデアが浮かんだ。
「そうだ。シェアハウスに住もう」
品川でシェアハウスに住んでいる友人に連絡を取り、私はすぐに内見を申し込んだ。そして、荷物をまとめ、人生初の“一人暮らし”へと踏み出した。ただし、それは完全な一人暮らしではなかった。選んだのは、男女共同のシェアハウスだった。
住み始めて、たった1週間。すでに驚くことばかりだった。
流しに放置された、ご飯茶碗。食べ終わっているのに、なぜ洗わない?
実家暮らしの頃から、家事全般はそれなりにこなしてきた。最低限の“片付け”くらいは、当然のマナーだと思っていた。なのに、ここには「誰がいつ片付けるか」のルールがない。
最初のうちは、そんな空気に戸惑った。
私の中の“理想の女性像”――家庭的で、気が利く存在――が崩れていった。
だけど、そんな“違和感”も、1ヵ月もすれば“日常”へと変わっていった。
誰かが食器を出しっぱなしにしていたら、気づいた人が洗う。同じ屋根の下に暮らす“家族”のような感覚。そこに、「女性らしさ」や「男性らしさ」は、まったく関係なかった。
私はようやく気づいたのだ。
恋愛対象として「女性」に向き合おうとするから、相手を理想化してしまう。
でも、共同生活を通じて「人」として向き合う時間が増えると、期待も幻想も剥がれ落ちていく。
「誰かがやらなきゃ」「気づいた人がやればいい」「その人に、ちゃんと感謝する」そんな自然な循環が、シェアハウスの中には確かにあった。
理想のパートナー像を追いかけていた頃の自分には、決して見えなかった景色だった。
シェアハウスでの暮らしは、私の中にあった「女性とはこうあるべき」という無意識の期待を、少しずつ手放させてくれた。
誰かを好きになるとき、その人が“自分にとって理想的か”ではなく、“どんな人としてそこにいるのか”に目を向けられるようになった。
不思議なことに、そうやって心に余裕が生まれたころ、自然と一緒にいて心地いいと思える人と出会えた。そして私は、その人と婚約した。
あのとき、シェアハウスで暮らすという選択をしていなかったら、きっと今の私はいなかったと思う。
恋愛や結婚を意識するあまり、他人に“理想像”を押しつけ、失望し、自分を責める。その繰り返しだった私が、ようやく人とちゃんと向き合えるようになったのだ。
だから私は、声を大にして伝えたい。
「本気で結婚したいなら、まずは“人と暮らす”ことから始めてほしい」
一緒に暮らすという行為には、思った以上に自分を知るヒントが詰まっている。そして、自分を知れば知るほど、“誰かと生きる”準備が、少しずつ整っていく。
それは、恋愛のテクニックやプロフィール写真の加工よりも、ずっと地道で確かな道のりだった。
***
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