糖尿病予備軍は最高のブートキャンプである
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記事:豊田高広(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「糖尿病予備軍です」と医師に告げられたのは、3年前のことだ。
定年退職とコロナ禍が重なり、新しい仕事を得ても、ほとんど外に出ないリモートワーク中心の日々。たちまち体重は5キロ増え、朝起きても体が気怠く、気持ちも晴れない日々が続いていた。そんな中で受けた健康診断の結果をもとに糖尿病専門医のもとを訪ねたとき、下されたのが「糖尿病予備軍」という診断だった。実は、私の父も母も糖尿病を患った末に亡くなっていた。診断結果を告げられた瞬間、横溝正史原作の角川映画のオープニング音楽とともに「呪われた血筋」という言葉が頭に浮かんだ。
糖尿病予備軍とは、血糖値が正常と糖尿病の間にある状態をいう。放置すれば多くの場合、数年以内に糖尿病に進行するが、生活習慣を改善すれば元に戻すこともできる、いわば「分岐点」に立っている状態だ。診断を受けた直後は、もちろんショックだった。だが同時に、四半世紀にわたり図書館司書として培った調査能力を生かす場ができるような、不思議な闘志も湧いてきた。
まず始めたのは、情報収集と家族会議だった。信頼できる医療情報を集め、食事の改善に着手する。医学調査のセオリーに従い、さっそく書店で日本糖尿病学会が編んだ『患者さんとその家族のための糖尿病治療の手びき 2020改訂第58版』(南江堂)を買い求めた。放置するとこうなるという怖い写真が載っていて、気が滅入った。
続いて米の量を減らし、野菜やタンパク質を増やす。お菓子をやめるのではなく、「どうせ食べるなら、少量で満足できる質の良いものを」と考え、楽しみは残しつつ、日常の食習慣を少しずつ変えていった。ナッツが大好きなのは助かった。妻も子どもたちも協力してくれたおかげで、我が家の食卓は以前よりも彩り豊かになったかもしれない。月1回の定例家族会議では、私が議長兼賄いとして高級和菓子を調達してふるまうことにした。
さらに、医師の勧めで医院併設のジムに通い、筋トレとウォーキングを開始。しかし現実は甘くなかった。3か月ごとに体組成計に乗っても、数字はほとんど動かない。努力しても結果が見えない期間は、想像以上に長く感じられる。「やっぱりもう年齢的に無理なのか」と、気持ちが萎えることもあった。
形勢が変わるきっかけは、仕事で生成AIを使い始めたことだった。最初は原稿の下書きや研修資料づくりの補助として使っていたが、今年に入り、天狼院書店主宰のAI関連講座に次々参加したことで活用のハードルが下がり、コツも色々教えていただいた。「これ、健康管理にすごく使えるのでは?」と思いつき、以前から気になっていた「スロージョギング」についてAIに相談してみた。田中宏暁『ランニングする前に読む本』(講談社)に紹介されていた走法だ。過去にランニングで膝を痛めた経験があるため、まずはAIにスロージョギングの批判的意見を調査させ、リスクと効果を洗い出す。そのうえで、膝を痛めずに効果を最大化する導入プログラムをAIに作ってもらった。さらに、それを実践しながら、定期的にレビューと改良案も提示してもらうことにした。
毎朝30分のペースで走り始めてみると、これが驚くほど快適だった。スロージョギングは、湯上がりに行うストレッチのように心地よく、走っているというより、体全体でリズムを味わう感覚に近い。息は切れず、膝にも負担がかからない。早朝で車の往来もほとんどないから、ヘッドフォンをつけ好きな本の朗読を聴きながら走っても大丈夫。気づけば「今日は走らないと気持ち悪い」と感じるほど、生活に溶け込んでいた。
1か月が経ったところで体組成計に乗ったところ、数字がはっきりと変わっていた。体脂肪率が減り、筋肉量は下半身を中心に増加。診断から3年、ようやく見えてきた「退役」の兆しだった。
振り返れば、この数年間はまさにブートキャンプの新兵だった。厳しい訓練というより、「生き方の総点検」をじっくりやらされた感覚だ。食事、運動、睡眠、ストレス管理。どれも当たり前のことだが、本気で取り組めば体だけでなく、心も、そして日々の判断力も研ぎ澄まされていく。健康リテラシーは、確実にこの期間で跳ね上がった。
糖尿病予備軍は、もちろん放置していい状態ではない。しかし、がっかりしてうなだれる必要もない。それは「呪われた血筋の証」ではなく、「もう一度、若返るための招集令状」だと思えばいい。医師は参謀、家族は友軍、生成AIは教官。そうして挑んだこのブートキャンプは、私に新しい習慣と体を、そして健康に生き続ける意欲を取り戻させてくれた。
もし、あなたが似たような診断を受けたとしても、それはこの世の終わりのラッパではない。むしろ、人生の新たな段階の始まりの号砲だ。戦場は自分の生活の中にある。そして味方は、想像以上に多い。糖尿病予備軍という名のブートキャンプでこそ、「呪い」は「祝い」となるに違いない。
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